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特集:New Leaders2023

同志社大・PR山本敦輝 古豪の印象を覆したい主将、目標は「帝京に勝って日本一」

1年の頃から活躍してきた同志社大の山本主将(すべて撮影・斉藤健仁)

1980年代には3連覇を含む4度の大学選手権優勝に輝いた「関西の雄」同志社大学ラグビー部。昨季まで4シーズン連続で大学選手権に出場(2020年は出場辞退)しているが、2季連続で優勝した帝京大学に準々決勝で敗れた。今季、「砕(くだく)」のスローガンを掲げて「古豪のイメージを壊したい!」と意気込むのが、1年生の頃から活躍してきたキャプテンのPR山本敦輝 (4年、常翔学園)だ。

同志社大・宮本啓希監督 選手のフィジカル変える、午前6時45分からの「朝活」

自分の可能性を信じて殻を破り、成長し続ける選手に

一昨季は24-76、宮本啓希監督1年目の昨季は0-50。同志社大は大学選手権で帝京大に大敗し、シーズンを終えた。

今年1月、PR山本は同期に113代目のキャプテンに推され、宮本監督からも「キャプテンとしてチームで一番、体を張ってほしい。セットプレーを引っ張り、背中で見せ続けてほしい」と期待を寄せられた。山本は「帝京大に勝たへん限り日本一になれない。フィジカルだけでなく、ほとんどすべてのエリアで負けていた。どこかにこだわりを持たないといけないし、それ以外のスタンダードも上げないといけない」と感じていた。

キャプテン就任が決まると、監督から「スローガンを考えてほしい」と言われた。副将に決まったFB芦塚仁(4年、大阪桐蔭)ら、チームのリーダー陣で話し合い、「砕」と定めた。「同志社の古豪のイメージを砕きたい。自分の殻に閉じこもっている選手が多いので、自分の可能性を信じて殻を破り、成長し続ける選手になってほしい。昨季はうまくいかなかったことが多くて、ブレイクダウンに日本一こだわるチームになりたい」と山本は言う。

大学選手権では帝京大FW陣のプレッシャーを正面から受けた

OBの寄付で新設されたトレーニングルームも後押しに

1月に新チームがスタートすると、「1対1のバトルで勝つ」ために、最初の2カ月間は「体を大きくする」期間に充てた。ウェートトレーニングを1日に2回行うことで、昨季の最終戦と比べて1人平均で6kgほど体重が増えたという。山本自身もこの1年で体重が103kgから109kgへと増加した。

昨年11月にはOBの寄付によって、グラウンドの横に新たなストレングス・トレーニングルームが新設されたことも後押しした。「選手のトレーニングに対するモチベーションが上がるきっかけになっている」と山本。昨季同様、朝に全体練習を行い、授業の合間にウェートトレーニングを行う日々を送っている。

OBの寄付によって新設されたストレングス・トレーニングルーム

今季の初戦は4月の「アミノバイタルトレーニングセンター宮崎」のこけら落とし。早速、王者の帝京大と対戦したが、0-89で再び大敗を喫した。それでも山本主将は「4月に帝京大と自分たちの差、そして自分たちの立ち位置がわかった。それまでやっていた練習じゃまだまだ足らへん。意味のある試合になった」と前向きに振り返った。

そこから、よりブレイクダウンにフォーカスするなどの強化を進め、関西大学春季トーナメントでは立命館大学、天理大学に競り勝ち決勝に駒を進めた。最後は関西で連覇中の京都産業大学に15-54で敗れたものの、練習試合では慶應義塾大学に勝利し、早稲田大学、明治大学にも善戦。一定の成果を得た春シーズンとなった。

兄の背中を追って、高校は常翔学園へ

大阪出身の山本は小学校までサッカーや水泳などをしていた。大阪市立菫(すみれ)中学からラグビー部に入部。二つ上の兄・FL大輝(常翔学園から関西大)が競技をやっていた影響を大きく受けた。

「始めたときは体がめちゃめちゃ小さかった」という山本。当初はPRではなくHOとしてプレーし、中学校3年の秋はキャプテンとして大阪市の大会での優勝に貢献した。だが大阪府選抜などに選ばれることはなかった。なお現在帝京大学3年のSO/FB小村真也とFL倉橋歓太は、菫中学校の一つ後輩にあたる。

高校は迷わず、兄と同じ大阪の強豪校の一つ、常翔学園に進学した。「兄が行っていたので、そこしかないという感じだった」。実家から自転車で15分ほどという距離も背中を押した。

高校1年のときこそ試合に出ることはできなかったが、2年時にPRとなり、1番を背負ってスクラムを組んだら「意外とうまくいった」。そこからレギュラーに定着。3年時は再びHOに戻り、「花園」こと全国高校ラグビー大会は、4強まで進んだ。

接点での強さを発揮し、日本一をめざす

「できないのは努力が足らないからだ」

大学は親から「関西に残ってほしい」と言われたこともあり、同志社大へ進学した。大学当初は2番だったが、「スクラムを組んだときにフィットする」と再び1番に戻った。1年目からレギュラーの座をつかみ、特にスクラムではルーキーらしからぬ存在感を放った。

「高校と大学ではフィジカルに差があるので、1年から出られるとは思っていなかった。(HOに求められる)ラインアウトのスローイングは、上にいけばいくほどプレッシャーになるので、それが嫌だったこともあります(苦笑)」

今では大学トップクラスの1番へと成長し、数多くのリーグワンのチームから誘われる存在となった。スクラムが強いのはどうして? と聞くと、山本は少し考えて「高校時代から、(FWの第一列は)スクラムを鍛えないと試合に出られない。そのために筋トレも含めて、何をやらないといけないか一つひとつやっていった感じです。評価されている部分は、負けてはいけない部分でもある。スクラムは常に上を目指して、貪欲(どんよく)な姿勢でやっている」と話した。

好きな言葉は中学時代の全校集会で聞いたという「できないことない。できないのは努力が足らないからだ」。それを実践し続け、今の姿がある。

「評価されている部分は、負けてはいけない部分でもある」

目標はより具体的に「帝京に勝って日本一」

前キャプテンのFL梁本旺義(現・クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)からは「あまり深読みせずに、感じたことはすぐに言ったほうがいい」とアドバイスを受けた。実践しつつ、選手のモチベーションアップと練習の質を上げるための声かけも意識する。

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またHO大山卓真(4年、報徳学園)だけでなく、FL奥平都太郎(3年、東海大大阪仰星)をFWリーダーに、LO寺北亘佑(3年、常翔学園)をラインアウトリーダーに任命した。「僕らのやってきたことや失敗を、次の代も学んだ方がためになる。そのため下の代も巻き込んだ方がいい」(山本)という判断だ。

趣味はサウナやゆっくりすること。来春からはリーグワンの強豪チームに入る予定で、「正直、チーム内にはライバルがいない状態です。将来は日本代表になりたいので、自分を常に律して練習に臨んでいる」と先を見据えた。

前キャプテンの梁本(中央)からは「感じたことはすぐに言った方がいい」と助言を受けた

今季のチームの目標は単なる「日本一」ではなく、2季連続で帝京大に負けているため、より具体的に「帝京大に勝って日本一になる」と定めた。山本は「関西で勝たへんかったら、帝京大に勝てるようなチームになれない。関西優勝はマストで狙っていって、それ以上を狙っていきたい」と意気込んだ。

ファンに、今季の同志社大のどういったところに注目してほしいかを聞くと、「『砕』というスローガンを体現して、『今年度から同志社大は変わった』とファンの人が見てわかるように、レベルアップしていきたい。個人としてはスクラムはもちろん、ブレイクダウンに注目してほしい」と真っすぐに前を向いた。

紺グレの「1番」がスクラム、ブレイクダウンの最前線でチームを鼓舞し、新たな同志社像をラグビーファンに見せることができるか。

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