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特集:あの夏があったから2024~甲子園の記憶

中央大学・熊谷陽輝 バットを短く持って、本塁打量産の背景「すごくボールが見えた」

昨夏の甲子園、北海高校を投打で引っ張った中央大学の熊谷陽輝(撮影・井上翔太)

全国最多、40回の全国高校野球選手権(夏の甲子園)出場回数を誇る北海(南北海道)。昨夏は1回戦、2回戦ともにサヨナラ勝ちで16強まで勝ち進んだ。3回戦は神村学園(鹿児島)に4-10で敗れたが、甲子園に強いインパクトを残した。そのチームを投打で引っ張ったのが中央大学の熊谷陽輝(はるき、1年)だ。

【特集】あの夏があったから2024~甲子園の記憶

応援ソング「森のくまさん」に乗って

野球漫画「ドカベン」の山田太郎を思わせる活躍だった。南北海道大会6試合での成績は21打数16安打で、打率7割6分2厘、13打点、5本塁打。駒大苫小牧との準決勝では、エスコンフィールド北海道のバックスクリーンにソロ本塁打を打ち込んだ。昨夏の打撃好調の要因を、熊谷はこう振り返る。

「春の大会では調子を落としていたんですけど、夏の前、平川敦監督から『バットを短く持て。お前は当たったら飛ぶんだから、しっかりミートすることを意識しろ』とアドバイスされたんです。監督の言う通りにしたら、すごくボールが見えて、そこから打てるようになりました」

身長183cm、体重94kgの大きな体ながらもバットを短く持って振り抜き、持ち前のパワーで長打を量産した。応援ソング「森のくまさん」に乗って、甲子園でも好調を維持。3試合で11打数6安打、打率5割4分5厘、1本塁打、4打点の活躍だった。

昨夏の甲子園、神村学園戦でホームランを放った(撮影・田辺拓也)

1年夏で初めての甲子園、雰囲気に圧倒された

小1で野球を始めた頃から「プロ野球選手になる」という夢を持って野球に打ち込んできた。小6の冬には北海道日本ハムファイターズジュニアの一員として、12球団ジュニアトーナメントに出場。中学時代は空知滝川シニアで活躍し、数多くの名選手を球界に送り出してきた北海への進学を決めた。

入学時、北海には2学年先輩に木村大成(現・福岡ソフトバンクホークス)や大津綾也(現・読売ジャイアンツ)、宮下朝陽(現・東洋大学3年)らがおり、2021年春に行われた第93回選抜高校野球大会に出場していた。先輩たちのレベルは高かったが、熊谷は春の大会からベンチ入り。夏の甲子園では、背番号13番をつけてメンバー入りした。初めて足を踏み入れた甲子園の印象については、こう語る。

「無観客だったんですが、それでも圧倒されるような雰囲気がありました。自分は試合には出場できず、チームも初戦で敗れてしまった。もう一度、ここへ戻って来たいと強く思いました。先輩たちは勝てなかったんで、自分たちは甲子園で勝つことを意識して取り組みました」

初めての甲子園は「圧倒される雰囲気がありました」と話す(撮影・小川誠志)

秋の新チームからは中心打者とエースとしてチームを引っ張ったが、甲子園への道のりは険しかった。2年夏は南北海道大会の準々決勝で札幌大谷に0-19と大敗。熊谷はこの試合で17安打を浴び、14失点と打ち込まれてしまった。

2年秋、新チームは全道大会の決勝まで勝ち上がった。クラーク国際との決勝は七回に熊谷がソロ本塁打を放って先制したが、八回に同点に追いつかれた。タイブレークとなった十回に2点を勝ち越され、惜敗。クラーク国際が翌春の選抜高校野球大会に出場した。

大敗、そしてあと一歩で甲子園を逃した秋の悔しさを胸に、冬は厳しい練習に高い意識で取り組んだ。3年春、チームは全道優勝。夏の南北海道大会も制し、2年ぶりとなる夏の甲子園にたどり着いた。

主力として戻った甲子園は「めちゃくちゃ緊張」

1年目の夏とは違い、チームの主力選手として甲子園の土を踏んだ。明豊(大分)との1回戦は「めちゃくちゃ緊張しました」と笑う。「相手もテレビで見たことがある大分の強豪だったので、『こんなチームに勝てるかなぁ』と。初回、三者凡退に抑えられてホッとしました」

先発投手の熊谷は3番手、5番手と3度マウンドに上がり、計7イニングを6安打2失点と好投。打っても2安打を放ち、2度生還した。九回裏に追いついた北海は、タイブレークに入った十回裏、小保内貴堂(現・北海学園大学1年)、大石広那(現・3年)の連打で逆転サヨナラ勝ちを収めた。

マウンドでは気迫を前面に出して投げ込む(撮影・滝沢美穂子)

浜松開誠館(静岡)との2回戦は八回裏、同点に追いつき、九回は先頭の熊谷が左前安打で出塁。犠打で二塁へ進み、関辰之助(現・北海学園大学1年)の左前打でサヨナラのホームを踏んだ。

神村学園(鹿児島)との3回戦は一回に4点を奪われ、苦しい展開になった。熊谷も五回からリリーフで登板したが、相手打線の勢いを止められず、追加点を許した。右ひじを痛めて本調子ではなく、痛み止めを飲みながら力投。打撃では一回に適時二塁打、五回には2ランを放ったが、追いつけなかった。

昨秋に右ひじを手術、大学からプロ入りを

主力として戦った甲子園での3試合。熊谷は悔し涙を流さなかった。「2年の夏と秋に悔しい思いをして、そこからみんなで頑張って、最後、甲子園で二つ勝つことができた。悔しさを胸にしっかりと練習すれば結果はついてくるんだ、ということを高校野球から学びました」

右ひじを痛めていたこともあり、プロ志望届の提出を断念。大学4年秋のドラフト会議で指名されることを目指し、東都リーグの名門・中央大学に進学した。今春のリーグ戦、第2週の國學院大學2回戦では「7番・指名打者」でリーグ戦初スタメンをつかみ、二回の第1打席で初安打、初打点をマークした。

昨秋に右ひじを手術し、春は登板しなかったが、現在は投球練習を再開している。「戦国」と呼ばれる東都でも、投打二刀流での活躍を目指している。

リーグ戦初スタメンをつかみ、初安打初打点をマークした後の熊谷(右、撮影・小川誠志)

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