野球

東京大学が勝ち星! 「大エース」井澤駿介の先発初勝利に、監督は「私の夢だった」

慶應義塾大に競り勝ち、スタンドに向かって喜ぶ東大の選手たち(撮影・安藤仙一朗)

東京六大学野球秋季リーグ戦、第2週1回戦

9月17日@明治神宮野球場(東京)
東京大学 4-3 慶應義塾大学

東京六大学リーグ秋季リーグ戦。東京大学は慶應義塾大学との1回戦で勝利し、昨秋以来となる白星を挙げた。プロ志望届を提出しているエース・井澤駿介(4年、札幌南)は先発での初勝利をマークした。東大が慶大に勝利したのは、2017年秋の1回戦以来となる。

「あと少し、勝ちきれない」を乗り越えて

「井澤が先発して勝つのは私の夢だったんです」

東大の井手峻監督はそう言うと、目元を緩めた。

井手監督は井澤を2年の春からエースとして起用してきた。信頼は厚く「井澤はエースではなく、ウチの大エースなんです」と話すほど。だが、なかなか先発では勝利投手になれなかった。

17年秋から続いていた連敗を「64」で止めた昨春の法大2回戦では抑え。同秋の立教大学2回戦では、3回3分の2を無失点と好投し、念願の初勝利を手にしたが、この時も救援だった。

今春は早稲田大学1回戦で2失点で完投したが、引き分けに。秋の明治大学との開幕戦も6回3分の1を3失点と粘りの投球をしたが、この試合もドローに終わっている。

春のリーグ戦後、井手監督は自チームについて「あと少し、あと少しなんだけど、勝ちきれない」と口にしていた。それはチームのことであり、井澤のことでもあったのだろう。

東京大学の井澤駿介、昨秋初勝利のエースが見据える「赤門旋風」と最下位脱出
試合後、井澤(左)の先発初勝利を井手監督は「夢だった」と語った(撮影・上原伸一)

状態見極め、打たせて取る投球に専念

しかし秋の慶大1回戦。井澤は立ち上がりに3四球を与えても冷静だった。「3番の廣瀬隆太(3年、慶應)、4番の萩尾匡也(4年、文徳)と、ともに実力があるバッターに粘られた結果なので」。この回、1点を失って同点とされたが、自分の状態を見極めると、打たせて取る投球に専念。調子が悪いなりに六回まで2失点でまとめた。

ハイライトは3-2と1点リードで迎えた六回の投球だ。2死三塁とされたが「後続の3人から一つのアウトを取ればいい」と、ここでも慌てなかった。2つの四球を与えて満塁とされたのも想定内だったという。結局、このピンチを乗り切った。

たとえ四球を出してもそこから崩れない――。井澤はこの試合がリーグ戦通算34試合目の登板。経験値の高さと、通算17敗の悔しい負けで培った経験が、ゲームメイクの能力を磨き、ラストシーズンで花開こうとしている。

プロ志望届を提出している東大の「大エース」井澤(撮影・安藤仙一朗)

技術面の進歩もあった。相手の慶大・堀井哲也監督は井澤についてこう語る。

「井澤君と言えば、カットボール。もちろんウチも対策をしていますが、春から秋にかけてストレートの威力が増した。もともとこの2つは球速差がさほどなく、打者は的を絞りにくいのですが、カット、ストレートの両方をマークする必要を感じています」

2番手は制球面で成長

「大エース」井澤に先発で勝ちをつけたかったのは、井手監督だけではない。2安打1打点と活躍した宮﨑湧(4年、開成)は「2年春から投げ続けてきた井澤に、先発で勝たせたいというのは、チームみんなの思いでした」と言葉に力を込めた。

もっとも当の井澤は、先発初勝利については全くこだわっていなかったようだ。「うれしいのは確かですが、夢ではなかったので」と、報道陣を笑わせた。会見場にウイニングボールも持参しなかった。「一つ、勝利に貢献できたのはうれしい。試合を作れたのは良かったです」と喜びも控えめだった。そんな「我」を一切表に出さない井澤だからこそ、チーム全員が勝たせたいと思うのだろう。

打たせて取る投球に切り替えたことが奏功した(撮影・上原伸一)

井澤の後を任された松岡由機(3年、駒場東邦)の力投も見逃せない。この試合最速の145キロ速球を中心とする強気の投球で、3イニングを1失点でしのいだ。

松岡由は北海道・遠軽町で行われた夏合宿で成長した選手の1人。井手監督によるともともと真っすぐはチーム1だったが、ややバラつきが見られた制球力が改善されたという。

点差が開いても反発力と勝負強さを発揮

今季は打線も好調だ。明大2回戦では7得点を挙げ、3回戦では計13安打。井澤同様にプロ志望届を提出した、アメフト部からの転部の阿久津怜生(4年、宇都宮)は、ここまでの4試合で6安打(4盗塁)と打線を引っ張っている。他校の監督は「東大の打線は点差が離れても反発してくる。勝負強さもある」と警戒を強めているようだ。

慶大1回戦の七回、右翼線に適時二塁打を放った宮﨑(撮影・安藤仙一朗)

ただ、井手監督は「東大のスタイルはあくまで投手を中心に守り勝つ野球」と考えている。そして、その先頭に立つのがエース・井澤である。

慶大1回戦の勝利はあくまで通過点。チームの目標である勝ち点を奪取し、「東大旋風」を巻き起こすつもりだ。

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