陸上・駅伝

特集:2023日本学生陸上競技個人選手権大会

大阪芸術大・北川星瑠 「自称日本で唯一ミュージカルを学ぶ長距離選手」として歩む道

学生個人選手権で攻めの走りを披露した北川(すべて撮影・藤井みさ)

4月23日にあった日本学生個人選手権最終日の女子5000m、大阪芸術大学の北川星瑠(4年、比叡山)は、明確な目的を持ってレースに臨んだ。「今日は挑戦しようと思っていた」。そんな強い気持ちを前面に押し出した走りを見せてくれた。

サラ・ワンジルにただ一人ついていった

スタートから2番手につけると、400mを過ぎたあたりで先頭に出た。1000mの通過タイムは3分13秒。北川が想定していたペースより3秒遅かった。「15分台を狙っていた。順位とか関係なく、自分の押したいペースではなかったら、自分で押そうと思っていた」

1200mを過ぎたあたりで、ケニア人留学生の大東文化大学のサラ・ワンジル(1年、帝京長岡)が前に出た。そのワンジルにただ一人ついていったのが、北川だった。「急に出たという感じではなかったので、このリズムにはまればいけるかもと、ちょっと自分に期待を込めてということと、せっかく大きな大会に出させていただいたので後悔はしたくなかった」

飛び出したサラ・ワンジル(右端)についていった

少しずつワンジルと北川の差が広がっていく。2000mの通過は6分16秒。1000~2000mにかけては3分3秒と急激にペースが上がった。だが、すぐに3番手以降の日本選手集団に追いつかれることはなかった。「1人になってからもある程度は粘れたかなと思う」。残り1周を前に3位集団にのみ込まれ、結果は16分2秒50の6位。北川は「目標まであと2、3秒及ばなかった。(3位集団に)抜かれたときにもうちょっと対応できればという課題は見つかりました。あとひとつ、甘かったなという感じです」と反省を口にした。ただ、最後まで攻めの走りを貫いたのは間違いない。表情から悲壮感は感じられなかった。

女子5000m決勝は6位だったが、悲壮感はなかった

昨年の学生個人10000mで2位になり、ついた自信

北川は陸上選手としては、一風変わった経歴の持ち主だ。幼少時代から子役として芸能活動を始め、現在も芸能事務所に所属する。自身のツイッターのプロフィール欄には「自称日本で唯一ミュージカルを学ぶ長距離選手」と書かれている。文字通り、大学では舞台芸術学科で学んでいる。

一方、陸上選手としても実力は折り紙付き。高校時代は全国高校駅伝に3年連続出場した。2年生のときは2区を走り、区間6位と好走した。昨年は全日本大学女子駅伝の3区で区間5位、富士山女子駅伝(全日本大学女子選抜駅伝)の2区で区間賞を獲得するなど、成長の1年となった。そんな北川が飛躍のきっかけに挙げるのが、昨年の学生個人選手権10000m。優勝した名城大学4年の小林成美(現・三井住友海上)に0秒81差と迫る33分22秒29で2位に入った。

北川は「それまでは全国大会に出られるまでのレベルに入ってはいるけど、トップレベルの選手にはなれていないと思っていた。でも、このとき2位に入って『私もトップ選手になれるかも』という気持ちが出てきた」と話す。学生の女子長距離界を引っ張ってきた小林や山本有真(名城大学出身、現・積水化学)のように、「私も後輩に憧れられる存在になれるかもしれない」と感じたという。

「自称日本で唯一ミュージカルを学ぶ長距離選手」として自分にしか歩めない道を進む

自分にしか進めない道を行く

そこから練習への姿勢も変わった。練習時間を増やしたわけではない。「長くだらだらする練習は苦手。やるなら短期集中」という自分のスタイルで質の高いトレーニングに取り組んだ。そして、芸能事務所に入っているということも発奮材料になった。「競技を遊びでやっているなとか、ちやほやされたいだけでしょと思われたくない。どっちも本気で取り組むというのは意識していました」

北川は3月に行われた日本学生女子ハーフマラソンを制し、今夏に中国・成都で開催されるFISUワールドユニバーシティゲームズ(ユニバ)の日本代表に内定した。ユニバではメダルを持ち帰るのが目標だ。そして、大学卒業後は実業団に進んだうえで、タレント活動も継続したいと考えている。「今までにそういう陸上選手はいなかった。私が第一人者のような存在になれたら」。自分にしか進めない道をまっすぐに見据える。

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