陸上・駅伝

特集:2022日本学生陸上競技個人選手権大会

早稲田大・菖蒲敦司「世界」を目指して3000mSCに復帰、「強い早稲田」を見せる

「ラストはお前の勝ちだから」という相楽監督の言葉に自信を深め、ラスト1周で勝ちきった(撮影・藤井みさ)

2022日本学生陸上競技個人選手権大会 男子3000m障害決勝

4月17日@レモンガススタジアム平塚(神奈川)
優勝 菖蒲敦司(早稲田大3年) 8分40秒57☆大会新記録
2位 服部壮馬(順天堂大2年) 8分45秒84☆大会新記録
3位 山口翔平(帝京大1年) 8分48秒11☆大会新記録
4位 大沼良太郎(城西大1年) 8分49秒50☆大会新記録
5位 内田賢利(立教大3年) 8分49秒89☆大会新記録
6位 花谷そら(福岡大3年) 8分54秒73
7位 小原響(青山学院大3年) 8分56秒24
8位 九嶋大雅(日本体育大4年) 8分56秒30

4月17日の学生個人選手権最終日、男子3000m障害(SC)で早稲田大学の菖蒲敦司(3年、西京)はラスト1周で首位に立ち、そのまま逃げ切った。3000mSCは昨年6月の日本選手権で引退したつもりだった。「世界を狙えるなら3000mSCをやろうと決めました」と、菖蒲は世界に向けて再スタートを切った。

早稲田大・菖蒲敦司、1500m2位と3000mSC1位 三浦龍司という壁に挑む

耐えて耐えて、ラストに勝ちきる

今大会は6月26日~7月7日(陸上は6月30日~7月5日)に中国・成都で開催予定のFISU ワールドユニバーシティゲームズ(WUC)の選考も兼ねており、すでに参加標準記録(8分40秒)を切っていた菖蒲は優勝だけを狙い、日本代表内定を目指していた。

今大会の出走メンバーには、昨年6月のU20男子3000mSCを大会新記録(8分39秒19)で優勝している服部壮馬(2年、洛南)の姿。昨年5月の関東インカレでも、最後は服部との勝負となった。相楽豊監督からは「1000mから2000mを耐えられたら、ラストはお前の勝ちだから」と言われ、菖蒲もラストが勝負だと考えていた。

ラスト1周で菖蒲(左)は服部の背中を捉えた(撮影・藤井みさ)

レース開始からすぐに服部が飛び出す。昨年5月の関東インカレと同じ展開に菖蒲も少し焦ったが、プラン通り、前半を抑えて後半にかけていた。2位集団の2、3番手でレースを進め、2000mを過ぎてから集団を突き放し、服部を追う。ラスト1周、菖蒲は服部のすぐ後ろにつき、バックストレートで一気に突き放す。見る見る間に差が開き、菖蒲は笑顔でフィニッシュ。出走者一人ひとりと握手を交わし、トラックをあとにした。

「陸上頑張れよ!」、家族の言葉に救われて

菖蒲は昨シーズン、出雲駅伝で1区区間2位、全日本大学駅伝では4区区間5位の走りで2位をキープし、自身初となる箱根駅伝に向けて調子を上げていた。しかし直前にけがをしてしまい、チームのサポートにまわった。「駅伝三冠」を目指していた早稲田大は、その最後の舞台となった箱根駅伝で総合13位となり、3年ぶりにシード権を落とした。

今年1月23日に予定されて都道府県駅伝は、新型コロナウイルスの影響で直前に中止。気持ちが沈んでしまった菖蒲は1月、まったくといってもいいほど走らなかったという。そこで1度、地元・山口に帰省した。「陸上をやる気が起きないくらい落ち込んじゃって、そこにコロナのこともあって……。でも帰省してリフレッシュができたし、家族に『陸上頑張れよ!』と改めて言ってもらえて、自分も頑張ろうという気持ちになれました」

家族の一言で、菖蒲の心も決まった(撮影・松永早弥香)

練習を再開してからは自発的に距離を踏み、3月13日の学生ハーフに出場。アクシデントもあって1時間4分47秒と苦しいレースになったが、「冬の走り込みがうまくいっていますし、現状を確認できたので、トラックシーズンに入る前に出場できて良かったなと思いました」とポジティブに捉えている。

「駅伝二冠」はぶらさない

菖蒲は今大会で結果を残し、WUC日本代表の選考対象者となったが、他の種目との兼ね合いもあり、メンバーには選ばれなかった。「入学した時から世界で戦うことが目指してきたので」と今大会にかけてきただけに悔しさも大きいが、「強い早稲田」を見せると誓った菖蒲はただ前だけを見ている。

今シーズン、早稲田大は鈴木創士主将(4年、浜松日体)のもと、「駅伝二冠」を目標に掲げ、様々な改革に着手した。チームの変化を菖蒲も感じている。

「このままでは駄目だということはみんなが分かっていたことでしたし、自分も本当に陸上に費やす時間が増えたなと感じています。『駅伝二冠はぶらすことなく目指していきます。これまでは先輩たちについていくだけだったんですけど、4年生は少ないですし、これからは自分たちの学年が引っ張っていかないといけない、と同期で話しています。3年生が核となってやっていきたいです」

三浦龍司の姿に芽生えた思い

チームに勢いをもたらすためにも、自分がトラックシーズンから結果を出していきたい。目指すは今年7月にあるオレゴン世界陸上の参加標準記録である8分22秒越え。3000mSCで世界を狙うのであれば、必然的に同学年でもある三浦龍司(順天堂大、洛南)との勝負になる。菖蒲自身、三浦が昨年の東京オリンピックで走る姿を見て、再び3000mSCを志したという。「ライバルとは言えないですけど、同級生として尊敬していますし、しっかり背中を追ってやっていきたいです」

(左から)山口、菖蒲、花谷の3人でYポーズ(撮影・藤井みさ)

実は今回のレースには、菖蒲と山口翔平(1年、西京)と花谷そら(福岡大3年、聖光)と、山口出身の選手が3人おり、特に菖蒲と山口は西京高校の先輩・後輩だ。スタート時には菖蒲と山口は隣同士。「今後こんなことはなかなかないだろうし、やっぱりうれしかったですね」と菖蒲は笑顔で振り返った。ゴール後、3人そろって山口のYでポーズをとり、写真撮影に応じた。

地元・山口への思いも胸に、菖蒲敦司は勝負となる3年目に挑む。

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