陸上・駅伝

特集:第33回出雲駅伝

北海道大学の酒井洋明と高橋佑輔、初挑戦の出雲駅伝で鍵握る理系Wエース

2019年の出雲駅伝で1位で襷を受ける北海道学連選抜の酒井洋明(撮影・松永早弥香)

北海道大学が10日の第33回出雲全日本大学選抜駅伝競走(出雲駅伝)に初出場する。参加20チームで唯一の国立大学は、理系Wエースを軸に北海道予選会を突破、2年ぶりに開かれる学生3大駅伝の初戦で、強豪の関東勢などに挑む。

前回は首位で粘りの走り

駅伝シーズン開幕を告げる大会は昨年、コロナ禍で中止となった。2年前の大会で予想以上の健闘をみせたのが北海道学連選抜だった。今回も出場する札幌学院大のローレンス・グレ(4年、札幌山の手)が1区(8.0km)区間賞の好走をみせた。

中継所で襷(たすき)を受けたのが、北大の酒井洋明(修2年、須坂)だ。「グレ君が速いのはわかっていたので、もしかしたら1位で来るかもという気持ちはあったが、本当に1位で来て、最初はテンパった。学生3大駅伝のトップを走ることは、まあないと思うので」。強豪大学と力量差は当然、それでも「やってやる」と気持ちを入れ直した。5.8kmの2区を17分31秒でまとめ、区間14位と粘った。「作ってくれた貯金をだいぶ食いつぶしてしまったが、1位でもらって1位で渡せたことは少し意味があったと思う」。後続の札幌国際大、星槎道都大のメンバーらも持ち味を出して12位に食い込んだ結果、次回の北海道地区の出場枠を一つ増やすことになった。

研究室からオンライン取材に答える酒井

今回の出雲駅伝には北海道から単独2大学が出場することになった。今年7月、6選手の5000m合計タイムで競われた北海道予選会で、酒井は全体の4番目、北大トップの15分0秒08で走り、札幌学院に次ぐ2位で出雲切符をつかむ原動力となった。酒井は選抜チームで過去3回出雲を走ってきたが、北大としての出場に「格別な思いがある」と楽しみにしている。

酒井は2年前の粘りの走りの後、理学部から大学院生命科学院へ進んだ。毎朝、12、13kmを走ってから研究室に向かうのが日課だ。ポイント練習などは週2回こなしてきた。冬は積雪や路面凍結で一般道でのランニングは走りのバランスを崩す恐れもあるが、「氷の上を滑らないように走るには接地時間を短くしなくてはいけない。接地のタイミングを考え、短い接地時間で力を出す。それが、ロードにも生きると思い、雪の上をまじめにジョグしています」。札幌の冬を不利だとは感じてこなかった。

目立つ大学院生

学生長距離界では国立大の大学院生の活躍が目立つ。今回の出雲にも北信越学連選抜の坪井響己主将(信州大大学院2年)や東北学連選抜のエース松浦崇之(東北大大学院2年)が出場する。酒井は「東北大とは旧帝大として親交もあり、結びつきが強い。松浦選手とは心の内を知れている仲でライバルでもある。長距離は才能というより努力が大きなウェートを占めると思う。プラス2年間というのもあり、大学4年間の紆余曲折(うよきょくせつ)を乗り越えたところでピークがくるのかもしれない」と話した。来春には修士課程を終えて製薬会社に就職予定で、学生最後の大きなレースとなる。

東北大学の松浦崇之、エースは大学院で地球温暖化の研究中 東北地区代表
東北学連選抜の松浦崇之(撮影・辻隆徳)

学生中距離トップランナー

もう一人のエース高橋佑輔(4年、兵庫)は学生中距離界では知られた存在だ。高校3年でインターハイの800mで優勝し、現役で北大理学部へ進んだ。今年6月の日本選手権男子1500mでは3分40秒34の自己ベストで学生トップの4位に入った。

神戸から北の大地に渡ったインターハイ王者 北大陸上部・高橋佑輔

3大駅伝は初挑戦になるが、駅伝には熱い思いがある。「陸上を始めたきっかけが、小学生の時にでた駅伝大会です。駅伝から僕の陸上のルーツが始まった。目標の大会だったので、テンションが上がります。陸上はほとんどが個人種目の中、チーム全体で力を上げることができる。チームをまとめることができ非常にいいものだと思う」。高橋が高校3年生の時に北大は6年ぶりに全日本大学駅伝(2017年)に出場しており、北大進学時に駅伝の全国大会出場は目指した一つでもあった。

日本インカレ男子1500mで3位になった高橋佑輔(撮影・藤井みさ)

高校時代から一人で練習することが多く、自分のやりたいことをのびのびとできる北大の環境が合った。1500mに比べて5000mの自己記録は14分38秒11と決して速くはなく、練習では長距離系からアプローチしているという。東京オリンピックのマラソンコースにもなった大学構内など走る環境は整っている。オリンピックではボランティアも経験し、「いつもジョグしているところを、(優勝したエリウド・)キプチョゲが走ってすごく感動しました」と刺激をもらった。

日本インカレ3位

9月の日本インカレ1500mで優勝を狙ったが、アクシデントもあって3位に終わった。「ラスト250mぐらいで勝ちパターンに入った。もう1、2段階はスパートをかけられたんですけど……」。その瞬間、左足に違和感があった。タイムは日本選手権から5秒近く遅い3分45秒28だった。「あと2年間ある」。来春から北大大学院総合化学院に進む予定で、学生王者の夢はあきらめていない。

取材に答える高橋。初出場の北大はTシャツなど販売し活動費に

左足は肉離れと診断され出雲駅伝への影響も懸念されるが、できる限りの準備を進めている。本来なら最も短い2区(5.8km)で自慢の脚力を披露したかったが、「短い距離は出力も上がるので、チーム状況で任されるところで頑張りたい」と言う。鉄道旅行が趣味でもあり、「本州で島根だけ行ったことがなかったので楽しみです」。遠征費などもかかるため、「居酒屋のホールバイトをやっている」という地方の学生ランナーが、関東勢の有名選手とどんなレースを繰り広げるか興味は尽きない。

in Additionあわせて読みたい