陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

ミュージカル、デザイン、ドラム、ダンス 競技と芸術を両立する大阪芸術大女子駅伝部

全日本大学女子駅伝で過去最高順位を目指す大阪芸術大学女子駅伝部の皆さん(撮影・M高史)

大阪芸術大学女子駅伝部は昨年度の全日本大学女子駅伝、富士山女子駅伝でともに10位。今年3月の日本学生女子ハーフマラソンで北川星瑠選手(4年、比叡山)が優勝し、夏に中国・成都で開かれるFISUワールドユニバーシティゲームズ(以下、ユニバ)日本代表に内定しました。

キャンパス内に「映画館」と書かれた建物も

大阪芸術大といえば、陸上と芸術を両立していることでも注目のチームです。前述した北川選手は舞台芸術学科で「ミュージカルを学ぶ陸上選手」として話題ですし、選手の皆さんは専門的に芸術や教育などを学びながら競技を続けています。今年の1年生では村上彩楽選手(川崎市立橘)が演奏学科ドラムス専攻、松永美空選手(常葉菊川)が舞台芸術学科ポピュラーダンスコースということで、大学駅伝界では異色のアーティスト集団です!

大阪芸術大・北川星瑠 「自称日本で唯一ミュージカルを学ぶ長距離選手」として歩む道

キャンパス内は芸術大学らしく、音楽を専攻している学生さんたちがクラシック音楽を奏でる音が聞こえてくるかと思えば、自分の体もよりも大きな工芸品が並んでいたり、はたまたキャンパス内に「映画館」と書かれた建物があったり、様々なカルチャーが混在しています。さらに奥へ進んでいくと、女子駅伝部の選手の皆さんが日々トレーニングに励むグラウンドが見えてきます。野球やサッカーのグラウンドの周りをぐるっと回るような形で、1周500mという珍しい距離のトラックです。

大阪芸術大学女子駅伝部のグラウンド。雨上がりということで綺麗な虹も!
芸術と陸上の二刀流! 大阪芸大で一緒に走ってきました!
大学女子駅伝界のアーティスト集団・大阪芸術大学 2年越しの富士山への想い!

取材に伺った日は、ポイント練習に参加させていただいた後、選手の皆さんにお話を伺いました。

練習に参加させていただいた後、選手の皆さんにお話を伺いました(提供・大阪芸術大学女子駅伝部)

部として初の演奏学科在籍の選手も

北川星瑠選手
年末の富士山女子駅伝では2年連続となる2区区間賞を獲得。3月の日本学生女子ハーフマラソンで優勝を飾り、ユニバ日本代表を決めました。また4月の日本学生個人選手権では10000m3位、5000m6位。照準を合わせたレースではトラック、ロード、駅伝と結果を出し続けてきました。

「(日本学生女子ハーフマラソンは)自分の中ではレースプラン通りでした。スローペースには持ち込みたくなかったので実業団の選手(中村優希選手、パナソニック)が引っ張ってくださって、ラッキーなレース展開でした。ラストしっかり粘れました」。日本学生女子ハーフマラソンは、まつえレディースハーフマラソンと同時開催で、前半からハイペースな展開となり、全体トップだった中村選手から2秒差で、学生トップの1時間10分50秒で走破しました。

過去のレースでも狙った試合に調子を合わせてくる北川選手。日本学生女子ハーフに向けても「絶対に(調子を)合わせたいと思っていました。調子はすごくよかったです」。目標に向けてしっかり合わせる秘訣(ひけつ)を伺うと「正直、気持ちが一番強いかなと思います。自分がやってやるんだという気持ちを持って、自分が足りないところをしっかり見極めて、プラスで練習をやる時も、本当にプラスになるように考えてやるように自分の中では大事にしています」と教えてくださいました。

ワールドユニバーシティゲームズ日本代表・北川星瑠選手

今後の目標については「個人としては、ユニバの表彰台、そして金メダルを取ることです。日本インカレでは毎年5000m、10000mどちらかの種目で入賞はしているのですが、まだ表彰台に乗ったことがないので表彰台に乗ることですね。その時の調子が良ければ優勝して最後の日本インカレを締めくくりたいです。駅伝は全日本では毎年シードを目指してやっています。今年は昨年よりも力がついていて絶対にシードをとれるチームだと思うので、8位とは言わずその上を目指して芸大の最高順位を目指していきたいです。また、富士山での区間賞はありますが、全日本ではまだ区間賞がないので区間賞を目標にしています。富士山では芸大史上まだ入賞がないので、最低でも入賞を狙っていきたいです」とお話された北川選手。大阪芸術大は全日本大学女子駅伝で2018年の第36回大会で8位に入っています。

また舞台芸術学科でミュージカルを学ぶ陸上選手としても話題の北川選手。「最後の年なので、卒業公演があります。普通は卒業論文があると思うのですが、その代わりですね。今から準備しています。昨年に比べて忙しく、授業がない時間に集まることが多いので、学校に来ている回数は昨年と変わらないです。自分自身、芸能界にいきたいという気持ちはもちろんありますが、舞台に関わることは卒業したら減ると思うので、最後の舞台を楽しみたいなという気持ちがあります。公演本番が近づくと、練習できる時間がなく、朝練習しかできない時もあって、監督に相談してメニューを変更させてもらったり、朝早めに起きて練習をやったりするなど、両立が大変な時もありました」。競技も舞台芸術も妥協なく、本気で取り組んでいます!

鈴木杏奈選手(4年、和歌山北)
初等芸術教育学科で小学校教諭と幼稚園教諭の資格取得を目指している鈴木選手。昨年も実習があったり、今年も実習を控えている中、競技の方でもコツコツと力を伸ばしていき、3月の日本学生女子ハーフマラソンでは1時間12分09秒で4位。狙っていた入賞を果たすことができました。

「2月のクロカン日本選手権で9位(シニア女子8km)になり、そこで少し自信をつけて挑めたことが大きかったです。スタートする時に監督から『絶対に入賞できるから』と言われて、自分の中でできるイメージができなかったのですが、チャレンジすることが大事と思って最初から先頭集団につけるところまでついて走ろうと思いました。思っていたよりも走れたので、自分の中では自信になっているのかなと思います。一番の大きな目標は仙台(全日本)の舞台でシード権獲得です。5000mで秋には15分台に入りたいです。10000mは記録がないので、33分40秒は切りたいなと思っています」

日本学生女子ハーフマラソンで4位入賞を果たした鈴木杏奈選手

菊地結香選手(3年、旭川龍谷)
「建物の内装を考える勉強などをしています」と菊地選手はデザイン学科の空間デザインコースで学んでいます。

1、2年生とコンディションの面でも苦しんだ部分も多かったそうですが、走れないタイミングで「気持ちに火がつき、スイッチが入りました」と乗り越えてきました。2年生の秋以降は5000m16分33秒23、10000m34分37秒と自己ベストも更新。富士山女子駅伝では4区を任され区間8位に入りました。

「4年生の先輩たちが抜けたら、私がエースになるという気持ちで、ちょっとでも近づけるようにしたいです。(今後の目標は)今年5000mでは15分台、10000mも視野に入れて33分10秒を目指しています」。北川選手たちが卒業した後のことも考えて、次期エースに名乗りをあげています。

今シーズンの飛躍を誓う菊地結香選手

村上彩楽選手
芸術学部演奏学科ポピュラー音楽コースドラムス専攻の村上選手。大阪芸術大女子駅伝部としては初の演奏学科に所属。「ドラムは小学校2年生から習い事としてやっていました。大学の授業は実技ばかりで楽しいです。レース前などに以前走った動画のテンポを見て、このくらいのペースだなとイメージトレーニングもしています」。ドラムで鍛えたリズム感は、走りにも生かされているようです!

入学後、日本学生個人選手権1500mに出場。「入寮後すぐけがをしてしまって、2週間くらいしか練習できていない状況でしたが、一つ気持ちにスイッチが入るきっかけとなりました」。今シーズンの目標は「全日本と富士山に出走したいです。個人では5000m16分10秒を出すことです」

また、ドラムス専攻ということで、将来思い描いていることを伺ってみました。

「今までも好きなように選択してきました。いろんな夢があるのですが、テーマパークでドラムをたたいてみたいですし、ドラムなど好きなことで生きていきたいです。自分の強みで生きていきたいです!」

学科ではドラムス専攻の村上選手。日本学生個人選手権にも出場しました

卒業生の長濱コーチが、この春に就任!

長濱夕海香コーチ
大阪芸術大OGで2020年度の卒業生。実業団のニトリで約2年間、競技を続けて、この4月から母校のコーチに就任しました。中瀬洋一監督のもと、指導者としての道をスタートさせました。

「母校に帰ってきて楽しいです。元々、指導に興味はありました。自分が活躍したいというよりも、もっと強い気持ちを持っている子たちの夢を手伝ってあげたいという気持ちでした。私が4年生の時の1年生が今の4年生です。今はまだ後輩という感じですね。あの時まだ高校卒業したばかりの子たちが4年生として『先輩やってる』と思って新鮮だなぁ、大人になったなぁと思います(笑)」

今年4月に就任した大阪芸術大学女子駅伝部OGの長濱コーチ

指導者として心がけていることについては「指導では私の経験だけではなく、『自分はこうだったけど他にはこういう人もいたよ』といつくか提案して、自分の中で見つけてほしいということを今は大事にしています」と選手の気持ちを大事にされています。

中瀬監督、長濱コーチ体制のもと、陸上も芸術も現状打破し続ける大阪芸術大学女子駅伝部。全日本大学女子駅伝チーム最高順位更新も見据えて、トラックシーズンから注目ですね!

2008年10月のチーム発足からご指導を続ける中瀬洋一監督

M高史の陸上まるかじり

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