青学大・志貴勇斗主将 走りで貢献できなくても、仲間に誇り「強いところ見てほしい」
2年ぶりの箱根駅伝総合優勝を狙う青山学院大学は、今季のキャプテンを務める志貴勇斗(4年、山形南)が12月11日に発表されたエントリーメンバー16人から外れた。前年度のキャプテンを務めた宮坂大器(現・ヤクルト)に続いて2年連続の出来事だが、それだけチームの選手層が厚い証左でもある。12月14日の記者会見では、チームへの思いがあふれ出た。
「自分のコンディション不足」
志貴は学生3大駅伝にそれぞれ1度ずつ出走したことがある。2年生だったときの第53回全日本大学駅伝と第98回箱根駅伝、3年生だったときの第34回出雲駅伝だ。全日本と箱根は1区を任された。原晋監督によれば「非常にプレッシャーのかかる区間。チームで同じトレーニングをやっていますから、しっかり走れば『俺も走れる』という機運が高まる」という大事なポジションで、全日本は区間4位、箱根は区間5位でそれぞれ襷(たすき)をつなぎ、箱根ではチームの総合優勝にも貢献した。
一方で自身にとって苦しい走りになったのが、3年時の出雲だった。当時のエース・近藤幸太郎(現・SGホールディングス)から2位で襷を受け、4区を走ったが区間6位。順位を二つ落としてしまった。昨シーズンはその後、全日本も箱根も出走機会は訪れなかった。
キャプテンとなった今シーズンも、出雲と全日本はエントリーメンバーに選ばれなかった。最後の箱根に向け、チーム内の選考レースと位置づけられたのは、11月12日の「世田谷246ハーフマラソン」と、11月22日の「MARCH対抗戦2023」。志貴は世田谷で前半から積極的にレースを引っ張ったが、後半での勝負についていけず1時間7分56秒でチーム13番手。MARCH対抗戦は10000mで30分かかってしまった。「箱根のために最低限走らなければいけないレースだった中で、自分のコンディション不足もあり、2本とも合わせられなかった。そこで自分が箱根を走る道は閉ざされてしまったと思っています」
最後の使命として、チームを優勝させる
シーズンを通して「走り」でチームに貢献できず、悔しさともどかしさを感じる中、キャプテンとしてできることは何か。それは「最後の使命として、チームを優勝させること」だと志貴は言う。「残りの期間、チームとしてどのように雰囲気を盛り上げていくか。それが私にできる仕事だと思う」。思えば、キャプテンになる上でめざした存在だった3学年先輩の神林勇太さんも、最後の箱根駅伝はけがの影響で走ることができず、9区の給水係を務めた。志貴にもキャプテンとしての役割は、まだ残されている。
12月14日の記者会見では、チームメートのことを誇らしそうに語っているのが印象的だった。「優勝に向けて戦えるチームに成長してくれたことを本当にうれしく思っています。『自分たちのチームはこれだけ強いんだ』というところを皆さんに見てもらいたいです」。下級生の頃から活躍してきた前年度の4年生が抜け、今季のチームは「駅伝経験」という面では前年度より劣るかもしれない。しかし、自身が結果を残せなかったMARCH対抗戦で、仲間たちは軒並み自己ベストを更新。エントリーメンバー上位10人の10000m平均タイムは28分24秒63で、28分30秒を切っている。このタイムは前年度をも上回っており、あとは他チームとの駆け引きなどが重要となる「駅伝力」が、出雲と全日本を経て、どこまでチーム内に蓄えられているかが大事になる。どちらの駅伝も出走できなかった志貴としては、あとは仲間を信じるほかない。
「夢の舞台」から「勝たなくちゃいけない場所」へ
2年目で実際に走る前まで、箱根駅伝は「夢や目標の舞台だった」と言う。しかし4年目で、かつ主将となった今では「勝たなくちゃいけない場所、青学が一番輝いている場所」という認識に変化した。記者会見に先立って行われた壮行会では「勝てる16人がそろったと思います。箱根路で1秒でも早く襷をつないで、優勝できるように頑張りたいと思います」と力強く語った志貴。入学直後に新型コロナウイルスの感染拡大で最初の緊急事態宣言が発令され、最も影響を受けた世代。ただ、外にも出られない当時の寮生活で深まった「同期のつながりの強さ」を武器に、最後の箱根路を戦う。