陸上・駅伝

特集:第103回関東学生陸上競技対校選手権

慶應義塾大ルーキー・高橋諒が十種競技で優勝 早くも到達した「8000点」の水準 

男子1部十種競技を制した慶應義塾大の高橋(すべて撮影・井上翔太)

第103回 関東学生陸上競技対校選手権大会 男子1部十種競技

5月9、10日@国立競技場(東京)

優勝 高橋諒(慶應義塾大1年)7235
2位 橋本秀汰朗(国士舘大4年)7008
3位 岡泰我(国士舘大4年)6803
4位 前田和希(国士舘大2年)6707
5位 宮内夏葵(日本体育大2年)6647
6位 竹田俊輔(筑波大4年)6580
7位 大前遼馬(日本大4年)6482
8位 三瓶祐紀(日本大2年)6421

5月9、10日にあった第103回関東学生陸上競技対校選手権(関東インカレ)の男子1部十種競技で、慶應義塾大学の高橋諒(1年、桐朋)がルーキーながら堂々の初優勝を果たした。入学からわずか1カ月半。八種競技の高校記録保持者が、これ以上ない形でインカレデビューを飾った。

【特集】陸上・第103回関東インカレ

10種目のうち、半分で自己記録を更新

身長178cm、体重71kg。混成競技者として特別な体格を持っているわけではない。それでも、どんな種目も器用にこなす能力は、大学陸上の舞台でも突出していた。

初日、1種目目の100mは10.94(追い風0.2m)。「スタートはよかったが、最後は足が回らなくなった」。自己記録からは0.2秒以上遅く、まずまずの出来から始まった。ここからが見せ場だった。次の走り幅跳びでセカンドベストの7m33。続く砲丸投げでは11m42と自己ベストを更新した。自身が最も評価したのは走り高跳び。「手拍子の力を借りた」と、1年生ながら観客を味方につけ、ここでも1m99をマークし、自己新を連発した。

全種目終了後、右手で「K」を作り記念撮影に応じる高橋ら

2日目で圧巻だったのは棒高跳びだ。高校の八種競技にはない種目だが、その分、伸びしろは十分だった。棒高跳びは、横浜国立大学で専門指導を受けている。その成果が実り、自己記録を30cm更新する3m60。やり投げでも60m99の自己新を出した。

結局、10種目のうち半分で自己記録を更新。日本選手権参加標準記録、今夏のU20世界選手権参加標準記録を突破する7235点。慶應義塾大としてもこの種目で58年ぶりの優勝という快挙を成し遂げた。

「優勝を狙うと言っていましたが、まさか自分ができるとは思っていませんでした」

高校からの先輩・豊田兼との約束

桐朋高校時代からその才能は開花していた。初年度にインターハイで史上初の1年生優勝。2年生のときは連覇を達成した。次は、史上初のインターハイ3連覇へ。アクシデントはその矢先に起きた。

インターハイへの切符をかけた南関東大会を前に、脚を痛めた。無念の欠場で、3連覇への挑戦は、スタートラインに立つことさえできなかった。

それでも、すぐに気持ちを切り替えられるのが、自身の強みだと高橋は語る。「性格上、ネガティブなことをポジティブに置き換えられる。3連覇がダメなら高校記録を出すしかないと、すぐに思った」

桐朋高校は進学校で知られる。自身も、周りの友人も大学受験の準備がある中、11月まで競技を続けると決意した。「エブリバディ・デカスロンin愛知」で、悲願の高校記録となる6264点をたたき出した。

進学先を慶應義塾大に決めたのは、自由な練習環境が桐朋高校に似ていると思ったから。「自分で考えて競技をやるという面で良いのかなと思った」と高橋は言う。

高校時代に練習環境が似ていると感じ、慶應義塾大へと進んだ

もう一つの決め手は、高校の3学年上の先輩、豊田兼(4年、桐朋)の存在だ。桐朋は中高合同で練習するため、3学年差でも旧知の仲。400mハードルでパリオリンピックの参加標準記録を突破するなど、豊田の飛躍した姿を見て「あこがれの先輩なので、その影響は大きかった」と話す。

今大会前には2人で「桐朋で16点を取ろう」と約束していた。豊田も400mで優勝。見事、1位に与えられる「8点」をともにつかみ取った。

慶大・豊田兼 パリ参加標準突破の「二刀流ハードラー」、夢実現にかけるラストイヤー

ポイントは高校時代と異なる種目順への対応

その才能を日本陸連も注目している。4月の強化方針説明会で、混成競技の眞鍋芳明ディレクターは「パリ五輪、東京世界選手権の先で期待できる選手」として高橋の名を上げた。

眞鍋ディレクターによると、26~28歳で8000点の大台に達するには、大学1年時に6800点、大学2年時に7200点が必要というデータがある。高橋は1年目の関東インカレで、早くもこの水準に到達した。

ただ、本人はあくまで自分のペースを貫く。大学在学中の目標は日本選手権で3位以内。卒業後も「競技を続けるかはまだ決めてない」という。

最終種目の1500mで両腕を広げながらゴール

今後の課題は、十種競技になり順番が変わった種目への対応だ。十種競技では初日の4種目目に走り高跳び、5種目目に400mを走る。これは八種競技と順番が違い、「つらくてびっくりした」。400mの自己ベストは48秒91ながら、関東インカレでは50秒85。走り高跳びの疲労がある中、いかに初日の最終種目を切り抜けるかがポイントになる。

大学での競技生活はまだ始まったばかりだ。試合を重ねることで、この課題は克服されていくはず。計り知れない伸びしろを持つルーキーの4年間が、幕を開けた。

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