陸上・駅伝

特集:第93回日本学生陸上競技対校選手権大会

東大院・古川大晃 研究と走りを両立し、さらに進化した姿で箱根駅伝の舞台を目指す

日本インカレで好走した古川。学生10年目、箱根駅伝出場をめざす(すべて撮影・藤井みさ)

9月19日、日本インカレ1日目に行われた男子10000m決勝で、東京大学大学院の古川大晃(D4年)が10位に入った。中盤まで留学生にくらいつき粘りの走りを見せた古川。「箱根駅伝出場」の目標に向けて走り続ける。

自分のリズムで飛び出し、留学生に食らいつく

レースには19人が出場。スタートするとすぐに桜美林大学のネルソン・マンデランビティ(3年)が飛び出し、古川もそこについた。3周目に2人は追いついてきた留学生に吸収され、先頭集団は7人に。はじめの1000mは2分50秒、次の1000mも2分50秒だったが、2000mから3000mは3分4秒と大きなペース変動があった。古川は徐々に集団の後方に下がりながらも、必死に先頭集団にくらいついていった。応援している仲間たちからは「古川さん!がんばれ!!」「古川粘れ!かっこいいぞ!!」と大きな声が飛んだ。

6000mをすぎると留学生集団はペースアップ。古川は離されて単独走になった。粘る古川に、第2集団で走っていた選手たちが徐々に追いついてきた。残り4周となったところで後ろから追いついてきた京都産業大学の小嶋郁依斗(かいと、4年、滋賀学園)、湘南工科大学の松田朋樹(4年、白鷗大足利)、東洋大学の網本佳悟(3年、松浦)にとらえられ、突き放された。最後は全体10位でのゴールとなった。

はじめの2周は先頭を走った古川。自分のリズムで出たら先頭になったと話す

レース後、古川に留学生についていった狙いを聞いてみると「正直あそこの位置で行けるとは思っていなかったんですけど、ただ積極的に、自分の良いリズムでいきたいなと思っていました」と決して狙って留学生についていったわけではなかったと明かす。「まさか6000mまで留学生と走れるとは思っていなかったので、楽しかったです」

一方、日本人トップを取れなかったことに話を向けると「5000m、6000mぐらいからもしかしたらと思って、欲が出てきました」と率直に振り返る。小嶋らに抜かれた時もついていきたかったが、力及ばずだった。

走りの実力を高め、研究への興味も大きく

熊本県の八代高校で陸上を始めた古川。はじめは5000mのタイムは16分40秒ほどだったが、練習すればするほどタイムが伸びて、3000m障害で南九州インターハイにも出場。卒業時には15分5秒までベストが伸びた。一浪して熊本大学に入学し、大学3、4年の時には熊本城マラソンで連覇。全日本大学駅伝九州地区選考会の結果をもって、3年時には全日本大学選抜、4年時は日本学連選抜チームで伊勢路を駆けた。

マラソンで好結果を出した頃から、「人と走ると楽なのではないか」と素朴な疑問と興味を持つようになった。先行研究で空気抵抗に関する論文はあったが、単にそれだけではないのではないか。九州大学大学院に進学してからは、本格的に「追尾走」をテーマに研究するようになった。

21年には研究と走りの両立を考え、環境としても「ベストな選択」という東大大学院博士課程に進んだ。関東インカレ3部では1年時は5000mと10000mに、2、3年時は5000m、10000m、ハーフマラソンの長距離3種目に出場。今年も10000mとハーフマラソンに出場するなど、常識破りのタフな連戦を続けている。

留学生にくらいつく古川に、仲間から「かっこいいぞ!」と大きな声援が飛んだ

レース後、研究と走りの関連について聞かれた古川は「速くなりたいから研究している、というのは正直あまりなくて。競技をしてくる上で起きてくる疑問や、不思議だと思うことや面白いなと思うことがあって、そこから研究の力が湧いてくるんです」と、自分の走りを進化させる目的で研究しているわけではないと答える。

だがこうも言う。「研究をしていると、競技に大きく生きてくるなと感じる部分はあります。例えば走る時に、どのポジション取りがベターなのか、というのは研究からざっくりわかってくるので、そこを少し意識することもあります」

走る時は極力無になりながら、ふとした時に感覚的なところを大事にしつつ、少し科学を取り入れつつ。そうやって古川はこれまで走ってきた。

29歳で迎える予選会、さらに進化して本戦へ

21年に東大大学院に入学して、博士課程4年目。ここまで研究と走りの両立を続けてきたのは、やはり箱根駅伝の存在があるからだ。東大陸上部は、学部生とは別に大学院チームも箱根駅伝予選会に出場している。現実的にはチームでの出場は難しいが、予選会に出場して好成績を残せば、関東学生連合チームの一員として箱根路を走れる可能性がある。関東の大学に進学したからには、学生で一番大きな大会を走ってみたい。その思いは東大入学時から変わらず古川の中にある。

実際に古川は1年時、2年時にも学生連合の16人に選ばれたが、出走はならなかった。年始の第100回大会では、全国からエントリー可能となり、予選会通過校が13校に増えた反面、学生連合チームの編成はなかった。「今年こそ」の思いは強い。

単独走になってから粘ったが、後ろから追いついてきた3人にかわされてしまった

10月9日で29歳になった古川。学生としては10年目のシーズンを迎えた。年齢による影響はなにかありますか?とたずねると「そんなに感じないですかね」と言いつつも、「あるとすればなんとなく片方の足の疲れが出やすくなってるかなと。あとは言い訳ですけど、20歳の頃の最後の『おりゃー!』みたいな、後先考えずに走るみたいなことがなくなったかもしれないです。なんか頭を使うようになったというか、スマートになっちゃったなと」と苦笑まじりに話す。

最後に、まだまだ進化していくということですよね?と思わず口にすると「はい、進化したところを箱根の本戦で見せられたらなと思います」とはっきりと言い切った。東大大学院から箱根駅伝を走れば、史上初の快挙となる。まずは19日の予選会での快走が楽しみだ。

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