陸上・駅伝

特集:第98回箱根駅伝

箱根駅伝3位目標の東京国際大 丹所健・山谷昌也のライバル2人がチームを引っ張る

箱根駅伝では総合3位を目標にしている東京国際大。上昇気流に乗っていけるか(写真提供・東京国際大学)

12月12日、東京国際大のオンラインによる箱根駅伝合同記者会見が開催された。今大会での目標は総合3位。上昇気流に乗るチームの今を大志田秀次監督と丹所健(3年、湘南工科大附)、山谷昌也(3年、水城)に聞いた。

総合3位目標「それを形にするのが私の役割」

チームは今シーズンの始動時に、「出雲駅伝初出場初優勝、全日本大学駅伝と箱根駅伝は過去最高順位」を掲げてスタートした。目標通りに出雲駅伝では初出場初優勝を成し遂げ、「東京国際大学」の名前を陸上界以外にも知らしめる機会となった。11月の全日本大学駅伝では5位と2年前の4位には届かなかったが、トップで走る場面もあり、着実なチームの成長を感じさせた。この結果を受けて、箱根駅伝の目標も改めてチームで考えたという。過去最高は2大会前の5位のため、順当に考えたら「4位」が目標となるが、そこを1つ上げて3位を目標と掲げた。目標は選手たちで話し合い、大志田監督はそれを受けて「その掲げた目標を形にしていくのが、私の役割です」と話す。

大志田監督は16人を選ぶのにかなり迷ったという(写真提供・東京国際大学)

エントリーメンバーの16人を選ぶのに、大志田監督はかなり迷ったという。3年連続で箱根を走っている芳賀宏太郎(4年、学法石川)、出雲、全日本を走ったルーキーの佐藤榛紀(1年、四日市工)がメンバー外となった。その理由として、芳賀は就職活動の実習が長引き、満足な練習がこなせなかったこと、佐藤は練習がトラックレース中心となってしまい、箱根に向けて走り込む体力をつけられなかったことを挙げた。「(平地の区間については)これまでの駅伝や記録会の結果を見て決めましたが、特殊区間は非常に悩みました。最後はもう心を決めて『これでいく』と判断しました」

留学生のイェゴン・ヴィンセント(3年、チェビルべレク)は今まで出走した駅伝ではすべて区間賞を獲得。関東インカレ2部5000m、10000mでともに優勝し最優秀選手に選ばれるなど、学生にとどまらず世界と戦えるトップレベルの実力の持ち主だ。しかし今年はヴィンセント以外の日本人選手たちも大きく力を伸ばしている。特に好調なのが、3年生の丹所と山谷だ。

練習を継続、日本人エースに成長した丹所

丹所は9月の日本インカレ5000mで3位となると、出雲駅伝ではエース区間の3区を担当し、区間2位の走りで単独トップに浮上。初優勝への原動力となった。続く全日本大学駅伝では右足足底のけがでエース区間を回避したが、6区で区間新・区間賞の走り。「日本人エース」と呼ばれるにふさわしい結果を残してきた。成長の要因については「練習を継続できていること」をあげる。「自分は継続的に練習して力を伸ばすタイプだし、それが一番の近道だと思ってやってきました。ケアにも気をつけています」

出雲駅伝後に2週間走れなかった際も、体幹トレーニングなどに加え、心肺機能を落とさないようにバイクなどを取り入れてその時にできることをしっかりと準備していた。大志田監督も丹所の取り組みと成長を評価し、「実力をつけて、東京国際の日本人エースという呼び方をされているのを見るとうれしく思います」と教え子の成長を喜ぶ。

丹所は全日本大学駅伝では6区を走り、区間新区間賞の快走(撮影・藤原伸雄)

横浜市出身、湘南工科大附属高校に通った丹所にとって、箱根駅伝はつねに身近なものだった。中学で「体力があるから」という理由で陸上部を選び、高校に入ってから箱根駅伝を具体的な目標として目指すようになった。それだけに箱根への思いは強い。しかし入学から2年連続で1区を走ったが、1年時は区間13位、2年時は区間14位と満足いく結果を残せていない。特に前回大会はレース前の調子もよく、ある程度自信のある中で臨んだ結果だった。「情けない結果で終わって、そこでもっと頑張らないといけないと思わされました。その悔しさをばねに、3年になってから試行錯誤して頑張ったのが、今につながっていると思います」

前回大会でも100%の力を出せば、区間5位は狙えたはず。何が足りないかと考えた時に、ピークを合わせられなかったことが原因だと思い当たった。そこからシビアに自分の体と向き合い、監督やコーチ友相談し、体がつらいときは練習量を減らし、足りない時はペースを上げたり、練習量を増やすなどの工夫をしてきた。その結果、試合で100%の力を発揮できるようになったのだという。箱根駅伝では「3区しか頭にないです」。「自分がもし3区ならヴィンセントが2区になって、やっぱりトップで来ると思うので。自分で決めたペースを守って、その区間では日本人最高記録を目指して、チームに勢いをつける走りができればいいと思います」。入学時からは想像もできなかった成長。しかし「日本人最高記録」を口にしてもおかしくないほど、丹所の実力は高まっている。

スピードを生かし1区を希望する山谷

その丹所が「ライバル」と思っているのが山谷だ。大志田監督も「彼の復調がチームに流れを生んでいる。彼が使えないと、レース構想は難しいと思う」と評する。山谷は水城高校で全国高校駅伝を3年連続で走り、1年時から箱根駅伝16人のメンバーに入った。しかしこの時は体が距離に適応していない中で長い距離に向けた練習を積んだことで、疲労がたまっていることに気づかず右足膝を痛めてしまった。

2年時は全日本大学駅伝のメンバーに選ばれ、1区を担当。しかしエントリー発表前の合宿で右足の足底を痛めてしまい、メンバーには入れなかった。2年間の悔しい思いがあり、今年こそはという思いでシーズンを始動したが、原因不明の不調に悩まされた。そんな時にモチベーションになったのが、丹所の存在だ。「丹所がいるからこそ負けていられないな、と思っていました。自分がここまで戻ってこられたのは、丹所のおかげだと思います」と同級生の存在の大きさを語る。

大志田監督も山谷を重要な選手だと話す(写真提供・東京国際大学)

夏合宿では前半Aチームでの練習をしていたが、不調が続いており、他のメンバーと同じ練習をこなすことができなかった。自分なりに考え、後半からはBチームに合流。Aチームよりも設定ペースなどが遅く、そこで練習をしっかりやりきったことによって、山谷は自信を取り戻すことができた。「それが、戻ってこられた原因だと思います」。そして駅伝シーズンには出雲駅伝1区でトップと5秒差の区間3位、全日本大学駅伝では2区を担当して区間6位だった。

全日本大学駅伝では本来は山谷が1区、丹所が2区、ヴィンセントが4区という形で構想が進んでいた。しかし丹所のけがが完全に治りきっていない状態では、2区は厳しいのではと思われた。「全日本の2区にはエース級の選手がそろうので、丹所に負担をかけたくなかったというのと、戦える自信があったので、監督に自分から(2区に行くと)言いました」。出雲駅伝後の記録会で10000m28分11秒94の自己ベストを出した自信もあった。自分の走りで先頭に押し上げたいと考え、はじめは先頭集団についたが、終盤につれて順天堂大学の三浦龍司(2年、洛南)や早稲田大学の井川龍人(3年、九州学院)がペースを上げ、最後は離されてしまった。区間5位で、トップとは21秒差となった。

万全ではない丹所に代わり、2区に行くと志願した山谷。力不足を感じつつも収穫と語る(撮影・岩下毅)

「純粋に力不足で、まだまだトップとの差を感じました。でも課題が見つかったので、箱根までに修正していけば今度はいける、という手応えも感じられる結果になりました。2区にいってよかったです」。山谷が箱根駅伝で希望する区間は1区だ。入学時からずっと1区を希望して、こだわりを持って今までやってきた。「自分の持ち味はスピードだと思ってます。集団で走って粘って、ラストスパートで勝負するのが自分にあっていると思います」

「ヴィンセントに頼らない駅伝を」

丹所も山谷について「圧倒的なスピードがあるので、あの力があればもっと上に行けると思う」と見ている。逆に、山谷は丹所について「安定感がすごい」と評価している。「1年間通して質の高い練習ができて、大舞台でも結果を残しているので、かなわないなと思います」。ライバルであり仲のいい同級生2人が強く思っているのは、「ヴィンセントに頼らない駅伝をしよう」ということだ。

丹所と山谷、それぞれの存在がお互いの刺激となっている(写真提供・東京国際大学)

ヴィンセントは圧倒的な実力を持ち、1人でゲームチェンジャーとなれることもあり、どうしてもチームがそこに頼ってしまうような雰囲気のこともあった。そうではなく、自分たちだけでも他大学の選手と戦えるように、とずっと話してきたという。出雲駅伝ではアンカーのヴィンセントにトップで襷(たすき)を渡せて、取り組んできたことを証明できたという思いもあった。

大志田監督は野澤巧理(4年、白鴎大足利)、堀畑佳吾(3年、大阪)、村松敬哲(2年、浜松商)らの名前をあげ、「非常にいい練習ができているので、留学生、山谷、丹所の次にそういった選手が走ってくれば、面白い結果になってくると思います」と中間層の選手にも期待をかける。一つ勝つことで、チームはより高みへ。箱根路ではどのように上位争いに絡んでくるだろうか。

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