アメフト

日体大・石川竜之介 苦手なパスを猛練習で克服「まずはBIG8で一番のQBになる」

石川はこの1年でパサーとして大きな成長を遂げた。ボールのレースを持たずにクイックパスを決める(すべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関東学生1部BIG8に所属する日本体育大学は、第6節を終えて3勝2敗となり、最終節を残してリーグ3位が決まった。目標としてきた上位リーグTOP8との入れ替え戦には進めなかったが、このチームを1年生ながらエースQBとして率いている石川竜之介(佼成学園)は、積極果敢なプレーで奮闘してきた。

入れ替え戦は逃すも ルーキー石川のパスが覚醒

日体大はリーグ中盤まで全勝をキープし、青山学院大学、駒澤大学と並んで上位2校が得られる入れ替え戦出場枠を争ってきた。しかし11月2日の青山学院大戦で10-15で負け、11月17日の駒澤大戦にも負けた。優勝争いから一段落ち、入れ替え戦出場の芽はついえた。

その一方で、ルーキーQB石川のプレーには、思い切りの良さと確かな切れ味があった。青山学院戦は雨天の影響でパスが思うように投げられない状況だったが、天候に恵まれた駒澤大戦では、クイックなパスを数多く決めた。この試合で石川は、パスを52回投げて39回成功させ、315yd1タッチダウン(TD)を稼いだ。1人のQBが1試合でパスを投げる数として、52回は驚異的と言っていい。日体大のチーム首脳陣がいかに石川のパス能力にかけていて、信頼しているのかがわかる数字だ。

駒沢大戦では、長短のパスを52回も投げ込んだ

この試合、思うように得点につながらなかったものの、石川はハイテンポな攻撃を率いてロングドライブを展開した。攻撃獲得距離は、駒澤の277ydに対して337ydと上回った。そのほとんどを石川がパスで稼いだことになる。

終盤にはゴール前に攻め込みながら、TDを狙ったプレーをインターセプトされた。「ゴール前で相手がマンツーマンで守ってくることはわかっていました。でも自分が狙いすぎたせいで、インターされる形になってしまって。自分がもっと詰め切れていれば。悔いしか残らない試合です」。悔しさをにじませながら、静かに石川は試合を振り返った。

スコア上は9-23と及ばなかった一方で、そのプレーぶりはルーキーとは思えないものだった。同時に、高校時代からのプレースタイルの変貌(へんぼう)ぶりに驚いた。

高校時代はパスが苦手 オフェンスはRB頼り

幼稚園の年中のとき、家族ぐるみで仲が良かった友人に誘われて、ワセダクラブでフラッグフットボールを始めた。中学で佼成学園に入り、そのまま名門の高校アメフト部に。QBの1学年上に絶対的エース小林伸光(日本大学)がいたこともあって、試合にメインで出るようになったのは高校3年生になってからだった。高校では日本選手権クリスマスボウルに3年連続で出場し、最終学年時は立命館宇治に11-19で負けて準優勝だった。

石川の代の佼成学園はラン攻撃の比重が高く、同期の堀川丈太郎(関西大学)や平本清耀(立教大学)、小林蹴人(高3)らWRには能力が高い選手がいたにもかかわらず、パスを投げるのは1試合で数回程度だった。

石川が高校時代を振り返る。「パスが少なかったのは、僕の完全な実力不足です。ボールのレース(縫い目)をすぐに持てないことも多くて、苦手意識がありました」。早いタイミングのパスが特に苦手だったという。オフェンスは、そのほとんどがRB宮本樹音(法政大)のランプレーによって組み立てられていた。

立教大WR平本清耀 前週復帰のルーキーが勝利に導くTD、ぶっつけ本番の開幕戦で
クリスマスボウルでは8回投げて2回成功(+TFPでも1回成功)。今と比べると、どことなくフォームがぎこちない

大学進学に際し、TOP8の強豪校を志望した。しかしスポーツ推薦のトライアウトで合格することができず。すでに時期も遅く募集を締め切っている学校がほとんどで、進学先を探すのに苦労した。そんな時に声を掛けてくれたのが、日体大のオフェンスコーディネーター秋山峻コーチだった。

「秋山さんに熱心に勧誘していただいて、日体の練習を見学させてもらいました。ここでプレーしたいと強く思いました」。日体大の活気ある雰囲気、学年をまたいだ仲の良さに魅力を感じた。

大学進学後に徹底して投げ込み、エースQBに

日体大に進んでからは、苦手のパスを克服するために、大外WRの位置に人に立ってもらいクイックスローの練習を繰り返した。毎日の練習で、秋山コーチや小林優之コーチ(19年卒、オービック)の指導を受けながら、ヒッチなど早いタイミングのショートパスを何十球も投げ込んだ。すると徐々にパスの正確性が増してきて、自信を持てるようになった。夏ごろにはエースQBに定着し、秋シーズンには自分がエースQBとしてチームを勝たせたいという思いが強くなった。

身のこなしのひとつひとつが洗練されてきた

今は高校と正反対のプレースタイルを取っているが、そのことへの苦手意識はない。「秋山さんが1プレー1プレーを事細かに教えてくれるので、相手がこう来たらこっちを狙うとか、かなり理解も上がりました。自分にとっても日体のパッケージはフィットしてるなと感じます」。かつてスナップを受けてからボールを持つのが苦手だったことがうそのように、今ではレースを持たずにクイックに投げ込んでいる。

「佼成学園は日本一のチームだったので、必然的に求められるレベルの高さだったり緊張感やプレッシャーはありました。今、日体はすごくフラットなチームで先輩たちも優しくて、そこで上達している実感があります」。石川にとって、今の環境は自分に合っているという。

秋山コーチにプレーを徹底してインストールされ、フィールドを見渡す理解度が格段に上がった

今季最終戦「自分が活躍してチームを勝たせる」

リーグ戦序盤の帝京大学戦は、1年でエースQBの重責を負うことに荷の重さを感じていた。緊張から、なかなかパスを決めることができなかった。「でも自分がこのチームを勝たせないといけないし、自分がエースなんだという気持ちでプレーしているうちに、だんだんと精神的に落ち着いてやれるようになってきました」。テンポの良いオフェンスを組み立てることを大事にしている。試合ごとに、それができるようになってきた。

「こういう経験が1年生でできたというのは、貴重なことだともとらえています。学べたこともたくさんあったと思っています。今日は自分のインターセプトで負けてしまったので、すごく悔しいです。でも次は先輩たちとやれる最後の試合なんで、僕がしっかり活躍してチームを勝たせたいと思います」。石川は、強い決意を言葉にした。

QBの憧れは、佼成学園の先輩小林伸光。「ずっとQBのことを教えてもらってたのと、投げ方とかはノブさんのまねをしてます」。ショートパスのキレは憧れの先輩に着実に近づいている。

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若き司令塔に今の目標を聞いた。「まずは、BIG8で一番のQBになりたいです」。パサーとして開花しつつある石川の成長を見ていきたい。

この日負けた悔しさを最終戦にぶつける

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