野球

立教大・沖政宗が投球フォームを大きく変えた理由 球に力を伝える手法、試行錯誤の末

東京六大学の現役投手で最多登板を誇る立教大の沖(高校時代を除きすべて撮影・井上翔太)

立教大学の沖政宗(4年、磐城)は2年春から投手陣の中心として投げ続けている。「エース」の称号こそまだ得ていないが、背番号「11」はどんな役割もいとわず、チームのために腕を振り続けている(文中の通算成績は5月15日現在)。

使い続けてもらっている意味と向き合い

沖には「献身」という言葉がよく似合う。1年秋に東京六大学でリーグ戦初登板を果たして以来、通算41試合に登板。これは東京六大学の現役投手としては最多だ。先発・中継ぎ・抑えと、すべてをこなしながら、積み上げた投球回数は102回と3分の1に達した。

もちろんベンチから信用されなければ、マウンドには立てない。沖が信頼を得たのは2年春だった。2学年上にはエースの荘司康誠(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)がいたが、当時の溝口智成監督(現・杏林大学監督)は、荘司のポテンシャルを評価しながらも、こう言っていた。「沖なんですよ。沖の存在感は大きい」。持ち味は制球力と安定感。監督からすれば、計算が立ち、安心して送り出せる投手なのだろう。通算の防御率は2.90である。

2年春は最後の明治大学戦で勝ち点を奪った方が優勝という展開になった。沖はこのカードの全3試合にリリーフ登板。明治大に優勝を決められた3回戦では負け投手になったが、3試合で7回3分の2を投げて、失点は1だった。役割を果たしたと言っていいだろう。シーズンを通しても、規定投球回数にはあと3分の2だけ足りなかったものの、防御率は1.54。荘司と同じ2勝を挙げた。

2年の春から大事な場面でマウンドを任されてきた

開幕戦から抑えを担った2年秋も、防御率は春と同じ数字を残したが、2敗を喫した。2敗目は優勝の可能性が消えた一戦で、2年時は春も秋も、チームの明暗を左右する試合で負け投手になってしまった。

2番手投手として3イニングを無失点に抑え、今季初勝利を挙げた5月11日の明治大1回戦の後。沖はこんな言葉を口にした。「1年の時からここ(神宮球場)で投げさせてもらい、ずっと使い続けてもらってますが、(チームからの信頼を)裏切ったと、思ったこともありました」

投げるたびに抑えられたらいいが、いつもそうとは限らない。それでも、信頼されてマウンドに立つ以上、最高の結果を残したい。沖は2年生の頃から「使い続けてもらっている意味」と向き合ってきたのだろう。

「使い続けてもらっている意味」は誰よりも分かっているつもりだ

どんな時も自分の役割をまっとうするだけ

立教大は昨年、春、秋ともに勝ち点1で5位と、苦しい1年になった。3年生になった沖は、春は2回戦の先発を任された。シーズン通しての防御率は4点台と、期待に応えられたとは言いがたいが、引き分けを含めて開幕4連敗で迎えた東京大学との2回戦で、リーグ戦初完投・初完封を果たした。無四球、被安打3とほぼ完璧の内容で、チームの危機を救った。

秋は部内の不祥事が表沙汰になった。その影響もあってチームは開幕8連敗するなど低迷していたが、沖は主に救援として、全10試合中、チーム最多タイの7試合に登板。地に足をつけ、黙々と投げ続けた。5位決定戦となった東大とのカードでは、最下位を免れた2回戦で先発を務めた。

どんな時も自分の役割をまっとうするだけ。規定投球回数には達しなかったが、立教大投手陣では唯一、防御率が2点台だった。

周囲に惑わされることなく、淡々と右腕を振る

コロナ禍で失われた春の選抜高校野球出場

沖は小学生の頃から、地元・福島では有名だったようだ。東北6県の小学生選抜チームである「東北楽天ゴールデンイーグルスジュニア」でもプレーしている。高校は1971年夏の甲子園で準優勝の実績がある古豪・磐城高へ。2年秋はエースとして、福島県大会準決勝以外の9試合に先発し、5試合を完投(完封2)、公式戦での防御率が0.90。抜群の安定感でチームを東北大会ベスト8に導き、翌年、春の選抜に「21世紀枠」で出場することが決まった。磐城高にとっては実に46年ぶりの選抜出場となる予定だった。

ところが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、2020年の選抜高校野球は中止に。夏の甲子園も中止となり、高校球児にとっての「大目標」が相次いで失われた。いまの大学4年生はコロナ禍の影響で「春と夏の甲子園」を奪われた世代だ。沖に限らず、誰もが「当たり前が当たり前でなくなった経験」をしている。

それだけに「甲子園交流試合」で憧れのマウンドを踏んだ喜びは格別だっただろう。こうした経験を財産に、指定校推薦で立教大へ進んだ。

2020年夏の甲子園交流試合で登板した(撮影・白井伸洋)

下半身を集中的に鍛え、体重約7kg増

最上級生となった今年、沖の投球フォームは大きく変わった。昨年まではオーソドックスだったが、今年は軸足にじっくり力をためてから、トルネード投法のように少し体をひねって投げている。

沖はこのフォームに変えた理由を「3年間、僕のウィークポイントはストレートでした。今年はそこから目を背けず、平均球速を高め、ストレートの質を上げようと思ったんです」と説明する。

「昨年までのフォームを見直したところ、コンパクトにまとめようとしていた分、体を使い切れていなかったと気付きました。ならば、小さくではなく、大きく使うことで、その力をボールに伝えたらどうかと。ウェートトレーニングでは、ボールに伝える力の源となる下半身を集中的に鍛えました。その成果で体重は7kgほど増え、下半身が大きくなりました」

木村泰雄監督は「(フォームが変わってから)いいボールがいってる。ツーシームやスライダーのキレも良くなった」と評す。

体を使い切るため、体を少しひねってから投球動作に入る

1球1球をより丁寧に

ただし、最初から意図していまのフォームになったのではないという。

「どうやったらボールに力が伝わるか、試行錯誤を繰り返した末にたどり着きました。もっとも、完成形はなく、その時々で納得がいくボールが投げられるよう、マウンドでは微調整をしてます」

沖は投手としてだけではなく、一人の人間としても、チームや関係者から信頼されているようだ。周囲からは「ストイック」「練習熱心」「真面目」といった声が聞こえてくる。

立教大体育会応援団チアリーディング部長の山﨑真菜(4年、日大二)は、沖が同級生であることを誇らしく思っているという。

「1年秋に神宮のマウンドに立った時は、当時は面識がなかったにもかかわらず、(チアの)先輩方に『あの投手は同級生です』と伝えずにはいられませんでした(笑)。私たちは応援する立場ですが、プレッシャーに負けず、長く活躍し続けている姿から、『自分たちも』とパワーをもらっています。球場外でも礼儀正しく誠実で、ファンの方や応援団にいつもしっかりあいさつをしてくれます」

大学ラストイヤーは、これまで以上に、チームのためにという思いが強い。1球1球をより丁寧に投げているともいう。勝利に向かうためだけに、沖は最善を尽くす。

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