陸上・駅伝

特集:第98回箱根駅伝

箱根駅伝14位の明治大・山本佑樹監督「私の采配ミス」、レースを作る難しさを痛感

明治大は1区に手嶋(左)、2区に鈴木とダブルエースで流れを作る作戦だった(撮影・北川直樹)

第98回箱根駅伝

1月2・3日@東京・大手町~箱根・芦ノ湖間往復の217.1km
明治大学
総合14位(往路17位、復路3位)

箱根駅伝で明治大学は「総合5位以内」を目指していたが、1区から出遅れて往路17位。復路3位と快走するも、一度もシード圏内に浮上することなく総合14位で終えた。山本佑樹駅伝監督は「私の采配ミスが大きかった」と悔しさをかみしめ、「自分でレースを作って最後に勝ちきる強さ」への課題を強く感じた。

明治大・山本佑樹監督、箱根駅伝は堅実に総合5位以内を 古豪復活の礎を築く

トラックシーズンから結果を出し、駅伝シーズンへ

前回大会で明治大は10位の東京国際大学と26秒差での11位でシード権を逃した。その悔しさを胸に、チームは鈴木聖人駅伝主将(4年、水城)が中心になって「速さだけでなく強さ」を求め続け、昨年5月の関東インカレ男子2部では複数の選手が入賞。9月の日本インカレには出場せず、駅伝シーズンに向けて皆が気持ち一つで走り込みをしてきた。

その成果は10月の箱根駅伝予選会で現れる。明治大は2位の中央大学に4分16秒の大差をつけて1位通過を果たし、2週間後の全日本大学駅伝では途中に3位争いをしながら、最後は7位で2大会連続のシード権を獲得した。11月のMARCH対抗戦でも10000mで多くの選手が自己ベストを更新。鈴木は全日本大学駅伝では直前にけがをしてしまいエース区間を外れたが、以降は強度の高い練習もしながら箱根駅伝に向けて調整を続け、鈴木を含むエントリーメンバー入りした16人が万全の状態で箱根駅伝に臨んだ。

「スタートから流れを作る」という狙いで、山本駅伝監督は1区に手嶋杏丞副将(4年、宮崎日大)、2区に鈴木と、チーム内で最も力のある2人を並べた。鈴木が過去2大会で走った5区には、11月の激坂最速王決定戦男子登り13.5kmで7位(学生6位)につけた下條乃將(だいすけ、3年、東京実業)を起用。これまで2区の選手には耐える走りを求めてきたが、今大会では1~4区で攻めて5区で耐え、復路に流れをつなげられればと考えた。

流れに乗れず往路17位、「シード権」を目標に復路で追い上げ

迎えた箱根駅伝、1区で中央大学の吉居大和(2年、仙台育英)が6km過ぎから独走し、10kmを27分台で通過する高速レースを展開。2位集団とは10km地点で30秒以上、蒲田(15.4km地点)では1分18秒も差が開いた。手嶋は2位集団の前方でレースを進めていたが、16km過ぎに関東学生連合チームの中山雄太(日本薬科大3年、花咲徳栄)がペースを上げると2位集団は縦長になり、手嶋は後れをとる。最後は13位で鈴木に襷(たすき)をつないだ。

前には複数の選手が見えていたこともあり、鈴木は続く後輩のためにも最低限順位をキープし、追い上げやすい位置で襷を渡すことを考え、イーブンペースで走ることをイメージしていた。16位から追い上げた早稲田大学の中谷雄飛(4年、佐久長聖)が前に出る。中谷のペースで走って後半の坂までもつのか鈴木は悩み、後ろにつかない。山本監督の目にもいつもの鈴木らしくない走りに見えた。最後に東海大学を抜き、14位の日本体育大学と5秒差での15位で児玉真輝(2年、鎌倉学園)に襷をつないだ。鈴木はこれまでに1区、5区、5区を走ってきたが、「本当にプレッシャーが大きくて、“花の2区”を走るにはそれなりの覚悟をもって走らないといけないと痛感させられました」。前半から勇気を出して突っ込んだ走りができなかったことに大きな後悔を残した。

前回大会で1区16位だった児玉(中央)。今大会では3区で流れを変える走りが求められた(撮影・藤井みさ)

流れを変えるべく、山本監督は「前半から積極的に走って前に出よう」と児玉に声をかけ、12位争いをしていた順天堂大学や早稲田大、神奈川大学を追った。しかし後半にペースを落としてしまい、16位で小澤大輝(3年、韮山)に襷リレー。小澤は区間7位の走りで順位を14位に引き上げ、5区の下條につないだ。想定よりも悪い順位で襷を受け取ったことに下條は気持ちが焦ってしまい、思うようにペースが上がらない。区間18位と苦しみ、17位でフィニッシュ。目標を「シード権(10位以内)」に切り替え、10位の東海大との3分1秒差を視野に入れて復路に臨んだ。

6区の杉本龍陽(3年、札幌日大)で順位は17位から16位へ。小田原中継所で待ち構えていた富田峻平(3年、八千代松陰)は大きな声で杉本を呼び、襷を受け取るとグングン加速した。富田は前回大会、8区で大保海士(現・西鉄)が区間賞の走りで11位に押し上げた中で襷を受け取り、シード権を目指して走ったが、順位を上げられなかった。「11位という悔しさを一番感じていたのが富田だったと思う」と山本監督は言う。区間2位の快走を見せ、順位を14位に押し上げた。

富田(左)は走り出す前、大きな声を出して杉本を呼んだ。「普段見せないような姿で、なんとかしようという気持ちが伝わってきた」と山本監督は言う(撮影・北川直樹)

8区の櫛田佳希(3年、学法石川)は14位を守り、9区の加藤大誠(3年、鹿児島実業)は15位に落としたが、アンカーの橋本大輝(4年、須磨学園)が意地を見せ、区間4位と快走。最後は14位でゴールした。

箱根駅伝で勝つことの難しさ

トラックシーズンから好成績を残し、箱根駅伝予選会と全日本大学駅伝でも力を示したが、箱根駅伝では今年も苦汁をなめた。「箱根という舞台で結果を出すために選手たちをどう導くか。他大学の監督さんに比べてコーチング能力が足りないと痛感させられました」と山本駅伝監督は苦しい胸の内を明かす。

箱根駅伝の直前には帝京大学と同じ場所で練習をする機会があり、中野孝行監督に「うちは明治さんのような練習ができる選手はいないですよ」と言われたという。「私の感覚としては、『でも箱根では負けませんよ』と言われているような気がして、箱根に特化した中野さんの経験値、コーチングの采配では後れをとっていたんだろうなと、今では感じています」。8位で4年連続シード権を獲得した國學院大學の前田康弘監督と、10位で3年ぶりのシード権を手にした法政大学の坪田智夫監督は、山本監督の同級生でもある。「中野さんや前田、坪田も試行錯誤して結果を出しているので、改めて箱根は奥が深いというか、色々と考えてやっていかないと戦えない駅伝だなと思いました。トラックレースや予選会などを一つひとつ乗り越えて、最後に箱根という意識で戦ってきましたが、箱根に照準をあわせて1年戦っていかないといけないと感じています」

全てを出し切ったアンカーの橋本(左)を手嶋(中央)が受け止めた(撮影・藤井みさ)

またこの1年、選手には勝ちきる強さを求めて指導をしてきたが、それだけは足りないことを実感。日々の練習では様々な能力を引き出すためにタイム設定をした上で選手たちを走らせてきたが、更に踏み込み、どんなレース展開になったとしても自分でレースを組み立て、積極的に攻められるだけの力が必要だと感じている。「やることが増えるというか、頑張らないといけないポイントはまだまだ多いなと思っています」と山本駅伝監督は前だけを見ている。

鈴木主将、元旦のニューイヤー駅伝で後輩たちに刺激を

今年の箱根駅伝を走った4年生は鈴木、手嶋、橋本の3人だったが、昨年7月に1500mで3分39秒91(日本学生歴代9位)をマークし、箱根駅伝のため夏に中距離から長距離に転向して走ってきた佐久間秀徳(4年、國學院久我山)も6区の候補に挙がっていた。下りの適正もハーフマラソンの力も杉本と五分。ただ6区はラスト3kmに上りがあることも含め、最後に力を絞り出せるかという意味で、日々の練習でもレースでも結果を出してきた杉本が選ばれた。佐久間は万が一に備えて最後まで調整を続け、当日も付き添いとして杉本をサポートした。佐久間はこれで競技生活を終えるが、「最後まで立派に支えてくれました」と山本監督はたたえる。

卒業後は旭化成に進む鈴木は、これからも後輩たちに刺激を与えられるような走りを目指す(撮影・松永早弥香)

卒業後、鈴木と手嶋は旭化成へ、橋本はSGホールディングスへと進む。鈴木は唯一箱根路を4回走っているが、一度も満足のいく走りができなかったという。「もうやり直すことはできない。でもここからはい上がって実業団で結果を出して、後輩に刺激を与えられるような走りがしたいです」。今年の1月1日のニューイヤー駅伝で中央大OBの舟津彰馬(九電工)が1区区間賞で走る姿を鈴木も見ていた。「中央大学の選手はあの走りに勇気づけられたと思います。自分もあの舞台で結果を出したいです」。卒業していく4年生たちは、これからも後輩たちに背中を見せていく。

in Additionあわせて読みたい