東京大学・山川遼 4年かけてつかんだRBの座、最終戦まで全力でぶち当たり走り切る
アメリカンフットボールの関東学生TOP8は、10月27日に第6節があり、慶應義塾大学ユニコーンズと東京大学ウォリアーズが対戦した。立教大学と明治大学を下し勢いづく慶應大に対し、明治大学と中央大学を連破してきた東京大。今年から、関東3位までが全国トーナメントに進めるということもあり、条件付きだがその切符の行方を占う面でも注目された。試合は一進一退の激戦。14-14で延長タイブレークに突入し、東京大が2回目の攻撃でタッチダウン(TD)を取って3連勝を決めた。東大は得点条件が及ばずに全国トーナメント出場はかなわなかったが、タイブレークで決勝点を挙げたのは、4年目の秋にようやくレギュラーに定着したRB山川遼(4年、浅野)だった。
全国トーナメント切符かけ慶應と激突 延長突入
シーズンの深まりとともに力強さを増してきた両チームのぶつかり合いは、期待にたがわぬ熱戦となった。先制したのは東大。第2クオーター(Q)早々に慶應が蹴ったパントを、東大のリターナー田中昂(2年、灘)がキャッチすると、フィールド中央を一気に加速。27yd戻し、慶應陣11ydからの絶好のフィールドポジションをつくった。フレックスボーンのハーフバックについたRB米田健人(3年、西大和学園)が、1ydを押し込んで先制TD。東大はこのリードを守り切り、前半を7-0で折り返した。
後半第3Q、東大は攻撃の2プレー目にパスをインターセプトされたが、慶應のランを止めてエンドゾーンを守る。その後のシリーズで、慶應はQB水嶋魁(4年、海陽学園)がWR黒澤世吾(4年、慶應志木)に53ydのTDパスを通して東大を追う。しかし、トライフォーポイント(TFP)のキックがゴールポストにはね返されて7-6と東大が1点のリードを確保。
続くシリーズで東大は、RBの米田と光吉駿之介(4年、開成)のロングゲインでゴールに迫り、中村樹(4年、開成)が3ydを押し込んでリードを広げた。
第4Qに入ると慶應がペースをつかむ。ハーフライン付近から始まった攻撃シリーズで、ランを重ねてダウンを更新する。ゴール前6yd、4thダウンtoゴール。QB松本和樹(4年、慶應)がWR久保宙(3年、慶應)にTDパスを決め、TFPもWR藤崎志恩(4年、慶應)にパスをデリバリー。14-14と同点に追いついた。
慶應は、続く東大の攻撃を3&outに仕留めボールを確保。4分から始まったシリーズでダウンを4度更新して敵陣へ。時計は残り15秒、2ndダウンtoゴール5yd。QBの山岡葵竜(3年、佼成学園)が中央を目掛けて飛び込んだが、ボールがこぼれて東大がこれをリカバー。東大はニーダウンで時間を流し、延長タイブレークに突入した。
3連続キャリーで決勝TD しかし全国大会には届かず
タイブレークで先攻となった東大は、フレックスボーンからのランでコンスタントにエンドゾーンに近づき、最後は中村が2ydを押し込んだ。TFPのキックも決まり、7点を先取。後攻の慶應は3プレー目に松本が久保に23ydのTDパスをヒットし、TFPも確実にキックを決めて延長は2回目へ。
先攻の慶應は最初のシリーズを3度の攻撃で更新できず、37ydのFGで3点を追加。後攻の東大は、ランで着実にボールを進めた。ゴール前でRB山川が3回連続でボールを持ち、5yd、5ydとボールを進め、最後はエンドゾーンまでの3ydを走り込んだ。決勝のTD。延長2回を終え、13-10東大がリーグ戦3連勝を決めた。
全国トーナメント出場のためには、東大は14点以上の差をつけて慶應に勝つ必要があった。選手らは、試合に勝った喜びと、甲子園ボウルへの道が絶たれた悔しさの涙にくれた。
みなぎった自信「俺にボールを集めてくれ」
ミスが減り、着実に力強さが増した。東大ウォリアーズは序盤戦で立教大学、早稲田大学、法政大学に負けたが、そこからの巻き返しが鮮やかだった。4節の明治戦はタイブレークでの勝利。5節の中央戦は35-15とダブルスコアで完勝した。そして、慶應戦では第4Q終盤に攻め込まれた中でも集中を切らさずにボールを奪い、今シーズン2つ目のタイブレーク決戦に持ち込んだ。
東大オフェンスは、慶應の総獲得349ydに対して155yd(パス獲得は0yd)と獲得距離で大きく下回ったが、フィールドポジションと勝負所を押さえる集中力で勝負をものにした。
フレックスボーン隊形から繰り出すオプションのランプレーは力強く、RB陣の確信に満ちた走りでボールが進む。中でも、勝負を決めた山川の走りは印象的だった。決勝TDを決めた山川は、ボールを誇らしく掲げながらサイドラインの仲間の元へ。RBとして大きな体ではないが、まとう雰囲気からは自信がみなぎっていた。
「タイブレークは、コーディネーターに『俺にボールを集めてくれないか』って伝えていました。もうとにかくやってやるって。自分がキャリーするプレーコールが出た時には、もうワクワクしていましたね」。山川が決勝のシーンを振り返る。そして続ける。
「(TDまで)3ydだったんで、絶対取りきれる自信がありました。第3Qのはじめに、3rdダウン3ydで自分がキャリーして、取りきれなかった悔いがずっとあったので。とにかく、絶対に取り返してやろうって考えてました」
感情をぶつけるように、そうまくし立てた。
4年春にたどり着いたレギュラー、6月に転落
神奈川県有数の進学校、浅野高校の出身。4学年上に、東大で主将を務めた唐松星悦(しんえ、現・オービックシーガルズ)がいて、学生ながら日本代表にも選ばれていた。
「唐松さんのニュースも聞いてましたし、高校にアメフト部もあったので、(アメフトのことは)知っていました。僕は受験勉強の片手間みたいな感じで、柔道部だったんですが。東大に入ったらスポーツに本気で取り組みたいなと思って。安直かもしれませんが、ウォリアーズは環境も整ってますし」
はじめは、仲間がいるから練習に行っていた。自分からヒットができるようになってくると、アメフトが少しずつ面白くなってきた。
しかし話を聞くと、山川は決して順調なキャリアを歩いてきたわけではないという。2年生の頃は大きなけがをして離脱。練習もしんどいし、試合ではなかなか勝てない(前年はリーグ全敗)。このまま部活を続ける意味はあるのか。そう考えるとキツくなって、夏から秋にかけて部活を休部した。
チームに戻ってからも、1学年上に伊佐治蓮という絶対的エースがいたこともあって、試合に出られる機会はほとんどなかった。
「3年生秋の立教戦でスターターで出してもらったんですが、全く通用しなかったんです。相手にビビってるし、自分に自信がない。チームの代表として試合に出れるプレーヤーじゃなかったと思います」
それでも4年になってからは、レギュラー争いをしていた。しかし、6月の立命館大学戦を前にオフェンスコーディネーター(OC)の市川拓実(4年、開成)から電話がかかってきた。
「(レギュラーから)外します——」
「『え、何で?』っていう気持ちと、絶望でした。心臓がギュッと縮まるような感覚でしたね」
「ガムシャラにやるしかない」迷い消え復活
この頃山川は、ダイブプレーのルート取りに迷っていて、失敗を恐れ70点を取りに行くようなプレーが続いていたという。東大でRBコーチを務める櫻井大祐さんが話す。
「僕や、杉本(篤、QBコーチ)さん、OLコーチの前田(鉄兵)さんが、市川に強く進言したんです。市川は学生なので、彼だけだと仲間を落とす判断は難しい。最終的に決めたのは市川ですが、かなり彼の背中を押しました」
OC転向前、かつてRBとしてともにプレーしていた市川は、山川に電話したときのことを「試合よりも緊張した」という。そして今、そのときの判断をこう振り返る。
「山川は去年と見違えるくらい成長したと思います。春の判断が幸いでした」
一番下まで落ちてしまうと、あとはガムシャラにやるしかない。それまでは自分がどうしたら評価されるか、相手に対してうまくやるにはどうしたらいいかなどと、外向きにことを考えていた。それがだんだんと、自分自身がうまくなること、自分に足りない部分に目を向ける方向に変わって行った。思い切りやって、なんなら自分で正解にしてしまえばいい。すると無駄な迷いがなくなり、結果も自然とついてくるようになった。
「夏合宿のユニット練習のとき、自分的には普段通りやったつもりだったんですが、そのときコーチから褒められて。そこで自分が思うように迷わずやれば結果が出るんだなと思って、いいメンタルでやれるようになりました」
そこからはまっすぐ。ラストシーズンを前に、山川はレギュラーの座をつかみとった。
森HC「未経験から4年で大成。東大らしい選手」
甲子園ボウルトーナメント出場は逃したが、近年最高の成績を上げて快進撃を続ける東大ウォリアーズ。コーチとして京都大学、鹿島ディアーズを日本一に導き、日本代表監督も歴任した今季就任7年目の森清之ヘッドコーチは、成功の要因をこう分析する。
「今年のチームが去年や一昨年と比べて大きく優れてるかというと、そんなことはないんです。リーグ戦序盤はミスで自滅していましたが、それがなかった明治戦で運良く勝つことができて、口先で『勝つ、勝てる、日本一』というのではなく、リアルに勝てることを理解して練習や試合ができるようになったのが大きいです」
山川の活躍について聞くと、こう話してくれた。
「ずっと愚直に練習を積んできて、スピードも出てきて、何よりも迷いがなくなり思い切ってプレーできるようになりました。今までは普通に走るのは速くても、実戦になると色々考えてしまう部分があったんですが、今年の秋になってからはディフェンスがいてもスピードが出るようになってきたのが大きいですね。未経験からやってきて、4年で大成した東大らしい選手だと思います」
話を聞きながら、いつも冷静な森HCが少し高ぶっているように感じた。
最後の試合へ、4年間の気持ちを全てぶつける
2024年シーズンも残すは最終節の桜美林大学戦だけとなった。今乗りに乗っている山川は、改めて決意を口にする。
「このチームの最後の試合なので。今までの 4 年間の気持ちを、もう本当に全部ぶつける気持ちでやり切ります」
ボールを持って走るのも好きだけど、「得意なのはブロック」。一切の迷いを振り切ったウォリアーズの39番は、全力で敵にぶち当たり、走り切る。