陸上・駅伝

特集:第91回日本学生陸上競技対校選手権大会

東海大・飯澤千翔が日本インカレ1500m優勝 スピードを磨き、世界と戦える強さを

3年ぶり2度目の優勝を果たし、笑顔を見せる飯澤(撮影・すべて藤井みさ)

第91回日本学生陸上競技対校選手権大会 男子1500m決勝

9月9日@たけびしスタジアム京都
1位 飯澤千翔(東海大4年)      3分45秒33
2位 千守倫央(中央大4年)      3分46秒08
3位 中野倫希(中央大2年)    3分46秒23
4位 高橋佑輔(北海道大大学院1年)3分46秒50
5位 近藤亨(明治大4年)       3分47秒00
6位 山﨑優希(広島経済大4年)    3分47秒48
7位 佐藤圭汰(駒澤大1年)    3分47秒61
8位 廣澤優斗(日体大4年)    3分48秒16

日本インカレ1日目に男子1500mの予選と決勝があり、東海大学の飯澤千翔(4年、山梨学院)がこの種目でルーキーイヤー以来となる3年ぶり2度目の優勝を果たした。飯澤は今年、4月の学生個人選手権、5月の関東インカレ、6月の日本選手権でも優勝。今後は世界と戦うために速さだけではなく強さを身につけ、さらなる活躍を目指す。

東海大・飯澤千翔が日本選手権初優勝、世界陸上の参加標準記録の突破は「最低限」

走り始める前まで不安と焦りがあった

「ホッとしているのが一番大きいですね」。飯澤はレース後に感想を求められてそう口にした。2日前まで標高2000mの場所で合宿をしていたのもあり、暑さへの対応に悩んでいた。しかも合宿での練習がいま一つうまくいっていないという感覚があり、不安と焦りがあったという。だが、走りだけを見ている分にはそれを感じさせないパフォーマンスだった。予選では序盤は中盤に位置をとり、2周目から前に出ると、ラスト1周は余裕を持って先頭で走り組1着通過。この時に「意外と走れるな」と思ったという。

「でも決勝は別物だと思っていたので。スタート前はすごい不安で、泣きそうなぐらい感情が込み上げてきてました。自分を頑張って鼓舞して、『いける』って言い聞かせて。スタートしちゃえばもうそんなことは忘れてレースに集中できるので、『早くスタートしてくれないかな』っていう気持ちが大きかったです」と飯澤はレース後、思い返して笑った。

レース前は不安と焦りを感じ、泣きそうなぐらい感情がこみあげてきたという

飯澤はラスト200mまで集団の後ろについて、最後に差し切るレーススタイルを取ることが多い。しかしこの日の決勝では、初めからいきなり先頭に出た。駒澤大学の佐藤圭汰(1年、洛南)が引っ張ると予想して前に出たが出てこなかったため、後輩の松本颯真(1年、伊賀白鳳)を「一緒に行こう」と煽(あお)って2人で集団を引っ張った。

残り2周を過ぎたところで次第に佐藤が前に上がり、先頭に行く気配を見せたため、前に出さないようにブロック。ラスト1周はペースアップし、自信のあるラストで差し切った。「松本が佐藤くんが出てくるのを合わせて抑えてくれたりしたので、僕1人でというよりは東海大で取った勝利かなと思います」

世界陸上に出られずモチベーションを失いかけるも……

飯澤は今シーズン、世界陸上(7月、アメリカ・オレゴン)への出場を目指し、参加標準記録である3分35秒切り、その先の3分33秒を目標に一貫して取り組んできた。しかし最後のチャンスとなった6月22日のホクレン・ディスタンスチャレンジ20周年記念大会では途中棄権で記録なし。目指していた目標に届かず、モチベーションが低下して「走りたくない」という気持ちになってしまった。

中盤まで飯澤(右)は松本(中央)と息を合わせるように走った

7月からはアメリカへの遠征が予定されており、「行きたくないけど頑張ろう」という気持ちでアメリカに向かった。現地でもレースに出たが、結果は芳しくなかった。しかし一緒に遠征に行った選手たちと現地でいろいろ話をしたり、計画を立てて観光をしたりするのが楽しく感じた。競技漬けの生活から少し違うリズムになり、思いがけずリフレッシュする時間になったという。「モチベーションは低下してましたけど、いろんな話をして『また頑張ろう』というきっかけになれたかなと思います」

次は10月に新潟で開催されるデンカチャレンジで、大学最後の1500mを走る。ここでは自己ベスト(3分38秒55)の大幅更新を狙うつもりだ。その後は冬シーズンとなり、800m、1500mの記録は出にくいシーズンとなる。そのため、5000mで記録会などに出場してスピードを磨き、記録を狙っていくつもりだ。1500mと5000mの関係を、飯澤はこう表現する。「5000mで記録が出ると、1500mでも記録が出るんです。三浦くん(龍司、順天堂大3年、洛南)、(遠藤)日向さん(住友電工)、河村さん(一輝、トーエネック)、みんな5000mのタイムが速いです。1500mはどの種目にもつながるし、逆もそう言えると思うので、5000mをしっかり走る力をつけていきたいなと思います」

ラストになったら勝てる。飯澤(先頭)の走りからは積み上げてきた自信が見られた

安定した強さを身につけたい

来年にハンガリー・ブダペストで開催される世界陸上の標準記録は、従来の3分35秒から0.8秒上がり3分34秒20となった。「けっこう痛いですね。0.8秒はでかいです」と苦笑いする飯澤だが、「でも35秒を切るだけじゃ世界と戦えないと思っていたので。標準が上がってくれたおかげでさらに高いレベルにいけると思います。もちろん世界全体のレベルも上がっていくけど、世界に近づける記録にはなるのかなと思いました」と前向きだ。

陸上部の主将として、駅伝シーズンに臨むチームメートたちには「箱根駅伝予選会でトップ通過を狙って、全日本大学駅伝ではシード権を取ってもらいたいです。全日本をいい流れでいけば箱根もいい流れでいけると思うので、トップ通過を狙って頑張ってほしいなと思います」とエールを送る。「自身は駅伝を走りたいと思いますか?」と問われると、「走りたいか、走りたくないかでいえば走りたいです」との答え。「でも僕はずっと1500mをやってきているので。そういう自分が数カ月で出られるほど甘い大会ではないかなと思います。僕より強い選手がたくさんいるんで、『出る幕はない』という感じです」

世界を目指し、世界と戦えるような選手に(中央が飯澤)

少しまだ早いが、大学ラストイヤーはどんなシーズンでしたか、とたずねると「狙うところで勝ち切れたのは大きかったけど、振り幅が大きかったと思います」と言う。100点か0点のレース、すなわち1位かビリしかない。「それだと安定しないし、世界陸上に出ても戦えないので。まずは1位を取らずとも3位とか、上位で安定させるような力が必要なのかなと思います」と自らの課題を口にする。

卒業後は実業団に進み、トラックを専門にして戦っていくつもりだという飯澤。強気の走りを世界でも見られる日を楽しみにしたい。

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