野球

東京大学・平田康二郎 都立西高時代は無名の右腕に「東大初・最優秀防御率」の可能性

東大投手陣の一角を担うまでに成長した平田(すべて撮影・井上翔太)

高校時代に全く無名だった選手が、甲子園のヒーローだった選手を相手に活躍を見せる――。今秋、大学野球の魅力を体現している一人が、東京大学の平田康二郎(3年、都立西)だ。先発に救援にフル回転をしている右腕に迫った。

投げミスをしても、大けがしないところに

折り返しとなる第4週が終わった東京六大学野球リーグ戦。現在、4連覇に挑んでいる明治大学と、2021年秋以来の優勝を目指す慶應義塾大学が、ともに勝ち点3で首位に立っている。

一方、最下位脱出を目指す東大は0勝6敗とまだ白星がない。ただ、開幕から安定した投球を続けているのが、平田だ。ここまで4試合に登板し、16イニングを投げて自責点は3。防御率1.69で、慶應義塾大のエース・外丸東眞(2年、前橋育英)、プロ志望届を提出している早稲田大学のエース・加藤孝太郎(4年、下妻一)に続いてリーグ3位につけている。

平田は「今シーズンは投げミスをしても、大けがをしないところにボールがいっています」と話す。

残り2カードの投球次第では、東大投手としては初めて、最優秀防御率のタイトルを受賞する可能性もある。2005年春に制定された東京六大学の最優秀防御率は、これまで32人が受賞(現・広島東洋カープの野村祐輔(明大)ら5投手が2度受賞)。多くの投手がその後、プロ入りを果たしているところに名を連ねることになる。

第4週を終えた時点で、規定投球回数を投げ防御率1.63。リーグ3位につけている

平田は一浪を経て、東大に入学した。都立西は都内有数の難関校として知られる。ある調べによると、偏差値は都立で2番目に高い73。ただし、野球部は強豪とは言えない。今夏の西東京大会では4回戦まで進んでいるものの、平田の在学時、夏は3年連続で初戦敗退だったという。「秋も春も(都大会出場をかけた)ブロック予選でしか勝ったことはありません」

東大の左のエース・鈴木健(4年、仙台一)と、右のエース・松岡由機(4年、駒場東邦)も、高校時代は無名だった。それでも鈴木健は県16強、松岡は軟式ながら2年時には関東大会で優勝投手になった実績がある。平田は西高で2年時からエースとなったが、2人と比べた中でも無名だった。

大久保裕・助監督は、平田が入部した時から投手としての資質があると見ていたという。助監督は、1981年春に「東大旋風」(早慶両校から勝ち点を奪うなど、シーズン最多の6勝を挙げて4位に)を巻き起こした時の主将。遊撃を守り、2番または3番を打った。

「180cm以上の上背がありましたし(現在は184cm)、コントロールが良かったんです。球威がついてくれば、戦力になると」

184cm、84kg。入部したときから投手としての資質を見いだされていた

2年秋のフレッシュトーナメントが転機に

大久保助監督の見立て通り、平田は2年秋に初めて神宮のマウンドを踏んだ。ストレートの最速は140キロを超えるようになっていた。しかし、3試合の救援登板も、慶大との3回戦で1回3分の2を投げて5失点を喫するなど、東京六大学リーグの厳しさを味わった。

転機になったのは、このリーグ戦後に行われたフレッシュトーナメントだ。東大は総当たりのブロック戦で慶大と対戦。先発全員安打となる23安打を放ち、16-6で7回コールド勝ちを収めた。この試合で「投」の立役者になったのが平田だった。先発を任され、緩急をうまく使い、6回を107球、被安打8の3失点に抑えた。

「(1、2年生同士の新人戦ではあるが)慶大に大勝し、自分も結果を出せたことが、リーグ戦でやれる手応えをつかみました」

2年秋のフレッシュトーナメントで結果を残し、手応えをつかんだ

自信は選手を大きく変える。3年生になった今春は、堂々とした投げっぷりだった。救援として大事な場面を任され、7試合に登板。11回を投げて自責3と安定した投球を見せ、大久保助監督の期待に応えた。大久保助監督は病気療養中の井手峻監督に代わり、この春から監督代行を務めている。

来年のエース候補となった平田は今秋、先発も担っている。リーグ戦初先発は開幕2試合目の明治大学2回戦。4回3失点(自責2)で負け投手になったが、次の先発(早大2回戦)では、5回3分の1を投げて2安打1失点(自責1)と好投。高校時代、無名中の無名だった投手が、名門・仙台育英高校時代から名を馳(は)せていた相手先発の伊藤樹(2年)と投げ合った。ドラフト候補で、大学日本代表の熊田任洋(4年、東邦)のバットも封じた。この試合に限って言えば、内容的には伊藤を上回っていた印象だ。

「野手投げ気味」で見極めが難しいツーシームとストレート

3カード目の慶大戦では、1、2回戦とも救援に回った。2試合とも先発が崩れた中、1回戦は2番手として3回を1失点(自責1)、2回戦は3番手で登板し、3回3分の2を無失点に抑えた。いずれも点差が開いてからの登板になったが、第4週終了時点でリーグ通算19本塁打の廣瀬隆太(4年、慶應義塾)を計3打席無安打に抑えるなど、求められた役割を果たした。

緩いカーブを使った緩急に加え、大きな武器になっているのが、大学入学後に覚えたというカットボールとツーシームだ。ツーシームは常時130キロ台半ばのストレートとの見極めが難しく、各校の打者を苦しめている。

「僕は高校2年から投手になったんですが、それまでは内野も外野もと、いろいろなポジションを守っていたので、野手投げ気味なんです。その影響か、ストレートがナチュラルにシュートするので、ツーシームとの違いがわかりにくいのかもしれません」

ブルペンで準備する平田。慶大戦は2試合ともリリーフ登板だった

詳しくは口にしなかったが、大久保助監督によると、平田は打者のタイミングを外すための様々な工夫をしているようだ。左足を上げて右足1本で立った時、ツーテンポほどの「間」を作っているのも、その一つなのかもしれない。

目指しているのは、明大エースのドラフト候補・村田賢一(4年、春日部共栄)のピッチング。動画で見ながら、配球も参考にして、投球術を磨いているという。

慶大との2回戦では興味深い場面があった。前の打席でレフトへ二塁打を飛ばしていた廣瀬との対戦。平田はインサイドのボールで、レフトフライに打ち取った。タイミング的にはとらえられた感じだったが、わずかに詰まった分、スタンドには届かなかった。

あのボールはシュート軌道のストレートだったのか? それともツーシームだったのか? 試合後に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「うーん、何だったか……。覚えてないです」

背番号「11」の長身右腕は、無我夢中に1球1球を投じる。残り2カードも最下位脱出に向けて腕を振る。

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