ラグビー

連載:ポストコロナの等身大~東京都立大学ラグビー部物語2023~

院生も部活する オーバー5年生5人衆、窮地に見参 東京都立大学ラグビー部物語13

千葉大戦で先制トライを挙げる船津丈。キャプテンの意地がチームを勢いづけた(すべて撮影・中川文如)

キャプテンが勝負に出た。

敵陣奥深く。ゴールラインまで、あと5m。相手が反則を犯した。東京都立大学ラグビー部を束ねるキャプテン、そして開幕3連敗の責任を背負い込むキャプテン、プロップ船津丈(4年、仙台三)がボールを持ってポイントに駆け寄った。

自らタップキックでプレー再開。そのまま突進。力ずくで、インゴールに楕円(だえん)球をねじ込んだ。

10月15日。関東大学リーグ戦3部、千葉大学との第4戦。前半11分だった。今季初めての、待望の、先制トライをもぎ取った。

千葉大も3連敗を喫していた。文字通り、負けられない戦いだった。キャプテンの覚悟が詰まった、先制トライだった。

そんな船津を、チーム「オーバー5年生」が支えていた。

2度目の4年生、いわゆる5年生が2人。大学院1年生が2人。院2年が1人。

人呼んで、チームオーバー5年生、5人衆。

後輩たちの窮地を救うため、負けられない一戦の先発メンバーに集結していた。

レガシーを残したい

「もっともっと、盛り上げようぜ!」

試合前のアップから後輩たちを戦闘モードに駆り立てたのは、フッカー高尾龍太(院1年、高津)だ。アップで泣いて、勝ってまた泣く、熱い熱い泣き上戸。この日は涙こそなかったけれど、気合十分の声と表情で雰囲気を高めていく。

大阪の名門、堺ラグビースクール時代に全国大会3位を経験している。実力も折り紙つきだ。キックオフ。船津と一緒になってフォワード(FW)を引っ張る。

迷いなく、スクラム、モールを押し込む。迷いなく、縦へ縦へと肉弾戦を仕掛ける。

「スクラムとモール。ずっと、それが僕らの強みだったから。ずっと、こだわってきたから」

その強み、後輩と一緒に体感したい。その強み、レガシーとして後輩に残したい。その一心だった。

チームのトライ王でもある高尾龍太(左)は仲間への感謝を忘れない。青木紳悟は戦術眼が光る

意をくむ同期が、バックスにいた。

センター(CTB)青木紳悟(院1年、川和)。昨季のキャプテンは都立大のラグビースタイルを熟知する。FWがモールを組む。「いける!」と感じたら、ポジションなんて関係ない。バックスラインを投げ出して、モールに加勢した。

そうやって生まれた船津の先制トライだった。

院生の勉強は忙しい。決して、いつも練習に参加できるわけじゃない。それでも後輩たちの悩みと苦しみを自分事化して、考えてきた。部員不足で存続の危機と背中合わせ。そんなチームに、自分は何ができるのか。

「下級生が多くて、しかも初心者の多いチーム。早く、勝つ喜びを味わってほしい。やっぱり、スポーツって、勝てないと楽しくないから。楽しくないと、部を辞めちゃうかもしれないから」

創部史上最高の3部3位にたどり着いた昨季のキャプテンは、勝つ味を知っている。その、勝つ味を伝える。それが、青木の出した答えだった。

「ここで踏ん張れば、このチーム、また上をめざせる。めちゃめちゃ、伸びしろはあるから。4年生に重いプレッシャーがかかるのは、昨季、痛感しました。僕らが、ちょっとでもそれを軽くできたら」

優しさと、激しさと

FWとバックスの滑らかな連係は途切れない。双方をつなぐハーフ団を担ったのは、2人の5年生だった。

学生コーチとして後輩をサポートしてきた、スタンドオフ(SO)坂元優太(香住丘)。心優しき司令塔は、複雑な思いを抱えながら10番のジャージーに袖を通していた。

親身に教えてきた後輩が先発した方が、絶対、いいに決まっている。果たして、自分は試合に出るべきなのだろうかと。

ただ、坂元の堅実なゲームメイク、やっぱりチームに欠かせなかった。コンビを組んだスクラムハーフ(SH)斉藤遼(八王子学園八王子)もまた、チームに欠かせなかった。

トライを決めた選手に真っ先に駆け寄る坂元優太(左)。斉藤遼のパスは攻撃のリズムをつくる

春は就職活動に専念した。練習に復帰して間もない彼の動きはしかし、昨季より研ぎ澄まされている。

「一度は4年生のシーズンを終えた身。だからなのか、余裕というか、伸び伸び、プレーできています」

パスをさばくだけじゃない。身長158cmの体で潜り込むように、前へ。小柄な彼が、そうやってFWの推進力を最大化させていく。

そして何より、持ち味は激しいタックルだ。それもまた、ずっと都立大がこだわってきた強みだった。強烈タックルをレガシーとして残すため、小柄な体を張った。

チームオーバー5年生に導かれるように、80分間、みんなで攻めた。みんなでタックルを重ねた。終わってみれば、8トライ、48-0の完勝だった。

その左足、スーパーブーツ

あっ、もう一人、忘れちゃならない人がいた。

チームオーバー5年生の最上級生、フルバック(FB)松本岳人(院2年、所沢北)はこの3年間、最後の砦(とりで)であり続けている。

右ひざのけがを繰り返し、3年生までは試合に出たり出なかったり。まともにラグビーできるって実感できたのは、4年生になってからだ。そのシーズン、2度の逆転負けを喫して5位に沈んだ。悔しくて、もう一年、続けようと決めた。

昨季の3位という結果には、満足できた。「ここで終わるのも、いいのかも」。ただ、後輩たちは許してくれなかった。「もう一年、お願いします」

そんな風に頭を下げられたら、終われない、終わるわけにはいかない。

現代ラグビーに欠かせないロングキックを駆使する松本岳人

振り返れば、毎年、毎年、勝負どころで院生や5年生がチームを救ってきた歴史が都立大にはある。

「僕らが4年生だった時も、昨季も、院生の先輩が助けてくれた。だから、僕も。院生になっても、部活する。院生が部活して、部の歴史をつないでいく。そういう『文化』を残したいと思ったんです」

中学時代までサッカーに明け暮れた松本。大げさじゃなく、その左足から繰り出すロングキックと正確なゴールキックは3部リーグのレベルを超えている。まさにスーパーブーツ。何度、彼の左足がチームを救ってきたことか。

「でもね、下級生の成長、すごいんですよ。タックルの回数、試合ごとに増えている。ホント、頼もしい」

4years.じゃなくても

実は、都立大だけじゃない。相手の千葉大も、院生が4人、この一戦のメンバーに入っていた。

少子化にコロナ禍が追い打ちをかける部員不足。どのチームも、事情は似たり寄ったりだ。

そんな窮状を、5年生が、院生が、救う。

そうやって、次世代に部活を残していく。

それで、いいのだ。

大学の部活って、4年間だけじゃない。

コロナに時を奪われた。その代わり、自分たちの意志で決めてやるんだ。

いつ終わるのか、終わらせるのか。いつ、ピリオドを打つのか。

それって、自分たちの意志次第なんだ。

時は、延ばせる。

部活のアオハルは終わらない。

チームオーバー5年生が集合。卒業生の垰下(たおした)綺莉(左端)、松川拓矢(後列右)も応援に駆けつけた。プロコーチの藤森啓介(右端)は、部への愛着を高めるマネジメントを大切にする

待望の初勝利。チームオーバー5年生5人衆の影響力は絶大でした。次は、下級生がチームを引っ張る番です。11月3日配信予定の次回で第5戦をリポートします。

ポストコロナの等身大~東京都立大学ラグビー部物語2023~

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