アメフト

一般社団法人化が「強くなりたい」を後押しする 東大アメフト部税理士・高橋和也

高橋さんは東大アメフト部の一般社団法人東大ウォリアーズクラブの顧問税理士としても活動している(写真は本人提供)

大学運動部による一般社団法人設立支援業務なども手がける高橋和也税理士事務所の高橋和也さん(47)は、東京大学アメリカンフットボール部ウォリアーズの「一般社団法人東大ウォリアーズクラブ」の顧問税理士としても大学スポーツを支援している。ただ高橋さん自身はアメフトの経験がなく、そもそも税理士になったのも43歳の時だった。「動いてみたら何かしらうまく回ることもあると思うんですよね」と高橋さんはほほえむ。大学運動部が一般社団法人を設立する意義も含め、話をうかがった。

35歳で退職後、税理士になるため8年勉強

兵庫県加古川市で生まれ育った高橋さんは、中学の時にバレーを始め、加古川東高校でもそのままバレーを継続。3年生の時には主将としてチームを支えたが、「成績は県大会のベスト16とか32とか。私はそんな身長が高くないですし、チームメートも飛び抜けてうまい人もいなかったので」と高橋さん。3年生の夏前に引退し、そこから本腰を入れて受験勉強。大阪市立大学法学部に合格したが、当初から税理士を志していたわけではなく、得意科目を生かせる大学と学部を考えて選んだ道だった。

中学・高校時代はバレーに打ち込み、高3の時には主将を務めた(右端が高橋さん、写真は本人提供)

大学では「楽しくバレーがしたい」という思いからバレーサークルに所属。ただ、アメフト部に関わるようになった今は、アメフトをやっておけばよかったという気持ちがある。「自分がやったらどこまでいくのかなと。(バレー部出身で)ジャンプ力があるのでWR(ワイドレシーバー)がいいな。ワンハンドキャッチとかすごいですよね。アメフトの花形はQB(クォーターバック)だけど、自分はそんな主役になりたいわけではないですから」

卒業後は大手機械メーカーに就職し、営業を担当。仕事にやりがいを感じていたが、業績不振で所属していた事業部が他社と合併することになり、退職する人が相次いだ。そんな様子を目の当たりにした高橋さんは、会社に依存して生きていく難しさを実感し、社会人12年目に独立することを決意。35歳、子どもも2人いた。「ある程度の収入を確保するため、いきなり独立するのではなく国家資格をとろうと考え、だったら税理士がいいのかなと思うようになりました」。都内の会計事務所で働きながら税理士の勉強を始めた。

収入は激減し、何度も気持ちが折れそうになったが、この苦しい状況から抜け出すためにもやるしかないと自分を奮い立たせた。そして2017年、税理士試験を突破。高橋さんは43歳の時に税理士として新たなスタートを切った。

一般社団法人化の2つのメリット

税理士として個人事業主や会社など幅広くサポートする中で、高橋さんは「自分の強み」を考えた。会計事務所では社団法人や財団法人に関わる仕事をしていたこともあり、それを税理士として生かすことができるのではないか。

そんな時、東大アメフト部が日本一を狙える強豪になるために一般社団法人を設立し、18年8月から本格的に活動するというニュースが目に飛び込んだ。代表理事だった好本(よしもと)一郎さんとは高橋さんがマネーフォワードに寄稿していた原稿で縁があり、マネーフォワードの担当者にお願いして好本さんにつないでもらった。高橋さんとしては「勉強させていただきたい」という思いで好本さんに会ったのだが、その話の中で顧問税理士を任されることになった。大学運動部の一般社団法人の業務としては現在、東大アメフト部だけだが、相談自体は大学・競技を問わず複数の大学運動部から相談を受けているという。

高橋さん(右)は18年10月に一般社団法人東大ウォリアーズクラブの顧問税理士に就任した(三沢英生監督と、写真は本人提供)

大学運動部が一般社団法人を設立するメリットはまず、資金調達にある。監督個人名の口座ではなく、法人が管理した口座を用意できるため、企業からの支援金を募る際のコンプライアンスをクリアできる。

「支援したい」と企業に思ってもらえるような魅力作りも欠かせない。東大アメフト部は学生主体でホームページやSNSを通じて情報を発信しており、企業への営業にはOB・OGだけでなく学生も同席し、学生自身の言葉で自分たちの魅力を伝えている。「社会に出てやるようなことを学生の内から経験できるのは大きいと思います。どういうふうにアピールしたら企業に伝わるか、自分たちの強みは何かを考える。実際にそこで支援が生まれれば、覚悟も芽生えるでしょう」。高橋さんも会計に関して学生とやり取りをすることがある。「学生たちはすごい考えて動いてくれますし、しっかりしていますよ。だからだらしない回答はできないな、お手本になるようにしないといけないな、と思いながら接しています」と高橋さんは言う。

また、会計の透明化や監督の人事権などのガバナンスの確立という役割が一般社団法人にはある。資金がどのように流れているのか、1人の監視下ではなく法人として管理する。監督などのスタッフを誰が任命して誰が解任するのか、組織としてルールを明確化できるきっかけにもなるだろう。

部を強化するためにできること

ただ高橋さんは必ずしも、全ての大学運動部が一般社団法人を設立した方がいいとは言わない。「アメリカのように大学が責任をもって部を支援・管理するのがベストだと私は思っています。ですが特に国公立大学ではまだまだ大学の支援も関与も限られているのが現状ですし、一般社団法人を設立して資金調達力をアップさせることは部の強化につながると考えています」。例えば東大アメフト部は17年に森清之ヘッドコーチ(HC)を招へいし、翌18年、BIG8で優勝して国公立大で初めてTOP8に昇格した。「プロのHCを招へいするにはもちろんお金がかかります。東大アメフト部の場合、一般社団法人を設立したからこそ、現在も森HCに継続して指導してもらえています」

多くの人々に支えられているチームだからこそ、責任がある。学生たちはOBの弁護士によるコンプライアンス研修などからも学びを得ている(撮影・北川直樹)

今後の取り組みとして、高橋さんは大学運動部への寄付にふるさと納税が活用できないかと構想している。大学単位ではすでに大阪府立大学(22年4月より大阪公立大学)がふるさと納税を活用した「府大・高専基金(つばさ基金)」を実施している。「ふるさと納税は寄附金控除よりも控除の対象が多いですし、一般の方もより気軽に活用できると思うんです。大学運動部を統括するような組織が審査などを担ってくれたらハードルが下がると思うんですが、これからの課題ですかね」。東大アメフト部に限らず、高橋さんは大学運動部のためにできることを考え続けている。

高橋さん自身はバレー部に所属してきたものの、子どもの頃からテレビを通じてスーパーボウルやNBAなど、様々なスポーツに親しんできた。「大人になってこうしてスポーツに関わるのは素直に楽しいです」。スポーツが好きという気持ちも、税理士として働く高橋さんの原動力になっている。

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