ラグビー

連載:ポストコロナの等身大~東京都立大学ラグビー部物語2023~

62kg差はね返したのに…あの場所探す旅の始まり 東京都立大学ラグビー部物語10

千葉商科大学戦でタックルに入るフランカー加藤洋人(中央下、4年、高津)とナンバー8中原亮太(左端、3年、湘南)。ディフェンスの甘さも浮き彫りになった(撮影・全て中川文如)

前半のラストプレーが、ターニングポイントになった。

迷った時、立ち返ることのできる場所を探す旅。

その旅の始まりを告げる、ターニングポイントでもあった。

9月17日、残暑と表現するには暑すぎる酷暑の一日。ラグビーの関東大学リーグ戦3部開幕戦、東京都立大学―千葉商科大学。

10-21で迎えた前半終了間際、11点を追う都立大にトライチャンスが転がり込んできた。

敵陣ゴール前で相手が反則。トライを取りきってゴールキックも決めれば、4点差に詰め寄れる。

流れを引き寄せて、押せ押せムードで後半になだれ込める。

落ち着いて、どう攻めるのか判断すればよかった。優位に立っていたスクラムを選ぶのがセオリー。あえてラインアウトにして、やはり強みのモールを組んでもいい。

ただ、選手たちの選択は速攻だった。

急ぎすぎたのか。スクラムハーフ(SH)坂元優太(4年、香住丘)がタップキックから突進。目の前の相手に受け止められる。たまらず、今度は都立大が反則を犯す。そのまま、前半が終わる。

引き寄せられたはずの流れを、自ら手放してしまった。

部活には、伝統というものがある。伝統継承の難しさがにじむシーンでもあった。

僕らのスタイルって……

卒業、入学の繰り返しで人が入れ替わり続けても、失われないもの。それが、伝統だ。自分たちの強み、アイデンティティー、迷った時に立ち返ることのできる場所と言い換えてもいい。

団体競技の場合、その伝統はチームスタイルと呼ばれたりもする。都立大の場合、そのチームスタイルはフォワード(FW)のセットプレー、すなわちスクラムとラインアウトからのモールだ。

ラグビーって不思議。一人ひとりのパワーが劣っても、みんなでまとまって工夫を凝らせば相手のパワーに勝てることがある。一人ひとりのパワーで劣る都立大は、プロコーチ藤森啓介(38)の理論を下支えに、このスクラムとラインアウトモールにこだわって強化を重ねてきた。藤森の指導が始まった2020年から、人が入れ替わっても、その伝統は受け継がれてきた。

ハーフタイム、選手に指示を与える藤森啓介(中央)。厳しさと優しさを使い分ける

千葉商科大戦も、そうだった。FW8人の総体重は千葉商科大が736kg、都立大が674kg。その差、62kg。1人平均にならせば8kg近い差をものともせず、都立大はスクラムとラインアウトモールをぐいぐい押し込んでいた。あの前半のラストプレーも、そのどちらかを選択していれば7点を奪えた可能性は極めて高かった。

ただ、勝負事に「たら、れば」はない。

自ら手放してしまった流れを再び引き寄せることは、かなわなかった。

キャプテンの心残り

後半開始直後にトライを失い、終わってみれば15-35。ターニングポイントで道を誤った結果の敗北だった。

スクラムとモールの屋台骨、プロップ(PR)を担うキャプテン船津丈(4年、仙台三)は悔いた。

「初戦の焦りがありました。試合で起きる様々な状況を想定しながら練習してきたつもりだったけど、昨年までと比べて、準備が足りなかった。僕らの強みに、こだわりきれませんでした。今年のチームは、本当にゼロからのスタート。その難しさを、改めて感じます」

突進する船津丈。キャプテンにとって歯がゆい開幕戦となった

コロナ禍直撃の部員不足。「初心者過半数」で幕を開けた2023年だ。1年生6人、大学でラグビーを始めた6人が、開幕戦メンバー23人に名を連ねていた。伝統を次につなぐための、我慢のシーズンでもある。迷った時、立ち返ることのできる場所を再確認する旅でもある。

1年生の手応え

迷いながら戦った80分間で、「自分」を見つけた選手もいる。

センター(CTB)萩原唯斗。東京の強豪・國學院久我山高校出身の1年生だ。FWだった久我山時代、レギュラーになりきれなかった。大学で、バックスとして再挑戦しようと決めた。

リーグ戦デビュー。後半途中から、吹っ切れたような突進でボールを前に運び、先輩たちの尻をたたいた。

「ボールキャリーは僕の持ち味。それが通用するとわかったのは収穫でした。振り返れば、前半から、もっとアグレッシブにプレーできればよかったなって……」

ボールを手に突破する萩原唯斗。存在感十分の1年生

そうやって、自分の立ち位置をつかむことができた80分間。都立大のラグビーとは何なのかも、つかみかけた気がする。

「FWが、すごく頼りになります。でも、80分間、FW頼みのままではFWが消耗するだけ。勝負どころのスクラムやモールで力を発揮してもらえるように、僕のボールキャリーを使っていければいいのかも」

ラグビー漬けだった高校時代を経て、いま、練習は週3回。ピザのデリバリーのアルバイトにも精を出しつつ、練習がない日の時間、どう、ラグビーにつなげていくのか。限られた練習の集中力、どう高めて効果を最大化させるのか。そんな自立のサイクルを組み立てる難しさとも向き合っている。

やりたいこと、やるべきこと

試合後、藤森が選手たちに授けたキーワードは「成長」だった。

「この試合を映像で見て、次の相手は都立大を分析してくる。その中で、どう、自分たちの強みを出していけるか。やりたいこと、やるべきことを明確にして、やりきれるかどうか。今日、できたことはポジティブにとらえて、できなかったことは改善して、次の試合までの1週間、成長していくしかないよね。やるべきことを、できるように」

迷った時、立ち返ることのできる場所。

部活で過ごした時間を、そんな場所に変えるための成長でもある。

試合後に開かれた車座の反省会。まずは選手だけで話し合い、コーチ陣と共有する。自主性を育てる取り組みの一環

選手それぞれに課題を見つけた船出。どう、次につなげるのか。9月29日配信予定の次回で第2戦をリポートします。

ポストコロナの等身大~東京都立大学ラグビー部物語2023~

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