ラグビー

連載:ポストコロナの等身大~東京都立大学ラグビー部物語2023~

浪人、そして2年生で上京 「悪くても目立てれば」 東京都立大学ラグビー部物語12

ラインアウトに臨む加藤洋人。ジャンパーとして多くのサインを駆使する(撮影・中川文如)

それって、校風なのだろうか。

きまじめで、どちらかというとおとなしめな部員が多い東京都立大学ラグビー部。

でも、彼は違う。

「いやー、ダメでした。良い目立ち方も、悪い目立ち方も、できなかった。悪くてもいいから、とにかく目立たないと。目立てなかったのが、悔しくて……」

10月8日、関東大学リーグ戦3部の新潟食料農業大学戦。またしても都立大は14-48で敗れた。

これで開幕3連敗。ロック加藤洋人(4年)の反省の弁が、「悪くたって目立てれば……」だった。

なかなかの個性派だ。大胆な髪形チェンジで周囲を驚かすのは朝飯前。下級生だった時、練習に遅刻したのに堂々と途中参加して、その度胸で上級生を感心させてしまったこともある。

ただ、「悪くたって目立てれば……」を字面通りに受け止めてしまったら、言葉の真意は推し量れない。

「悪くたって……」には、きまじめで真摯(しんし)な思いが隠されている。

地元は居心地いいけれど

大阪府立高の強豪、高津でラグビーに打ち込んだ。地元志向で大阪の大学に特化した最初の受験、意中の結果はつかめなかった。浪人中、IT業界やプログラミングに興味を持った。それを学べるのが都立大だった。

新型コロナウイルスに地球が支配されたのは、合格のサクラが咲いた頃だった。

1年生の1年間、すべてオンライン授業だった。キャンパスに足を踏み入れることも、上京も、かなわなかった。「地方出身の同期、そっちの方が多かったと思います」。一方で、「やっぱり地元は居心地がいい。東京に行けない寂しさや葛藤は一切なかったです。むしろ、地元の友達と会える期間が1年延びてラッキー、みたいな」

折り合いをつけながらの「ラッキー」でもあった。

「コロナだから、仕方ない。受け入れるしかないよなって」

2年生になると、リアル授業が解禁された。大学の近くで一人暮らしを始めた。さて、部活はどうしよう?

気分一新、ラグビーじゃないスポーツに挑戦するつもりだった。バスケにしようか、テニスにしようか……。

なのに、気づけばラグビー部に入っていた。

6月の一橋大学戦でサッカーのドリブルのようなプレーを繰り出す加藤洋人。意外性も彼の持ち味(撮影・中川文如)

「先輩に誘われて体験入部してみたんです。そうしたら、ビックリしました。ラグビー、こんなに楽しかったのかって」

一浪時代を含めて2年間、グラウンドから遠ざかっていた。久々に楕円(だえん)球を持って走ってみたら、底が抜けるほど気持ちよかった。地元は地元で楽しかったけど、やっぱり巣ごもり生活のストレスみたいなものがあったのかもしれない。それが、一気に吹っ飛んだ。

選手も、マネージャーも。立場を超えて一緒になってコミュニケーションを深める「チームビルディング」を、この部は大切にする。それもまた、新鮮だった。そうやって広がる人の輪。東京まで遊びに来てくれる地元の友達と、大阪じゃなくて東京で会うのもまた、新鮮だった。

これが、リアルなんだなって。

「アイツに背負わせすぎ」

今季、ラグビー部の4年生は選手4人にマネージャー1人。開幕3連敗を喫したチームは、「4部降格」が視界にちらつく苦境にある。

攻撃の起点、ラインアウトの中心として欠かせない存在の加藤も、責任を感じている。

「アイツに、背負わせすぎちゃってるな」

アイツとは、キャプテンの船津丈(4年、仙台三)だ。リーダーとして、チームの至らなさのすべてを抱え込んでしまっている。数少ない同期の一人として、その負担を少しでも分かち合わなきゃって痛感する。そのために、試合中に頑張るだけじゃ足りないんだって気づいた。

遠征先のグラウンドや更衣室での振る舞いもそう。練習中の移動、歩くんじゃなくてジョギングで。そういうところの折り目正しさから、すべては始まる。率先して行動で示す。声に出して後輩たちを促す。そういう小さな行動の積み重ねが、キャプテンの負担を少しずつ減らしていく。「柄じゃないんですけどね」と苦笑しつつ。

新潟食農大戦で相手の突進を食い止める船津丈(中央)。キャプテンの負担をみんなで減らしたい。右手前は1年生のウィング(WTB)大森拓実(日野台)。リーグ戦初先発を果たした(提供・東京都立大学ラグビー部)

驚きの成長曲線

新潟食農大戦に話を戻そう。相手は創部4年目、3部に昇格したばかり。ただ、すでに実力は3部で飛び抜けている。かつて東福岡高を屈指の強豪に育て上げた、谷崎重幸監督が指揮を執る。全国から有望選手が集まっている。

都立大は今季最多の1年生5人が先発した。大学で競技を始めた初心者の2年生も2人いた。もちろん、技術やフィジカルは見劣りした。それでも、一回りも二回りも大きな相手に、ひたむきなタックルを貫いた。サインプレーとフォワード(FW)の波状攻撃で2トライを挙げた。

成長を実感できる、14-48でもあった。応援に駆けつけた卒業生が目を疑うほどの成長曲線を描いてもいた。

加藤の心境はこうだった。

「後輩たちの活躍が、うれしかった。そして、焦りました。オレ、もっとやらなきゃって。ラインアウトだけじゃなくて、タックルも(相手からボールを奪う)ジャッカルも」

フランカー神保蒼汰(中央下、2年、相模原)はレスリング出身。新潟食農大戦でハードタックルを連発した。スクラムハーフ(SH)関日向(右端、1年、狛江)はリーグ戦初先発。2トライはいずれもナンバー8新山昂生(中央上、2年、国學院久我山)が決めた(提供・東京都立大学ラグビー部)

「目立つ」って何だ?

「悪くたって目立てれば……」って最初の言葉。多分、きまじめで真摯(しんし)な思いを照れ隠しのニュアンスで包み込んでいる。

失敗が、ダメなんじゃない。何もやらない、何もやろうとしない、何もチャレンジしないで終わることが、ダメなんだ。

「目立つ」って、そういうことなんだ。

ちなみに加藤、東京に出てきて3年間、キャンパスの目と鼻の先にあるフードコートでアルバイトを続けている。仕事中にバッタリ友達と出くわすの、恥ずかしくないのだろうか。

「全然。そういうのも、うれしいです」

コロナ禍もラグビーも、「仕方ない」で終わらせたくない。

実質3年間のリアル都立大ライフ。そこかしこにリアルな爪痕を残していく。

新潟食農大戦でトライを失い、集まる選手たち。初勝利が遠い(提供・東京都立大学ラグビー部)

成長してはいる。でも、勝てない……。多くの初心者を受け入れて新たなチャレンジを続けるチームは、連敗を止めることができるのでしょうか。10月20日配信予定の次回で第4戦をリポートします。

ポストコロナの等身大~東京都立大学ラグビー部物語2023~

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