箱根駅伝は「結束」で上位を狙う東洋大学 酒井俊幸監督「しっかり力を発揮したい」
2025年の1月2日、3日に行われる第101回箱根駅伝を前に、12月9日に東洋大学白山キャンパスにて学内壮行会と合同取材が行われた。酒井俊幸監督と主将の梅崎蓮(4年、宇和島東)、副将の小林亮太(4年、豊川)、石田洸介(4年、東農大二)が出席し、約3週間後に迫った大会に向けて意気込みを語った。
MBTI診断で自己紹介、なごやかな壮行会
壮行会は大学の昼休みの時間に中庭で行われ、多くの学生が集まる前で酒井監督と選手たちが壇上に上がった。10日の正式エントリー前だったため、選手たちは「エントリーメンバー候補」という形で登場。名前と学部、そして自分のMBTI診断の結果を言っていく形式で自己紹介が進んだ。MBTIは個人の性格を16タイプに分類する性格診断テストで、特に若い世代で流行している。学生に親しみを持ってもらいたいという狙いがあったようだ。
続いて酒井監督が「東洋大学は現在19年連続シード権を獲得していますが、これは現在続いている最長記録になります。シード権獲得はもちろんですが、上位を目標に箱根路に挑んでいきたいと思います」と抱負を述べた。応援指導部によるエール、そして学生による折り鶴の贈呈などもあり、陸上部への応援ムードを盛り上げた。
4年生の復帰、下級生の台頭
今シーズン東洋大は出雲駅伝では11位、全日本大学駅伝では13位と上位争いに絡めずにいる。「トラックシーズン、春先はしっかり力を出せていた選手が夏以降あまり調子が上がらなかったところと、出雲は若手でいこうという狙いもありましたので、そこから始まった3大駅伝でした。全日本に関しては4年生も復帰してきて、全日本をきっかけに良くなってきた選手もいますので、しっかりトラックシーズンで走れていた力を箱根駅伝で出していきたいなと思っています」。酒井監督はここまでの駅伝シーズンを振り返ってこう話した。
出雲駅伝は3年生以下で臨んだが、全日本大学駅伝では梅崎、小林、石田の3人が復帰。また、力のある1年生が実戦を経験できたことも好材料に挙げた。出雲駅伝では迎暖人(拓大一)が4区で、宮崎優(東洋大牛久)がアンカーの6区でデビューし、それぞれ区間10位、区間11位だった。
昨年度は出雲駅伝7位、全日本大学駅伝14位だったところから箱根駅伝では4位と大きく盛り返した。今年度も同じ流れを期待されるのでは、と聞かれると「昨年の流れを経験している選手が残っているので安心感があります。特に今の3年生、西村真周(自由ケ丘)や岸本遼太郎(高知農業)が今度は主力として、昨年の卒業生が抜けたところをしっかり埋めながらやってほしいなと思います」と期待を込めた。
主将・梅崎蓮を「エース」と明言
区間配置は体調不良者が出たときなど、不測の事態にも備えて何パターンか準備していると話す酒井監督。「特にエースをどこに置くのか、あとは山の5区・6区をどうしていくのか。あとは昨年の経験者をどこに置くかなど、全体の流れを見た上で主要なところに置くのか」。大会までは3週間。今後の追い込みをしながら見極めていきたいという。
「エース」という言葉が出て、それは誰かと問われると主将の梅崎の名前が挙がった。「この4年間でしっかり成績を残してますし、前回も2区を1時間6分台で走ってます(区間6位)。前回も彼の2区の走りからだいぶ流れが変わって、3区の小林とうまくつなげて、往路でいい順位を取れてそのまま復路に行けましたので。2年連続2区を走ることになれば、彼の走りが非常に大事かなと思います」
関東インカレ1部ハーフマラソンで3年連続表彰台に上り、今年も日本人トップだった梅崎。学生のうちからマラソンにも挑戦し、今年箱根駅伝後の2月に延岡西日本マラソンで初マラソンを経験して2時間10分19秒で2位に入った。夏には練習の一環として北海道マラソンを走り、来年2月の大阪マラソンにもエントリー予定だ。
「彼は寒い時期になってくると非常に調子が上がってくる選手なので、箱根駅伝からマラソンに挑戦する、エースとしてマラソンを目指しているところで、チームを牽引(けんいん)するような力が結果として出てきたのかなと思います」と評価した。
副将・小林亮太「去年以上の走りを」
当の梅崎は、酒井監督から「エース」と言われていたことを伝えると「そうなんですね」と少し戸惑いも見せた。酒井監督から直接言われたことは一度もなかったそうだ。「あまり自分がエースだと思うことはないですが、そう言われたのであれば、しっかりキャプテンとしてエースとして走りたいと思います」と重圧には感じていない様子だ。
前回の2区は目標以上に走れたといい、「自分でもしっかり調整すれば走れるんだなと思いました。今回も2区を走るかはわからないですが、いい走りができるのかなと思っています」。昨年よりも調子が上がっているといい、自信をうかがわせた。
前回梅崎から襷(たすき)を受け取り、3区区間6位だった小林。今年は出雲駅伝への出走はなく、全日本大学駅伝の前後で少し調子を落として練習が途切れた時期もあったが、今は徐々に調子を上げて練習を積み重ねているところだ。前回は3区を1時間02分03秒で走ったが、区間賞を獲得した青山学院大学の太田蒼生(4年、大牟田)は59分47秒で、2分以上の差をつけられた。流れを作れたが、同学年の選手に大きな差をつけられたことには悔しさを感じた。
「やはり去年以上の走りが求められると思うので。3区で走るならば、しっかりと前回の区間賞との2分差を縮めていけるように、残り3週間しっかり準備していきたいと思います」
小林は入学した当初は主力ではなかったが、そこから徐々に実力をつけてレギュラーメンバーに入った。「まず一番は監督とコーチに対してしっかりと恩返しができるような走りができたらいいと思いますし、最後の箱根駅伝を家族や友だちも見ると言ってくれたので、そこでいい走りができるようにしていって、最後はチーム全体で笑顔で終われるようにしたいと思います」
石田洸介「みんなで笑って終わりたい」
昨年度は駅伝への出走がなかった石田は、全日本大学駅伝で駅伝に復帰したが、6区で21位と本来の力を発揮しきれなかった。しかしそこから練習に復帰して、順調に練習を積み重ねている状態だと話す。
この4年間は「苦しいことの方がほとんどだった」という。中学、高校時代の実績は抜群で、鳴り物入りで入学。1年時は出雲駅伝、全日本大学駅伝で区間賞を獲得し「スーパールーキー」としてデビューした。しかし2年時は出雲、全日本ともに区間9位、箱根駅伝では2区に起用されたが区間19位。大きな挫折と罪悪感から「このまま一緒にいていいのか」と悩み、部を離れていた期間もあった。
昨年9月に部に戻ったが、競技力が落ちていて駅伝のメンバーに入れる状況ではなかった。しかし前回の箱根駅伝で梅崎、小林、9区の吉田周(4年、広島国際学院)の同期3人の走りを見て、大きく心を動かされ、「負けられない」と感じ、頑張る原動力となった。梅崎、小林と並んで取材を受けた石田は「本当に2人は自分の心を動かしてくれた存在でもありますし、仲間であり、ライバルだと思います。今年1年間切磋琢磨(せっさたくま)し合ってきたので、この2人含めて同期もみんなで笑って終わりたいなと思っています」。2人には直接言わない思いを、この場で明かした。
酒井監督はチームの強みを「結束」と表現した。10日のエントリーでは、16人のうち4年生が6人エントリー。4年生が見せる「東洋大らしい、諦めない走り」と、後輩たちの勢いが合わされば、上位での戦いを期待できるだろう。