東海大・近藤翔耶共同主将 自分たちの限界を突き破り、大学初の日本一へチームを導く
関東大学ラグビーリーグ戦1部で、昨シーズンまで6連覇を達成している「シーゲイルズ」こと東海大学ラグビー部。今年も開幕から危なげなく3連勝し、首位を走っている。しかし、創部以来いまだ優勝のない大学選手権では、2シーズン連続で準々決勝敗退を喫している。そんな中、1998年から率いる木村季由監督は今シーズン、共同キャプテン制を選んだ。FL汐月佑心(しおつき・ゆうしん、4年、九州学院)と、BKの中心的な存在であるCTB近藤翔耶(とわ、4年、東海大大阪仰星)の2人がキャプテンに指名された。
初の日本一へスローガン「BREAK THROUGH」
1年から試合に出ていた近藤は、高校でもキャプテンをやっていたこともあり「準備していた」という。共同キャプテンに関しては「FWとBKで1人ずつということもありますが、汐月はグラウンドと私生活でみんなの模範的な存在になれる人物です。自分はより競技に集中して、ラグビー面でチームに良い影響を与えたい」と腕を撫(ぶ)した。
今年3月、地元の人の協力も得て、木村監督が念願だったと話す新しいラグビー部寮「闘勝館」が完成した。今まで200人ほどのラグビー部員は、四つの寮に分かれて大学の周りに住んでいたが、一つの寮(4人部屋)で共同生活を送ることが可能になった。
「寮が新しくなって、コミュニケーションの量も増えましたし、ミーティングも気軽に行うことができるようになり、良い環境になりました。新しいルールもできたのですが、寮での生活面は寮長の奥田(泰進)や主務の前川(直哉/ともに4年、東海大大阪仰星)らが口酸っぱく言ってくれているので、自分は周りの学生の模範になるように意識しています」(近藤)
今シーズンの目標はリーグ戦7連覇、そして、大学選手権初優勝だ。そのターゲットを「激しく突き破る」という思いを込めて、4年生で話し合い「BREAK THROUGH」をスローガンに掲げた。「自分たちの限界を壊していく、そしてチームとしても今までの常識を壊して新たにチャレンジしていく、という意味を込めました」
FW・BKとも好調 3戦連続60得点超え
関東リーグ戦で、初優勝以降の17シーズンで13度優勝している東海大だが、大学選手権では頂点に立つことができていない。しかも一昨年、昨年は2シーズン連続で初戦の準々決勝で敗れ、ベスト8に終わっている。近藤は「自分も試合に出ていて、2年連続で悔しい思いをしている。準々決勝は自分たちの中で一番大事なターゲット」と、先を見据え語った。
関東春季大会は帝京大学、明治大学、早稲田大学と、関東対抗戦の強豪に負けて2勝3敗だったが、夏合宿では関西王者の京都産業大学と35-35で引き分け、昨年の大学選手権で負けた天理大学は41-19で倒すなど、調子を上げてきた。「昨季はチーム全体で、この場面ではこれをやるとか、ゲーム運びとか、オプション選択とか、セットプレーの安定など、整理されていない部分があったので、大学選手権をイメージして、そういった意思統一を夏合宿からやってきた」
その練習の成果がさらに出たのが、関東リーグ戦の開幕3連勝だろう。関東学院大学戦(61-31)、立正大学戦(60-5)、日本大学戦(62-31)と、ディフェンス面でやや課題は残るが、FWのセットプレーの強さ、そしてチャンスでしっかり取り切るBKの決定力が際立っている。
昨年はなかなか武器とは言えなかったFWのセットプレーに関して、BKの近藤は「今年は手応えがあります。昨年以上に取り組んでいるのでやってくれると思います」。さらに「トーナメント(の大学選手権)になったときに大事になってくるのはディフェンス面。自分だけでなく、チーム全体でもそう思っています」と語気を強めた。
「プレー中にノーサイドが来た」名言から4年
大阪府大東市出身の近藤は、大阪・大東高校、桃山学院大学でラグビー部だった父の影響で、7歳から、大阪桐蔭のグラウンドで練習しているOTJラグビースクールで競技を始めた。ポジションはずっとCTBやSOだという。高校1年の妹がおり、神戸の強豪・親和女子のバレー部に所属している。
慶應義塾大学のLO中矢健太(4年、大阪桐蔭)は、小さい頃からいっしょに楕円(だえん)球を追っていた仲で、小学校時代はいっしょに全国大会の一つヒーローズカップに出場。大東市立住道中学校3年時は、帝京大学4年のFB小村真也(ハミルトンボーイズ高)、京都産業大学4年の辻野隼大(京都成章)らとともに大阪府中学代表に選ばれて、全国ジュニア大会で神奈川県を下し優勝した。
高校は、小さい頃から通った大阪桐蔭ではなく、同じ大阪の強豪である東海大大阪仰星へ進学した。「仰星で、よりラグビーを理詰めで考えるというか、探求するという意味で、ラグビーの原理原則や考える基盤ができたのかな。もちろんスキル、フィジカルも向上しましたが、ラグビーをプレーするにあたって頭の中の成長を一番感じることができました」(近藤)
高校3年時、キャプテンとして「花園」こと全国高校ラグビー大会に出場し、準々決勝で東福岡と対戦。ロスタイム18分の熱闘を演じて、21-21で引き分けたが、抽選の末、準決勝に進むことはできなかった。試合後、キャプテンだった近藤は「(敵味方30人での一体感を感じ)プレー中にノーサイドが先に来ていた気がする」という名言を残した。「その話は嫌というほど聞かれたのですが、自分が出場していたという記憶と記録を残すことができたのかな」と苦笑した。
大学でスキル向上、パスでBKを動かす意識
大学はそのまま東海大に進学した。「東海大を卒業した後にリーグワンでプレーしている先輩が多かったことと、FB野口竜司(埼玉ワイルドナイツ)、CTB眞野泰地(ブレイブルーパス東京)、HO山田生真(神戸スティーラーズ)といった仰星でキャプテンをやっていた選手が、東海大に進学していた。また東海大だったら伸び伸びプレーできると思っていて、実際にそうできています!」
東海大に入って具体的に伸びた点を聞くと、「スキルやフィジカルトレーニングなどの時間を自分で十分に確保することができるので、高校時代よりパス、キックのスキルは向上したと実感しています」と話す。
最上級生となったCTB近藤は、昨季までは縦に強いボールキャリーを見せるプレーが目立っていたが、今季はパスでBKを動かすシーンも増えた。「昨年まではSOに(武藤)ゆらぎさん(横浜イーグルス)がいたので、自分はボールキャリーとして前に出ようとしていました。今年は1年生がSOに入ることも多いので、自分がボールを動かして味方を生かそうと意識しています」
好きな言葉は「人の夢は終わらねぇ」
体育学部に在籍しているので体育の教員免許は取得する予定だが、来春からは、高校時代から目標としていたリーグワンの強豪に進む予定だ。趣味はキャンプで、好きな言葉は、夢を持ち続けさえいれば目標に向かって頑張ることができる、という意味の「人の夢は終わらねぇ」だ。
今シーズンの東海大の強みを聞くと、「FWがしっかり勝負でき、セットプレーで試合を組み立てることができるのと、両WTBにスピードのある選手がいるので、内側の選手がうまくスペースを作り出して外側でトライを取りきる、というシンプルなラグビーを見てほしい」と力強く話した。
個人としてファンに見てほしい部分をたずねると、「パス、キック、タックルなどを見てほしい。でもやっぱりキャプテンとしてチームを引っ張る上では、自分の声かけやワークレートなど、オフザボールに注目してほしいですね!」と笑顔を見せた。
悲願の大学日本一達成のためにも、まずは〝鬼門〟となっている大学選手権準々決勝を突破できるように、共同主将の近藤は、プレーで「シーゲイルズ」を引っ張っていく覚悟だ。