サッカー

早稲田大・外池大亮監督「チャレンジの積み重ねが伝統になる」100年史も学生の手で

外池監督は「まずやってみよう」という姿勢を学生に求めている

早稲田大学ア式蹴球部は、変化を恐れることはない。元プロサッカー選手でマスコミ・広告業界で働いた経験も持つOBの外池(とのいけ)大亮監督(46)は、きっぱり言う。「学生たちには、いまトライしていることに肯定感を持ってもらいたいのです」

関係各所の確認を取ることで物事が一向に進まなくなれば、本末転倒。大学はチャレンジの場だという。リスク管理的な動きも含めて、主体的に、そこに活動を生み出していく。コロナ禍の影響もあり、閉塞感が漂う現代社会だからこそ大人が責任を持つことの必要性を説く。

「監督の私が責任を持つから、『まずやってみよう。失敗しても、ミスしてもいいから』と話しています」

学生が作る部のYouTube

動画制作について並々ならぬ熱意を持つ平川功主務(2年、作陽)が中心となってYouTube番組を制作し、情報を発信するのもその一つ。かつての体育会系のイメージからはかけ離れ、従来の価値観を覆すような取り組みである。演出に力を入れ、バラエティ番組さながらの仕上がりだ。司会は部員が務め、ひな壇に選手たちが並んで、軽快なトークを繰り広げる。部員の浪人生時代を語る回もあれば、全国高校選手権について話す回もある。競技面だけをクローズアップするのではなく、人柄がにじむようなエピソードも出てくる。キャスティングにもこだわり、Aチームの主力だけではなく、テーマに合わせてBチーム、Cチームの部員も登場させている。外池監督が学生たちの取り組みを阻害することはない。

「一部では『チャラチャラして、サッカーと関係のないことをやっている』と言われたりもしましたが、一人ひとりの背景を尊重して、チームづくりをしていることを伝えていくことは大事です。伝え方と伝わり方の狙いと根拠を導き出していること。それがあれば、どんどんやっていいと話しています」

動画の最後にテロップで「協力:外池大亮」と流れた時は外池監督自身も少し驚いたものの、相談に乗って壁打ちの相手になっているのも事実なので、そこは学生からの愛情表現と捉え、あえて何も言わなかった。

考え、行動し、悩み、失敗しながらもそこから何かを得てほしい

noteも「プロデュースしているのは学生」

学生の情報発信には、大きな意味を見いだしている。学生主体で運営する部員ブログもしかり。自分をさらけ出し、競技での葛藤や人生の悩みなどを赤裸々に綴る日記は、投稿プラットフォーム「note」で配信している。昨年12月28日に更新された新チームの主将を務める柴田徹(3年、湘南ベルマーレU-18)の日記は、思いがあふれ過ぎて、6000字を超えるほどの大作になっていた。

「私もチェックしますが、基本的に部員ブログを管理し、プロデュースしているのは学生です。学生の編集者がテーマ選びから文章の構成まで、細かく見ています。書き直しを命じたりもしています。ブログを書く部員たちも、アウトプットすることで気づくことがありますから」

100年史も学生の手で

ア式蹴球部は2024年に創部100周年を迎える。全日本大学選手権(インカレ)では史上最多となる12回の優勝を誇り、日本サッカー史に名を残す偉人も数多く輩出してきた。1964年の東京オリンピックで活躍した川淵三郎さんは初代Jリーグチェアマンとなり、68年のメキシコオリンピックで初の銅メダル獲得に大きく貢献した釜本邦茂さんは日本代表の歴代最多得点者として、今も語り継がれている。歴史がたっぷり詰まった100年史の制作は、現役の学生が主体となり、すでに動き出している。

「これまでの100年を捉え、そこから先の在り方を学生自身が様々な形で提案することに意義があると思っています。栄光の時代だけではなく、東京都リーグに落ちた時代もありました。ここまで守り続けてきたものは何か。今、変えるべきことは何なのか。伝統と歴史をこれからの力に変えていってもらいたいと思います。伝統とは革新です。チャレンジの積み重ねが伝統になる、と思っています」

今のこの挑戦も伝統として次の世代へ(右端が外池監督)

OBとの融合チームで目指すもの

外池監督は、更に新たな改革を進めようとしている。現在、Bチームの強化を主目的として社会人リーグを戦っているが、大学スポーツのコミュニティーをより強固なものにするために、OBとの融合チームでの参戦を模索中。発想はラグビーの“オール早稲田”である。

「対戦相手として企業で働くOBとの接点はありますが、同じチームでサッカーを通じてコミュニケーションを取れれば、もっと刺激を受けるはずです。生涯スポーツのマインドセットなど、これからの時代に適応した社会とのつながりもできます。東伏見の練習場にふらりと訪ねてくるOBと一緒にボールを蹴るのが理想。本業が忙しくてあまり来ることがない20代、30代の社会人と話す機会が増えれば、社会で活躍する具体的なイメージを抱きやすいと思います。管理体制と合わせて、進化していけると面白いですよね」

大学卒業時は母校のことが嫌いだったOBの指揮官も、今は早稲田大学校歌3番の歌詞に共感を覚えている。

『集り散じて 人は変れど
仰ぐは同じき 理想の光』

継承すべきものは継承し、新たな道を切り拓(ひら)いていくつもりだ。

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