ラグビー

特集:縦と横のコントラスト 第100回早明戦

早明同期主将対談(下) 今年の予想は一致「BKに注目の分、FWのスクラムがカギ」

明治大元主将の田中澄憲さん(左)、早稲田大元主将の石川安彦さん(対談の撮影・斉藤健仁)

12月1日、関東大学対抗戦の伝統の一戦である早稲田大学対明治大学の「早明戦」が100回目を迎える。1997年度に両チームの主将を務めた早稲田大OBの石川安彦さん(元東芝府中、三洋電機など)と、明治大OBの田中澄憲さん(元サントリー、前明治大学監督)の同期2人にお話をうかがった。「下」では、卒業後に生きたラグビー経験を聞き、今年の早明両チームへのエールをいただいた。

【対談の前半はこちら】早明同期主将対談(上) 「歓声で審判の笛も聞こえず」1990年代の早明戦の空気感
縦と横のコントラスト 第100回早明戦

大学4年間での人格形成の大切さ・楽しさ

―現在のお仕事を教えてください。

田中 明治大学監督の後、東京サントリーサンゴリアスのGM(ゼネラルマネージャー)となり、監督を務め、今季、GMに復帰しました。サンゴリアスというクラブの代表なので、強化面半分、営業面半分という感じですね。

石川 2022年まで8年間、明治学院大学(関東対抗戦B)で監督をした後、現在は、フィールドオブドリームスに所属しながら、東京都港区の事業で幼稚園や小学校でタグラグビーを教えたり、みなとラグビースクールや鎌倉ラグビースクール、STEAMラグビーアカデミーin鎌倉でコーチをしたりしています。大人や大学生も良いけど、子どもの人格形成に関わりたいと思っています。

田中 ヤスは高校生からあまり変わってないよね。正直だし、ピュアだしね。

石川 根本は全く変わっていないね。楽しいことだけしたいと思ってやっているよ。キヨノリもいいじゃん。ずっとラグビーに携わっていて。

田中 ありがたいことにラグビーにずっと携わることができています。社会人も大学の指導もやったけど、全く別の楽しさや難しさがありました。大学は人を育てるということにフォーカスし、彼らの成長を目の当たりにできたことが楽しかったですね。

96年1月2日の大学選手権準決勝。早明両校が快勝し、決勝での対決が決まった(撮影・朝日新聞社)

石川 別に社会人に対して教育がいらないわけじゃないけど、大学1年生から4年生までのその大学の4年間でラグビーだけじゃなくて、その人格形成にも関わっていくから、それが楽しいんだよ。

田中 入学したばかりの1年生、卒業する前の4年生って全然違うし、卒業したらしたで、立派な社会人になっていたりする。

石川 俺は後から気づく教育もあると思っていて、大学の監督をやっていたときに、あのときもっと成長させてあげたかったとか、最後の最後までうまくいかなかった選手が、社会人になってOBとして「あのときこう思っていました」とか話をしてくれると、大人になったなと思うよ。 

田中 その選手は社会人になってから気づいて、その時に感謝するわけでしょ。そういうやりがいがあるのが大学ラグビーのおもしろさで、大学の監督やっていて良かったなと思う瞬間だよね。

卒業後はノーサイド 両校のライバル意識なし

―大学でキャプテンを経験して、今に生きていることは?

石川 早稲田大学時代の経験は生きていることはいっぱいあって、ちょっと前は大学生を指導して、今は子どもたちを教えるのがメインとなりましたが、ラグビーそのものを楽しむっていうことを伝えられるようになったかな。大学時代、自分は楽しめていないから、子どもたちを型にはめないように、競技自体を楽しむように伝えています。

でも、今から思うと早稲田大に入って良かった。そのときの仲間との関係は続いているし、先輩や後輩たちとも今でも深い付き合いがあります。トータルして早稲田大でラグビーができて良かったな、というのはあります。

田中 私は高校のときまでは、ラグビーに対しておかしなくらい、ちょっとストイックなキャラクターで、考え方が極端でした。でも明治大に行ったことで、それだけがすべてじゃないという、ちょうど良いバランスの取れた人間になったと思います。

石川 いい学びだよね。だから、キヨが早稲田大に行っていたらやばかったかもしれない(苦笑)

田中 なんというか、ラグビーを辞めて社会人になってから、バランスが取れるようになったのは、明治大の経験がすごく生きたと思っています。ヤスとは違ったカテゴリーというのがあるかもしれないけど、指導者の立場として楽しむこととか、キャラクターや強みみたいなものをしっかり生かさないといけないというような考え方もできるようになった。いろんな意味で、ヤスと一緒でトータルして、明治大に行って僕もすごく良かったなと思います。

96年1月の大学選手権決勝。明治が2年ぶり11度目の優勝。優勝11回は当時の最多(撮影・朝日新聞社)

―大学卒業後もライバル校の選手のことを意識したりするのでしょうか?

石川 特別な意識はないですよ。明治大出身の選手と社会人で同じチームになったり、対戦したりするから、「明治のやつが出ている」と思うことはないですね。

田中 大学時代、「早明戦」の後、偶然、新宿で会って飲んだりしたこともあった。良いライバルでしたが、社会人になってから「あのときは俺が勝ったから!」みたいな話は全くないですね。特別なものがあるとしたら、今の人たちが聞いたらどうかというのは別として、大学ラグビーを盛り上げるのは早稲田大、明治大の役割だと思いました。明治大の監督になった1年目、大学選手権の準決勝(例年1月2日)で早稲田大と対戦しましたが、選手のときは当たり前だと思っていましたが、やはり1月2日の国立競技場に明治大も早稲田大もいなければならないという使命感があるなと感じましたね。

「100回目」を意識せず、楽しくプレーしてほしい

―100回目の「早明戦」。OB、元キャプテンとして、選手たちにエールを!

田中 「早明戦」は、早稲田大、明治大じゃないと経験できないことだと思ったし、ラグビーが自分の大学を代表しているシンボリックなスポーツだというのをものすごく感じたよね。

石川 それはめちゃめちゃ感じたね。早稲田大だと野球と駅伝、ラグビーはもう別世界だったね。母校だし、やっぱり早稲田大は応援しているし勝ってもらいたい。長い歴史の中での試合ですが、明治大も早稲田大も変に緊張することなく、リラックスしながらラグビーそのものを楽しんでもらいたい。と言いながらも、やっぱり先輩たちが築き上げてきたものなしにはプレーできないと思うので そこを重圧に感じずに、リラックスして楽しくプレーしてもらいたい。

田中 100回目ということですが、僕も監督になって知ったのですが、対抗戦の成り立ちとか、明治大もラグビー部ができたときに早稲田大学、慶應義塾大学、東京大学とかにサポートを受けたからこそ、続けられてきたという歴史を知る良いきっかけの一つにしてほしい。現役の選手は100回目で勝ったとか、負けたとかを意識するかもしれないですけど、やっぱり今の色をお互いに出して良いゲームをしてほしいですね。

「現役の選手は100回目で意識するかもしれないですけど、今の色をお互いに出して良いゲームをしてほしい」

―両大学の選手たちに話を聞くと「大学選手権前の1つの試合だからあまり意識していない」という選手が多いですが……。

田中 「意識していません」と言うようにしているだけですよ。

石川 絶対に意識している! 

田中 それは自分に暗示をかけているんです(笑)。

―お二人が注目している選手は? 

石川 早稲田大は1年生のSO服部(亮太、佐賀工業)君って言いそうですけど、絶対にスクラムだと思うので、スクラムは8人で組みますが、FW第1列の先発3人にはプライドを持って、明治のスクラムをかっちり止めてもらいたいですね。そこがたぶん1番、勝つには重要だと思います。

田中 確かにそうだと思いますね。早稲田大のBKにはタレントがいるので、アタックさせたらめちゃめちゃ怖いチーム。そのアタックの時間をどう減らすかも含めて、自分たちの土俵にどう引きずりこむかと言ったらやっぱりセットプレーでプレッシャーをかけることが大事。セットプレーで明治大がペースを握れば、キーマンになる10番の服部くんも1年生ということもありますし、プレッシャーを感じると思います。

「ラグビー界全体を考えたら、早稲田大、明治大だけでなくて、帝京大学、筑波大学でもどこでも盛り上がってほしい」

「ラグビー界全体に注目を」「ラグビーやる子を増やしたい」

―今後、「早明戦」にはどうあってほしいですか?

石川 正直に言うと、ラグビー界全体を考えたら、早稲田大、明治大だけで盛り上がる必要はなくて、帝京大学、筑波大学でもどこでも盛り上がってほしい。でもラグビーそのものの楽しさ、激しさを追求すると日本代表のレベルが一番高いので日本代表を応援してほしい。個人的には、「早明戦」が盛り上がってほしいが、それ以外のラグビー全体が注目されて盛り上がってほしいです。

田中 100回目を迎えるので、200回目も迎えてほしい。早稲田大も明治大も強くあってほしいですし、大学ラグビーをどう牽引(けんいん)していくか。帝京大学、京都産業大学など、いろんな大学も強化して来ている中で、「伝統の一戦」という言葉よりも大学のファン、大学のOBやOGに元気を届けられるようなチーム、クラブであってほしい。またラグビーをやる子どもたちがいなくなったら「早明戦」もできないですし、ラグビーやる子どもを増やすにはトップレベルが強くなっていくのも必要です。普及も大事ですし大学ラグビーの魅力も大事になってくると思います。

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