陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

4years.ならぬn-years. 大学院生ナンバー1決定戦「院カレ」への思い

大学院生のための第3回全日本院カレが開催されました(すべて提供・院カレ実行委員)

3月26日、東京の代々木公園陸上競技場(織田フィールド)で第3回全日本院カレが開催され、伺ってきました。全国から大学院生が集結する競技会です。私、M高史は第1回大会に続いて、MCを務めさせていただきました(学年は現在の学年です)。

3回目の今回は競技力と研究力で勝負!

第1回院カレ5000mの優勝者で、今回の実行委員代表でもある東京大学大学院・古川大晃さん(博士3年)に「院カレ」についてあらためてお話を伺いました。2年連続で箱根駅伝の関東学生連合にエントリーされている実力者でもあります。

「大学院生の全国ナンバー1決定戦と全国の大学院生の交流の機会という二つのコンセプトがあります。大学院生は孤独に練習をしている人もいるので、集まってレースをして交流するという特色ある大会だと思っています。またSNSでも出場選手の記録、実績、研究内容などの情報を発信しました。各大学院生の個性をできるだけ発信して、こういう大学院生がいるんだと興味を持っていただき、推しの大学院生を作れたらなと思って企画を進めました」

第1回大会に続いて、今大会でもMCを務めさせていただきました

100m、800m、5000m、n×400mリレーという「競技力の部」に加えて、それぞれの研究内容を得点化した「研究力の部」も設けられて、大学院生ならではの熱くてユニークな競技会となりました(今大会は非公認競技会でした)。

リレーもタイムを競うのではなく、設定したタイムからどれだけ近づくことができるか「体内時計を競う」というエンタメ要素も含まれています。

一方で、5000mはガチ対決!上記の古川さんに加えて、10000m28分45秒78の実力者でこの春に九州大学大学院を修了された吉岡龍一さん。3000m障害(SC)で8分台の実力者・東京大学大学院の森田雄貴さん(修士2年)が集結し、ハイレベルなレースが期待されました。

この日は冷たい大粒の雨が降りしきり、ウォーミングアップをしていてもなかなか体が温まらないようなコンディションでした。そんな中でも大学院生の皆さんは会場内の準備をしつつ、号砲に備えていました。

すべて手作りの競技会であるため、手分けして皆さんが会場のセッティングを行います。私、M高史もMCの準備。第1回の発案者である東大大学院OBの阿部飛雄馬さんも駆けつけ、サポートをされていました。

5000mのスタート。冷たい雨の中、熱いレースが繰り広げられました

冷たい雨の中、ハイペースとなった5000m

5000mはスタートから古川大晃さんが飛び出しました。冷たい大粒の雨が降りしきる中、スローペースになると思いきや、古川さんが序盤から果敢に攻めていきました。

「今回のレース、本当に寒かったですが、せっかくだからいいレースにしたいと思って」とレース後に語られた古川さん。800mを過ぎたあたりでペースが落ち着いたかと思いきや、吉岡さんがさらに前に出ます。1000mは2分49秒で通過しました。

序盤から古川さん、吉岡さん、森田さんの順にハイペースでレースが展開

3番手を走っていた森田さんによりますと「最初の400mが64秒〜65秒で、いっぱいいっぱいでした。800mで古川さんが落ち着いたら、その後に吉岡さんが行ったので、やられたなと思いました(笑)。1000mが2分49秒だったので、譲り合って牽制(けんせい)ではなくて、お互いのつぶし合いだなと」と振り返ります。

その後は駆け引きが続き、古川さんと吉岡さんの一騎打ちに。全日本大学駅伝出場経験のある吉岡さんがラストで抜け出し、14分39秒5で1位。古川さんが2位で14分45秒3、森田さんは2人から遅れたものの後続からの追い上げを振り切り、3位を死守しました。

古川さんは現在、東京大学大学院の博士課程ですが、修士の頃は九州大学大学院に在籍していたため、九州大学時代に同じチームで吉岡さんと襷(たすき)をつないでいたそうです。そして、2位の古川さんと3位の森田さんは現在、同じ東京大学大学院ということで、縁がある3人ですね。ちなみに、古川さんは学部生時代は熊本大学ということで「母校が三つになりますね(笑)」。人脈も広がっています。

勝ちきった吉岡さんは「古川さんと同じレースを走ったことがほとんどなかったですが、これだけ勝負できるというのは学生時代最後のレースにふさわしく、最後まで力を振り絞って頑張れました」と笑顔でお話されました。

終盤は吉岡さんと古川さんの一騎打ちに

競技も研究内容も現状打破!

競技力はもちろん、研究にも打ち込んでこられた3選手。

吉岡さんはこの春、大学院を修了されて社会人になられました。「大学院では工学部で船舶海洋工学、船に関する研究をしていました。船の強度に関して、船の貨物がどれだけ荷重に作用するかを研究していました。数学と物理を駆使していましたね。研究と陸上のつながりをよく聞かれるのですが……。やっぱり全然関係ないです(笑)」

「ただ、違うもの二つを両立してきたので、それは院カレの趣旨でもあるのかなと思います。大学院生が集まる機会が滅多になくて、その中で陸上をやっている大学院生って超マイナーな人間でして(笑)。そういう人間が集まると話しやすくて、話が合う人が多いです。だんだん慣れていくうちにお互いの研究テーマまで話すことが結構ありました。最初のうちは本当に専門的すぎて全然わからないんです。ただ、自分の研究を説明する能力向上につながったり、他の人の研究を聞いて刺激になったりしました」。大学院生生活を締めくくる良い機会になったそうです。

古川さんは研究テーマ「人と一緒に走ると、なぜ楽に感じられるのか」を体現されるかのような走りを披露しました。「追尾走について研究しています。人の後ろについたり人に並んで走るとなぜ楽なのか。みんな肌感覚で感じていると思うのですが、それをアカデミックに研究する人は少ないのかなと思いました。(今大会でも激しい競り合いを演じて)できればトップをひた走りたいですが(笑)、吉岡君と一緒に高め合うことができたと思います」。結果的に追尾走を演じて、切磋琢磨(せっさたくま)するレースとなりました。

5000mで3位となった森田さんは「低酸素トレーニングの研究をしています。低酸素というと標高の高いところへいくか、低酸素ジムが思い浮かぶと思いますが、自分の場合は低酸素ジムの方です。短期間で低酸素で運動する低酸素環境で高強度インターバルを行うと、繰り返しダッシュする力が鍛えられるという研究です。3000mSCをやっているので、ハードルを跳んでダッシュしてまた跳んでっていうのが似ているなと。低酸素トレーニングで実際に効果があるのか、どういうメカニズムで適応が起こるのかを研究しています」。競技とは関係がない研究をしている方から、バリバリご自身の競技につながる研究をされている方まで、大学院生アスリートの皆さんは幅広いですね!

また女子5000mは、オープン参加の西川優さんがトップ。3月まで福岡女子大学に所属し、4月から九州大学大学院ということで、3月時点でまだ大学院生ではなかったためオープン参加となりました。

西川さんは栄養学を専攻し、この春、管理栄養士の資格を取得。「どんなドリンクが陸上長距離に効果的か」というスポーツドリンクに関する研究をされています。将来はご自身の競技経験や研究を生かして、女性アスリートをサポートしていきたいという思いを持っています。

女子はオープン参加の福岡女子大学・西川さんがトップ。この春から九州大学大学院に進み、研究と競技の両立を続けます

「院カレ」を作り上げてきた実行委員の皆さんの思い

続いて実行委員の皆さんにも、お話を伺いました。

選手としても出場していた古川大晃さんが代表を務め、一柳里樹さん、阿隅杏珠さん、栗山一輝さん、内田しおりさんが中心となって院カレの4〜5カ月前から本格的に始動しました。

代表の古川大晃さんは「院カレの顔」として協賛金や募金をお願いする活動や、実行委員に仕事をお願いする役割を担ってきました。

院カレ実行委員の皆さん。ユニークなアイデアと実行力で第3回の院カレを運営してきました

東大陸上部OBの一柳さんは、現在は社会人ですが卒業後も院カレに携わっています。「手が回っていないところのサポートをしています。院カレを立ち上げた阿部飛雄馬の学部生時代の同期です」

阿隅さんは学部の時から東大陸上部で、現在は東大大学院で競技を続けています。「院カレには前回補助員として参加して、今年は実行委員として関わりました。主に研究に関連して交流できないか企画を担当しました」。選手としては東大大学院で関東大学女子駅伝出場を目指している阿隅さん。今回は支える側として携わりました。

栗山さんは東大大学院博士1年。「院カレは第1回から関わらせてもらってます。『そのアイデアはこういう点からよくない』と指摘をする役です(笑)」。皆さんが思いついたアイデアをどう現実に乗せていくのか、栗山さんのようにズバッと言える存在というのが、より良い企画になっていくために必要ですよね!

さらに栗山さんは「400m設定タイムぴったりリレーは、設定タイムに近ければ近いほど点数が良くなるのですが、やってみたところ大幅に外す人が多く、足の速さがあまり関係なくなってしまいました。研究に関しては、総合的に評価するためにはどうすればいいかを考えました。研究実績を点数化するのに、最初は論文何本とか学会に何回参加するかと思っていましたが、さすがにエグいなと(笑)。研究分野にまつわる一言、雑学を紹介して面白い人が勝ちというエンタメとのバランスを考えました。それが研究力と言えるかというのはありますが(笑)」と分析されました。

SNSの発信など、広報を担当しているのが内田さんです。出場選手の名前、所属、意気込み、研究雑学の紹介など「一般の方に向けた発信にも力を入れました。専門的なことがわからない人でも刺さるものがあったようで、多くの反応をいただけました」と振り返ります。大学院生が競技に挑戦していること、さらに専門分野そのものにも興味を持ってもらえたり、さまざまな形で投稿してきました。

次回大会に向けて実行委員も代が替わり、襷リレーをします。

代表の古川さんは「実行委員は代わりますが、第4回大会以降も関わります。院生ナンバー1決定戦、院生の交流という二つのコンセプトをいかに強化していくかですね。発展途上の段階ですが、次期、実行委員代表の森田くんが引っ張っていってくれると思います」と代表の襷もつながれました。

古川さん(前列中央)から森田さん(前列右)へ実行委員代表の襷もつながれました

大学での4years.を発展させ、6years.だったり、もっと研究を続ける人にとってはn-years.だったりするのですが、競技も研究も現状打破し続ける大学院生の熱い青春!院カレの襷は、また次回に向けてスタートを切っています!

M高史の陸上まるかじり

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