城西大学は箱根駅伝3位が目標 ”山の妖精”山本唯翔「去年の自分を超えたい」
第100回の箱根駅伝を前に、12月18日に城西大学のオンライン合同会見が開催された。櫛部静二監督、主将の野村颯斗(4年、美祢青嶺)、主力の山本唯翔(4年、開志国際)、斎藤将也(2年、敦賀気比)の4人が出席し、それぞれに意気込みや現状を語った。
個々の能力が上がり、チームの結束力が高まった
櫛部監督は昨年の箱根駅伝に臨む前から「100回大会では総合3位以内を目指す」と目標を口にし続けてきた。「多くの方が『難しいんじゃないかな』という目標でしたが、1年半前から決めていて、1年以上かけて100回大会に向けたトレーニングを進めてきました」と力強く語る。大きな目標を掲げることで選手たちの意識も徐々に変わり、前回の箱根駅伝は9位でシード権を確保。6月の全日本大学駅伝の関東地区選考会で1位通過すると、10月の出雲駅伝では3位、11月の全日本大学駅伝では5位といずれも大学史上最高を更新した。
指導としては理論に基づいたトレーニングを継続して行っており、大きく変えていることはない。ただ、前回の箱根経験者の10人のうち、8人がエントリーに入ったことに触れ「その選手たちが練習し、トレーニングによって能力が高まったと思います。野村を中心として4年生の競技力も高く、チームの結束力も1年かけてより強まったかなという印象です」とチーム全体がレベルアップしていると話した。
来たる箱根駅伝に向けて、「やはり山が重要」と監督。昨年度区間新記録で区間賞を獲得した山本を中心に、往路では先頭が見える位置でレースを進め、復路も9区、10区の終盤区間に重きを置きたいと考えているという。
「4区が終わった時点でトップとは1分差、悪くても1分半ぐらいの差では渡したいですね。そのためには1区は(先頭と)30秒以内、2区はある程度先頭が見える位置で進めて、終わった時点で1分半ぐらい。3区、4区とキープして山につなげたいです。復路は6区がキーになりますので、今までと違う6区の走りを披露できればと思っています。バージョンアップした選手たちが復路でいい位置で走れればと思っています」
今まで走ったことのない位置でレースを進められれば、選手たちの瞬間的なモチベーションも高まる。能力以上の走りが引き出されることもある、と期待を込めて語った。往路重要区間の2区は斎藤か、ヴィクター・キムタイ(2年、マウ)でまだ決めかねているところもある。体調不良なども考慮し、1〜3区は初めからエントリーせず当日変更で対応することも櫛部監督は明言した。
山本「過去の自分を超えて、初代『山の神』の記録を目指す」
キーマンとして挙げられた山本は、前回大会の箱根の後は「5区では目標を達成できたので、最後の箱根は2区を走りたい」と話していた。しかし今回も5区を走ると明言されており、その気持ちの変化をたずねた。
大学入学時に「5区で区間賞を取る」ことを目標にしていた山本。それがまさかの3年生で達成でき、「学生のうちしか箱根駅伝はないので、エースが集うあこがれの区間である2区を走りたい」という思いが出てきた。「でも監督と相談して話して、やっぱりこのチームでやっている以上、チームがいちばんいい状態で結果を出せるのが自分の役目だと思いました」。2区を走りたい気持ちがなくはないが、5区の区間賞・区間新が自信になり、今回も5区を走ることにいい影響を与えると思う、と山本は話す。
今年は駒澤大学の山川拓馬(2年、上伊那農業)、創価大学の吉田響(3年、東海大静岡翔洋)ら、強い選手たちが5区の候補として名を連ねている。他大学の選手を意識するかと聞いてみると「やっぱり戦うのは自分の記録です。区間賞争いは激しくなると思いますが、あくまで過去の自分に勝つつもりでやっていきたいと思います」という。山本の記録は1時間10分4秒。目指すのは初代・山の神の今井正人(現・トヨタ自動車九州)が作った1時間9分12秒だ。
「前回5区を走っていて、途中で(足が)つりそうになったところがありました。それがなかったら9分台を出せていたと思います。しっかり準備をして、いちばんきつい小涌園のあたりを耐えられれば、新記録を樹立できると思います」
山本は前半のトラックシーズンでは4月の学生個人選手権で異例の10000m2人勝負を勝ちきり、FISUワールドユニバーシティゲームズに出場して銅メダルを獲得した。「銅メダルを取れて、世界の選手と少しでも戦えるんだと気づかされました。ゆくゆくはオリンピックに出場して、結果も出したいと目標を立てるきっかけにもなりました」。卒業後はマラソンにもチャレンジしたいと語った。
前回大会の活躍で「山の妖精」というネーミングが大きく取り上げられた山本。「山の神じゃないんだ、とはけっこう言われました。でも、どんな名前であってもみんなにしっかり覚えてもらえる名前だったらいいと思います」とはにかみながら話した。世界で自信を得て、最後の山登りに臨む。
主将・野村「どこでも走る準備はできている」
主将の野村は前回の箱根駅伝が終わった後に主将となった。何かチームをまとめる上で苦労したことがあるかとたずねると「何か苦労するとか、意識することなくとてもスムーズに進めています」と笑顔を見せた。しかし個人としては3月に左のふくらはぎの肉離れ、6月末には左の中足骨の疲労骨折と2度のけがを経験し、苦しい1年間となった。
「いつ試合に出られるかわからない中で、最低限箱根には間に合わせようと思っていました。夏にけがした時は『やっぱり出雲駅伝に出たい』と思い、走る以外のトレーニングを継続してきました」。出雲駅伝には間に合わなかったかが、11月の全日本大学駅伝には出場。5区を走り区間8位だった。
前回の箱根駅伝では1区を走り、トップとは29秒差の区間11位で襷(たすき)リレー。実際に走ってみて、ラスト2km、3kmのペースアップに課題があると感じ、そこにしっかりと対応できるようにと練習を積んできた。それが全日本大学駅伝の選考会(3組トップ)やトラックレースにも生きたと感じている。「ラストまで集団に入れるように、どんなペースでも対応できる力をつけたいと考えてやっています」
最後の箱根で走りたい区間を聞かれると「キャプテンとしてどこでも、任された区間を区間上位で走れる準備をしています」と力強く話した。
伸び盛りの斎藤、陸上一筋で世代トップに
前回ルーキーながら2区を担当し、1時間8分46秒で区間15位だった斎藤。「シンプルに実力不足」といい、さらに力を伸ばすために継続して練習に取り組んできた。「予選会のハーフマラソンではいい結果を残せたんですが、2区は23kmあって、箱根駅伝でしか走れない距離です。23kmを押しきれなかったのが課題だったと思います。とにかく実力不足だと思い、トラックの実績を上げること、長い距離に対応することを考えてやってきました」
走力アップにはチームメートのキムタイとの練習も大きく貢献した。普段は山本が引っ張り、斎藤、キムタイがつく状況で3人でのポイント練習を行っていたが、全日本前に山本は対応距離が異なるために別メニューでの練習となり、斎藤とキムタイ2人でのポイントをすることが多かった。
「ヴィクターは引っ張らない選手なので、自分が引っ張るしかなくて……。そこで引っ張りあいながらやっていくことでメンタル面が強くなって、自分でレースを作るようになりました」。それが全日本大学駅伝4区での強気の走りと区間賞獲得につながった。全日本の1週間後には10000mで27分59秒68もマークし、波に乗っている。
4年間で世代トップになるのが目標という斎藤は、駒澤大の佐藤圭汰(2年、洛南)を強く意識している。「1日でも早く追いついて、佐藤くんを抜かしたいです」。休日にはYouTubeで自分のレース動画や、色々な陸上のレース動画を見ているという陸上一筋ぶり。レベルアップして2度目の箱根路を迎える。
上昇気流に乗る城西大が、往路から積極的にレースを展開して上位に食い込むことができるか。あと2週間後に迫った本番がより楽しみになってきた。