陸上・駅伝

特集:第99回箱根駅伝

順天堂大、箱根駅伝16年ぶり総合Vへ「世界のミウラ」に「令和のクインテット」が鍵

順天堂大は「令和のクインテット」の活躍が鍵になる(写真提供・順天堂大学陸上競技部)

「三浦(龍司、3年、洛南)に頼るチームではないと思っています」。順天堂大学の長門俊介監督はこう断言する。キーマンとなるのは4年生の5人衆。「令和のクインテット」が16年ぶり12回目の箱根駅伝総合優勝へと導く。

「適材適所」で箱根駅伝総合優勝を狙う順天堂大 西澤侑真主将「任された区間を全う」

三浦龍司、トラックと駅伝を関連づけながら

総合2位となった前回大会経験者が7人と、経験値が高い選手が揃(そろ)っている。ただ、その中でチームの「顔」といえば、やはり「世界のミウラ」だろう。

今年は専門の3000m障害で海外のレースに数多く出場し、結果も残した。8月のダイヤモンドリーグローザンヌ大会では、8分13秒06のシーズンベストを記録して4位に。獲得ポイントにより、ファイナル進出を果たした。これは中長距離では男女で初となる快挙でもあった。そして、9月にスイス・チューリッヒで行われたファイナルでも、三浦は堂々たる走りを見せる。8分12秒65とシーズンベストを更新し、4位となった。

トラックから駅伝への移行は毎年のことだが、ファイナルから約3週間後に行われた出雲駅伝では2区で2位も、区間賞を獲得した洛南高校の後輩、佐藤圭汰(駒澤大学1年)のタイムからは4秒届かず。「スピードを強化しつつ、足作りをしてきたが、納得がいく走りができなかった」(三浦)。続く全日本大学駅伝では、3年連続の区間賞に挑んだが2区で3位。「(走りが)だいぶかみ合ってきた」ものの、区間賞を創価大学の葛西潤(4年、関西創価)に譲った。

トラックと駅伝。二つを両立させることは並大抵なことではないが、三浦は「関連性」を持たせながら取り組んでいる。

「競技的にはトラックと駅伝は全く別物です。ただ、箱根に向けてのトレーニングが、トラックでの足作りや故障予防につながっているところはあります。反対にトラックでの独特な緊張感、これを経験していることが、駅伝での精神的なパフォーマンスを高めていると思います」

箱根駅伝に向けて抱負を語る三浦(撮影・上原伸一)

「3度目」に向けて調整は順調

もっとも過去2回の箱根では、1年時が1区を走って10位、2年時はエース区間の2区を担うも11位。“三浦らしい” 成績は残せていない。

「前回は『花の2区』を走らせてもらいましたが、距離も長く、上りもあってきつかったです。レベルも高かったですね。チームが求めている結果を出すのは難しいことだと感じています」

今回の箱根では存在感のある走りを見せたいと思っている。調整も順調のようだ。長門俊介監督は「昨年は40kmの距離走をした後、しばらく走れない状態になりましたが、今年はそういうこともなく、(箱根に向けての練習が)継続ができている」と話す。

三浦が箱根でもトラック同様の輝きを示せれば、総合優勝にグッと近づく。だが、長門監督は「三浦の爆発力に期待しているか?」という記者からの質問に対し、きっぱりとした口調でこう返した。

「彼に頼るチームではないと思っています」

伊豫田達弥はエースの自覚十分

(現チームは)三浦の爆発力に頼るチームではない。長門監督の言葉の裏には5人の4年生、「令和のクインテット」への揺るぎない信頼がある。西澤侑真主将(浜松日体)、四釜峻佑(山形中央)、伊豫田達弥(いよだ、舟入)、野村優作(田辺工業)、そして平駿介(白石)である。

4年生で唯一、1年時から箱根を走っている西澤は、抜群のリーダーシップでチームをけん引している。

前回、特殊区間の5区を任され5位と健闘した四釜は、今回も5区を走るのが濃厚だ。長門監督からは「往路の選手に勇気を与える走りを」と期待されている。

「エース」の自覚十分なのが伊豫田だ。2大会連続で3区となった前回の箱根では3位と好走。今季のトラックシーズンも好調で、5月の関東インカレ1部10000mでは優勝を飾った。三浦と一緒にスピード練習に取り組んだ成果だという。

5月の関東インカレで伊豫田(23番)で優勝(撮影・藤井みさ)

全日本では7区を任された。駒澤大学の田澤廉(4年、青森山田)や、青山学院大の近藤幸太郎(4年、豊川工)といった各校のエースが集う区間である。伊豫田は「田澤や近藤の走りに自分のストライドを合わせてしまった。他の選手のペースで走ったのは反省点」としながらも、「(近藤に食らいつく場面もあるなど)他校のエースと戦えたのは大きな経験」と話す。

箱根では熟知している3区を走ることになりそうだ。伊豫田は「3区を走り終えるまで先頭が見える展開に持ち込みたい」と意気込む。1人追い抜くごとにチームを元気にするつもりだ。

野村優作はエースの称号を取り戻す

「令和のクインテット」の中で、一番エースと呼ばれることが多いのは野村だ。2年時には箱根のエース区間・2区を走っている。昨季は駅伝シーズンで不調だったが、今季はフィジカル面の強化も実を結んで復活を遂げた。

前回は9区だったが、2区への思いは強い。区間特有のアップダウンに対応する練習も積んでいる。長門監督から定期的にかけられている「エースの役割を果たしてほしい」という言葉も大きな励みになっている。

姉の蒼(あおい)も長距離選手で、実業団(積水化学)に所属していた。「今年の3月で引退しましたが、応援してもらっています。姉はとてもストイックなタイプで、その姿から努力の大切さを教わりました」

野村は姉の応援も力に、最後の箱根で「エース」の称号を取り戻す。

11月の全日本大学駅伝で2区の三浦(左)からたすきを受け取る3区の野村(撮影・浅野有美)

平も闘志を燃やしている。昨季は出雲の2区で区間2位になると、全日本と箱根では1区に起用された。順位はともに2桁と不本意だったが、大舞台で2度、スターターを務めた経験は大きい。「(前回大会の)忘れ物を取りにいきます」と、思い残しがない走りをすると誓った。

順天堂大といえば三浦。真っ先にそう思い浮かべる駅伝ファンは多いだろう。実際、メディア露出も多く、陸上競技専門誌の表紙にもなっている。しかし、順天堂大には長門監督が名付けた「令和のクインテット」がいる。

「世界のミウラ」と「令和のクインテット」が相乗効果を発揮した時、12回目の総合優勝が舞い降りてくる。

in Additionあわせて読みたい