陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

大学院生アスリートのための競技会「院カレ」を取材しました!

大学院生アスリートによる「院カレ」を取材しました!(写真提供:院カレ実行委員会)※M高史撮影写真以外すべて写真提供・院カレ実行委員会

第1回全日本大学院生対抗陸上競技選手権大会(通称:院カレ)が3月26日、江戸川陸上競技場で開催されました。大学院生アスリートのための競技会。4years.を経て大学院でも研究と競技に打ち込む院生アスリートの皆さんの熱い走りを取材しました。
※取材が3月中のため、2020年度の学年で記載

「院カレ」開催のきっかけ

「昨年の12月でしたね。電車に乗っている時に思いついたんですよ」と教えていただいたのは院カレ主催者であり発案者でもある阿部飛雄馬さん(東京大学大学院修士課程1年)。阿部さんといえば昨年の箱根駅伝で関東学生連合チームの主将を任され、「東大生ランナー」として注目を浴びた文武両道アスリート。

昨年はコロナ禍で大会の中止や延期が続き、院生アスリートにとってもモチベーションを保ちにくい日々が続いたそうです。また修士課程2年の選手にとってはこのまま引退レースがなく社会人になってしまうという寂しさもありました。

阿部さんが「院カレ」を思いつき、SNSに投稿してみたところ予想以上に反応があったそうです。九州大学大学院の古川大晃さん(修士課程2年)も「本当にやりたいね。作ろう」と声を上げてくれたことで「2人いればなんとかなる」と阿部さんは「院カレ」開催を決意しました。

「院カレ」発案者である阿部飛雄馬さん。昨年は箱根駅伝に関東学生連合チームで出場

阿部さんは大学院に進んでからも競技を続けていて、昨年の箱根駅伝予選会ではハーフマラソン1時間03分48秒と大学時代の記録を上回る自己ベストを更新。また、岩手県で市民トラックレース(IWATE GRASS-Lot RACE)も企画。大学院生として、アスリートとしてだけではなく、競技会の開催までされていて、行動力や企画力を発揮されています。

開催に向けての準備

「大学院まで行って競技を続けている人は少ないんですよ。特に他の地区だとつながりもないんです。各地区に精通している人にうまく声かけていきました」と阿部さん。

大学院生は大学の陸上部に所属していても研究もあって個人で活動していることが多く、なかなか連絡も取りにくかったそうです。そんな中でも人づてに紹介をしてもらったり、SNSで発信していったり、少しずつ広がっていきました。

競技場の予約から始まり、実行委員会、審判、補助員も自分たちで担当。さらに撮影班やSNS担当まで! 全て手作りのアットホームな大会となりました。

受付もスタンバイ!(撮影:M高史)

第1回となった今回は5000mのみ、公認競技会ではなく非公認での開催でした。大学院生の対抗5000mに加えて、OBや学部生で今春から大学院生になる選手はオープン参加での出場も可能でした。

エントリーリストを見せていただくと、通常の大会とは異なり、選手名の欄には「所属」「研究テーマ」の紹介も。「研究テーマ」を見ると何やら難しい単語が並び、皆さんが専門的に難しい分野を研究しながら競技にも打ち込まれている文武両道ランナーであることが資料からも伝わってきました。

撮影班、SNS班の皆さんも大活躍!(撮影:M高史)

理系から文系まで幅広い研究分野がある中で、ランニングに関する研究をされている選手も。ご自身が打ち込んできたランニングを様々な角度から専門的に研究し、やがて次世代の競技者に還元していかれるんだなと思うと胸が熱くなりました。

取材の予定が急遽MCも!

選手1人ひとりの金銭的負担を減らすためということで、競技場を貸し切りにしているのは13時から15時まで。14時10分のスタートに向けて、会場のセッティング、準備がテキパキと行われます。

限られた時間の中、協力し合って準備を進めます

電光掲示板、ラスト1周の鐘、残り周回表示などを設置。院生アスリートの皆さんは限られた時間で研究と競技を両立していることもあって、効率的な時間の使い方というのはとても勉強になりました。阿部さんは主催者でもあり出場する選手でもあるので、準備にも気を配りながらご自身のウォーミングアップもされていました。

スタートの号砲を待つフィニッシュ地点の皆さん

そして今回は取材にうかがっていたM高史ですが、院生の皆さんから「他の競技会でやっているみたいなMCもやっていただけませんか?」とリクエストをいただきまして、大変恐縮ながらレースの実況もさせていただくことになりました(笑)。

急遽、MCを務めさせていただくことになりました!

14時05分過ぎには出場する選手の皆さんが集まり、スタートに整列。音響担当の方がスタート前のBGMを流して会場はいよいよスタートという雰囲気になりまして、定刻よりも早く号砲が(笑)。少し気温も高く、風もやや強く吹き、長距離種目にはやや厳しいコンディションでレースがスタートしました。

院カレ5000mスタートです!

勝負にこだわったレースを制したのは

レースの方は、スタートから古川さんが飛び出し、阿部さんがピタリとついていきます。

古川さんの自己ベストは5000m14分04秒08。西日本インカレ10000m優勝、九州インカレの5000mと 10000mでも優勝経験もあり、さらには熊本城マラソン2連覇など勝負強さも持ち合わせています。そして阿部さんは5000m14分05秒87が自己ベスト。前述しましたが昨年の箱根駅伝では関東学生連合の主将として10区を走りました。スタートから古川さんと阿部さんの一騎打ちの様相でレースが進みました。

序盤から古川さんと阿部さんの一騎打ちに

1000mを2分52秒7で通過。(フィニッシュタイム以外は手元の計測)そのあたりからペースが落ち着きはじめ、2000mは5分57秒5(3分04秒8)。さらにそこからは古川さんと阿部さんの駆け引きが始まり、突如スローペースに。1周80秒ペースまで落ちて、単独3位を走っていた松本啓岐さん(東京大学大学院博士課程1年)が先頭に追いつき、3000mは9分14秒6(3分17秒0)。完全に記録よりも勝負という優勝争いに注目が集まりました。

残り5周となり、阿部さんがここでロングスパート。3000mから3200mまでの200mを32秒台にまで一気に上げます。ここで松本さんは離れて再び単独3位に。4000mの通過は12分03秒2(2分48秒5)。古川さんはピタリとつきます。

3000mを過ぎて阿部さんがロングスパート!

ラスト1周の鐘がなり最後のスプリント勝負に。古川さんが仕掛けて14分50秒7(2分47秒5)で院カレ初代チャンピオンとなりました。

ラスト勝負を制した古川さんが初代王者に

惜しくも2位となった阿部さんは14分51秒9。3位には松本さんが入って15分14秒8でした。ちなみに松本さんは東京大学大学院理学系研究科物理学専攻。研究テーマは「フォノン-マグノン結合を利用した表面弾性波フォノンにおけるパラメトリック変換の観測」だそうです。とにかく難しそうな研究をしているのが伝わってきますね(笑)。

上位選手インタビュー

古川大晃さん(九州大学大学院人間環境学府行動システム専攻修士課程2年)
研究テーマ:なぜ人と走ると楽に感じるのか
男子5000m優勝 14分50秒7

研究テーマ「なぜ人と走ると楽に感じるのか」を体現するようなレースで優勝を飾った古川さん

研究テーマ「なぜ人と走ると楽に感じるのか」を体現するようなレースで優勝を飾った古川さん。「貴重な大会でしたので、体調も合わせてきました。初代優勝者ということで大変光栄です。ライバルの飛雄馬くんに勝てて良かったです」と優勝のコメント。

さらにランニングを深めるような研究テーマについては「体系的に明らかにしたいです。いい研究がしたいですね」

阿部飛雄馬さん(東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻修士課程1年)
研究テーマ:学校体育における長距離走の人間形成的意義-身体知の観点から-
男子5000m2位 14分51秒9

悔しい2位となった阿部さんですが、「院カレ」開催の充実感や手応えが伝わってきました

悔しい2位となった阿部さんですが、「院カレ」開催の充実感や手応えが伝わってきました。

「レースは悔しい結果となりました」と口にされた一方で、「院カレ」については「院生のつながり、連帯感を感じましたし、交流の場所になれて良かったです。来年もやりたいですし、その後も伝統として続いていってほしいですね」と未来についても話されました。

古賀夕貴さん(佐賀大学大学院農学研究科生物資源科学専攻修士課程2年)
研究テーマ:におい嗅ぎガスクロマトグラフィー(GC-O)をもちいた線虫感染ニンニク特有のにおい物質の特定
女子5000m優勝 18分00秒2

フルマラソン明けながら想定以上の走りで女子の部優勝を飾った古賀さん

今回は男女同時スタートとなったのですが、女子の部はエントリー3名のうち2名が欠場し、1名のみの出場。女子優勝は古賀夕貴さん(佐賀大学大学院修士課程2年)。龍谷高校で陸上を始め、環境保全に興味をもち、佐賀大学では土壌微生物の研究、佐賀大学大学院では分析化学分野と幅広く学んできました。

フルマラソン明けながら想定以上の走りで女子の部優勝を飾った古賀さん。「学生ラストレースとなりました。名古屋ウィメンズマラソンに出場したばかりで疲労の残る中(名古屋では2時間53分01秒の自己ベスト)、思っていたよりも走ることができました」。マラソン明けすぐということで19分を切れればという中、自己ベストの17分31秒には及ばなかったものの予想以上の走りを披露されました。

研究が忙しく時間が取れない中でも、自宅から大学までの往復16kmを走って通学して練習時間を捻出するなど、陸上が大好きという熱い気持ちも伝わってきました。この春から社会人になっても「ずっと走り続けていきたいです」と話されました。

「院カレ」の今後

競技終了後に記念撮影。クールダウンをする選手たちとともに実行委員会の皆さんを中心にサクサクと片付けをして、15時前には競技場の外へ。

競技場の外で手作り表彰式も行われました。コロナ禍の影響で狙っていた大会が中止や延期になることがあった院生ランナーの皆さんにとって「走れる場所、機会があるだけでもありがたいです」という声も聞こえてきました。また、今まで他の地区の大学院生となかなか交流を持つ機会がなかった皆さんにとってもつながりができたり、お互いに刺激となったりしたそうです。さらに、今回が大学院生活ラストレースという方も多く、きっと忘れられない心に刻まれる大会となったことでしょう!

大成功のうちに終わった第1回院カレ。先輩から後輩へ、襷リレーのように代々伝統となって繋がっていくといいですね!

大成功のうちに終わった第1回院カレ。先輩から後輩へ、襷(たすき)リレーのように代々伝統となって繋がっていくといいなと思います。今回は5000mだけの開催となりましたが、そのうち回数を重ねるにつれて短距離、跳躍、投擲、競歩などの種目も増えてくるかもしれないですね!

4years.を経験し、さらに学びを深める院生アスリートの皆さんにも注目したいです!

M高史の陸上まるかじり

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