プライド砕かれ、残り160分 君たちはどう戦うか 東京都立大学ラグビー部物語15
この一戦、「都立大プライド」はあったのか?
試合後のミーティングの、それが第一声だった。
0-67。取られたトライ、11個。
東京都立大学ラグビー部、屈辱的大敗。
11月5日、関東大学リーグ戦3部、駿河台大学戦のことだった。
自滅から破滅への道をたどった。
前半3分、最初に失ったトライ。1ミリもプレッシャーを受けていない局面で、バックスの選手が漫然と立ち位置を誤ってオフサイドを犯した。それがきっかけだった。
直後につかんだチャンス。ゴールラインを目前に、痛恨のノックオンでトライを逃す。
17分、2個目のトライ献上。やっぱり、「漫然オフサイド」がきっかけだった。
リセットしたはずなのに
相手は昨季優勝校。確かに、総じて胸板は厚い。ただ、走るコースをしっかり押さえることはできていた。なのにタックルに入らない。組織プレーのスクラムとモールに限れば、力関係は五分五分に近かった。なのにマイボールで真っ向勝負を挑まない。で、気持ち一つで防げるはずの反則を起点に失点。その繰り返しで、あっというまに0-24。前半終了間際につかんだ2度目の大チャンスも、案の定、ノックオン。ハーフタイムを迎える。
攻守にケアレスミスがなければ、多分、そこまで点差は離されなかった。多分、トライ数換算で2本対2本くらい、イーブンに近い点差で試合を折り返せていた。
終わったことは仕方ない。もう一度、0-0から始めよう。そう心をリセットして臨んだ後半、最初のプレーだった。
キックオフで蹴ったボールを確保される。仕切り直したはずが、さらにタックルは緩くなっていた。たった29秒でノーホイッスルトライを許した。
自滅は破滅へと変わっていった。
見る者の心は…
「この一戦、『都立大プライド』はあった?」
試合後のミーティング。プロコーチの藤森啓介(38)は、あえて笑顔を交えながら語りかけた。表情を失った選手たちの心に、その言葉が染み渡るように。
問いかけるように、語りかけ続けた。
「スクラムで負けた後、なぜ、スクラムでやり返そうとしなかったの?」
「ラインアウトモールでトライされた後、なぜ、ラインアウトモールでやり返そうとしなかったの?」
「都立大ラグビー部のアイデンティティーは、タックル。なぜ、タックルで抜かれたら、タックルでやり返そうとしなかったの?」
スクラムもモールもタックルも、みんなのプライド、みんなにとって譲れないモノなはずだった。その譲れないモノを、あっさり譲ってしまっていた。経験者か初心者か、うまいか下手か。譲れないモノへのマインドセットに、そんなことは関係ない。そのマインドセットが、史上最高の3位にたどり着いた昨季のチームとの決定的な違いだった。
「これじゃあ、見る者の心を奮わせるゲームなんて、できないよね?」
見る者の心を奮わせるゲーム。そう、それこそが勝敗を超えたスポーツの価値。それこそが、都立大ラグビー部のめざす場所だった。
「学生スポーツって、そんなもの」
通算1勝5敗、リーグ戦は残り1試合。8チーム中7、8位が回ることになる4部上位との入れ替え戦出場が確定した。
バックスコーチの掛井雄馬が言葉を連ねた。
「こんな試合を繰り返していたら、マネージャーも、応援に来てくれる卒業生も、みんな、離れてしまう。シーズンは残り2試合。合わせて、たった160分間しか残っていない。練習だって、数えるほどしかできない。学生スポーツって、そんなもんだよ」
早稲田大学で藤森と同期。藤森に請われて、ボランティアでコーチになった。早大で過ごした5年間、けがと手術を重ねた。ちゃんと練習できた時間は、合わせて1年ほどだったか。それでも最後の公式戦、「アカクロ」と呼ばれる、あの伝統のジャージーに袖を通した。リザーブ(控え)で背番号は20。努力と誇りの詰まった、20番のアカクロだった。
だから、その言葉は説得力を帯びる。「学生スポーツって、そんなもの」なのだと。
「もう、言われたくない」
部活の主役は最上級生だ。0-67に、4年生の選手4人は何を思ったのか。
負傷やら何やらで院生と5年生を欠いての大敗だった。「先輩たちに頼ってしまっていたんだなって、いまさらながらに気づいた。プレーも、メンタル面も、もっと4年生が引っ張っていかなきゃならないんだって身に染みました」。キャプテンのプロップ船津丈(仙台三)は言った。
「ここから最後まで、練習の1分1分を大切にしていかないと。4年生が引っ張って、かつ、後輩たちもリーダーシップを発揮できるような雰囲気に、チームを持っていかないと」
副キャプテンのロック大滝康資(國學院久我山)にとっては「ラグビー人生、最悪の試合」だった。中学時代から10年間、楕円(だえん)球を追い続けてきた。ちょっとしたミス、ちょっとしたボタンの掛け違えで試合の流れを失ってしまうのがラグビーなのだと知っている。15人対15人が入り乱れるラグビーで、その流れを引き戻すのはミッションインポッシブルに近いことなのだと知っている。
「こんな試合をしてしまって、言える立場じゃないけど、そこまで歯が立たなかった感じ、しないんです。正確なプレーを80分間、継続する。そのために練習する。残された時間、それしかない」
バックスリーダーのウィング(WTB)伊藤祥(桜美林)は力不足を痛感した。「僕自身、バックスを引っ張りきれていないのが現実。この悔しい試合の映像を見直して、改善していくしかない」
ロック加藤洋人(高津)はシャワーで汗を流した後、たった一人、仲間から離れてベンチにたたずんでいた。「うまくいかなかったことを試合中に修正するスピードが遅かった。後半は、気持ちが切れてしまった面もありました」
反骨の個性派だ。コーチ2人の言葉に、感じるものがあった。
「あと2試合、僕らのプライドを示します。あんな風に言われるの、もう、嫌だから」
泣いても笑っても、あと2試合。合わせて、あと160分間。
そのラスト160ミニッツにすべてを注ぐための、すべてを出しきるための、1分1秒が刻まれていく。
漫然オフサイド、ズタズタになったプライド……。3部残留へ、チームの反発力が問われています。ラスト160ミニッツの最初の80分間、リーグ最終戦を11月24日配信予定の次回でリポートします。