ライバルに記録的大敗、みんな同じじゃダメなんだ 東京都立大学ラグビー部物語11
もしも、みんながみんな、信号を無視してしまったら。
もしも、みんながみんな、道路を逆走してしまったら。
街はカオスだ。
そんなカオスなラグビーを、東京都立大学は演じてしまった。
9月24日、関東大学リーグ戦3部、東京工業大学との第2戦。相手に振り回されたわけでもないのに、位置取りを間違うオフサイドを繰り返した。密集戦やセットプレーの対応で笛を吹かれる場面もしばしば。ルールを守れない。反則は多発。その反則数は相手の倍以上となる12個に達した。
彼らがゲームポイントと呼ぶ、勝負どころ。そこでも、ことごとくミスが連なる。
前半のチャンス。
ラインアウトでサインの選択を誤って、しかもボールを取り損ねてしまった。
あとちょっとで、ハーフタイム。
キックの蹴り合いで無理せず時間をやり過ごせばいいのに、飛距離を欲張ったキックを失敗した。静かに前半を締めくくるはずが、あっというまにトライを奪われた。
後半のピンチ。
背後にキックを蹴り込まれた。タッチラインの外にボールを蹴り出そうとしたら、足の当たりどころが悪くて、相手にトライボールをプレゼントしてしまった。
そんなこんなが積み重なった末の自滅。気づけば、14-50になっていた。プロコーチの藤森啓介(38)が指導を始めて4年目。36点差はリーグ戦の過去ワースト記録だった。
昨年までと同じでは…
ワーストゲームが終わる。こんな時こそ、藤森は、穏やかに、諭すように問いかける。
15-35で敗れた1週間前の千葉商科大学戦。反省の一つが、タックルの甘さだった。あの日とは比べものにならないほど、個々のタックルは力強かった。
「経験を成長につなげることはできている。でも、残り5試合、さらに成長スピードを上げていかないと」
初戦とほぼ変わらず、大学でラグビーを始めた初心者5人、1年生5人がメンバーに入っていた。
「『まだラグビーを理解できていない』と感じたら、自ら学ばなきゃ。パスが苦手だと感じたら、自ら練習しなきゃ。昨年までのチームより、明らかに経験値は低い。一生懸命やればいい、だけじゃ難しい。昨年までと同じ練習を、みんなで同じようにこなしているだけじゃ、試合はできても勝つことはできない。経験者と未経験者、上級生と下級生、試合に出た選手と、出られなかった選手。それぞれ、やるべきことは違うはず。自分と向き合って、自分に必要なことを突きつめてほしい」
その後、藤森は改めて1~3年生だけを集めた。自分と向き合うこと、自分からアクションを起こすこと、自分にベクトルを向けることの大切さを説いた。
もっと、もっと
その傍らで、副キャプテンの4年生、ロック大滝康資(國學院久我山)もまた自分と向き合っていた。
「反則しないように、しないようにって意識は持っていたつもりだったんだけど、相手の圧力もあって……。自分たちで試合を壊してしまいました」
もっとも、大滝個人のプレーに目を向ければ及第点だ。チーム指折りのハードタックラー。歯を食いしばって黙々と体をぶつけ続ける姿は、レギュラーをつかんだ2年生の頃から変わらない。大敗したこの日もまた然(しか)り。それでも。
「4年生だし、このチームでは、かなりラグビー歴が長い方に入る。もっともっと、やらないと。ただ、相手を止めるだけのタックルじゃダメ。ボールを奪い取ってターンオーバーにつなげるくらいのタックルを、もっともっと決めていかないと。次の試合に向けて、練習から、そういう準備をしていかないと」
最上級生の責任を自覚する。声で盛り上げることのできる、いわゆるムードメーカータイプじゃないことも自覚する。だから、なおさら。
「もっともっと、プレーで示していかないと」
卒業後は公務員になる。人生の半分近く、10年間も生活の中心であり続けたラグビーに、ハッピーエンドで区切りをつけるためにも。
好敵手への思い
ところで試合中、東工大の選手たちから幾度となく、こんな声が上がっていた。
「3年越しだよ、3年越し」
日本語に正確を期せば実際は「4年越し」なのだが、そんなことはどうでもいい。東工大にすれば、過去2年間、都立大戦は鬼門だった。
それまで公式戦で1度も負けたことがなかった相手に、2021、2022年とリーグ戦で連敗。2試合ともシーズン最終戦だった。2点差、9点差の惜敗だった。キャプテンのナンバー8岡山宙央(4年、青山)の胸中はこうだった。
「2年間、悔しい負け方を繰り返してきた。今年こそ、の一心でした」
初戦で白星スタートを切ってなお、気持ちはチャレンジャーだった。
「昨年も、その前も、試合前に『勝てそうだな』と分析していたプレーで、いざ試合が始まると勝てなかったりした。だから、80分間、絶対に油断しないようにって」
同じ東京都内の国公立大。接戦を重ねるうち、不思議なライバル意識が芽生えてきてもいる。今季の一戦。より、思いが強かったのは、東工大だった。
「こういう試合に勝って、来年につなげていきたい。選手が増えれば、もっと内容の濃い練習ができるんですけどね……」
東工大も、部員はたった30人程度。強豪校の人気の部活を除けば、どこだって大なり小なり、存続の危機と背中合わせの日々を過ごしている。そうやってコロナ禍に耐えて、どうにか伝統を紡ぎながら、ライバルとしのぎを削っている。来年のため、後輩のため。
そこかしこに、ポストコロナのリアルが転がっている。
制限だらけのリアルで、準備は尽くせたか。かける思いは、いかほどか。それが最後に勝負を決める。
開幕2連敗。「コロナ世代」の反発力が問われるリーグ戦となりました。10月13日配信予定の次回で第3戦をリポートします。