快挙から悔しさへ、5年前とは意味合いが大きく変化した國學院大學の箱根駅伝総合3位
第101回箱根駅伝
1月2・3日@東京・大手町~箱根・芦ノ湖間往復の217.1km
総合優勝 青山学院大学 10時間41分19秒(大会新)
2位 駒澤大学 10時間44分07秒
3位 國學院大學 10時間50分47秒
4位 早稲田大学 10時間50分57秒
5位 中央大学 10時間52分49秒
6位 城西大学 10時間53分09秒
7位 創価大学 10時間53分35秒
8位 東京国際大学 10時間54分55秒
9位 東洋大学 10時間54分56秒
10位 帝京大学 10時間54分58秒
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11位 順天堂大学 10時間55分05秒
1月2日、3日に開催された第101回箱根駅伝を國學院大學は総合3位で終えた。主将でエースの平林清澄(4年、美方)を擁し、出雲駅伝と全日本大学駅伝を制した中では悔しい結果となったが、箱根路初優勝に向けた課題は明確に。今大会で得たものは、新チームへとつながれた。
往路6位から追い上げ「3強」として意地の表彰台
総合3位は2020年の第96回大会と並ぶチームの最高成績だ。だが、チームに湧き出た感情は、5年前とは全く違うものだった。
「5年前は本当にうれしくて……。胴上げまでしてもらいましたからね」
前田康弘監督は当時をこう振り返る。当時の國學院大は、予選会を経て本戦に出場するのが半ば当たり前のチーム。この前年こそ総合7位につけたが、2018年までは出場した5大会連続でシード権を獲得できていなかった。2019年の出雲駅伝で初優勝を飾った実績はあったものの、当時の國學院大にとって「箱根路トップ3」は快挙と言ってよかった。
しかし今季は出雲駅伝と全日本大学駅伝を制し、「三冠」を狙うチームとして臨んだ。チームとしてのフェーズも変わっていた。第97回大会以降の総合順位は、9位→8位→4位→5位。実力校の一つに数えられる存在となっていた。
この5年間で箱根駅伝に対する価値観も変化したという前田監督は、今大会の結果を受けて「悔しさしかない」と唇をかむ。
「出雲と全日本は、本気で頂点を取りに行ってたどり着けた。優勝はフロックではなかったと思ってます。箱根も本気で狙ったんですが、結果このタイム差(優勝した青山学院大学と9分28秒)なので……完全に力負けでした」
それでも復路では往路6位から追い上げ、「3強の一角」としての意地は見せた。7区で辻原輝(2年、藤沢翔陵)が区間2位の好走で7位から順位を一つ上げると、8区の佐藤快成(4年、埼玉栄)も区間7位にまとめて4位に。10区区間3位の吉田蔵之介(2年、埼玉栄)は17.6km地点で単独3位となり、そのまま総合3位でフィニッシュした。
「強いチームにはプライドがありますが、ウチもそうなりつつある」と前田監督は手応えを感じている。自身は駒澤大学の選手時代、全日本の連覇に貢献し、4年時の2000年は主将として箱根駅伝総合初優勝の原動力になった。強いチームとは何かを知っている。「復路での追い上げもその表れかと。絶対に譲れないところを力でねじ伏せることができました」
前田康弘監督「対策すべきは〝山〟だと改めて認識」
1年時から3年連続で箱根路を走り、今季の出雲と全日本の優勝に貢献した青木瑠郁(3年、健大高崎)も、前田監督と同様のことを口にする。
「復路組が執念を見せてくれたことで、チームとしての地力を見せられたと思います。優勝できなくて悔しいですが、そこは胸を張りたいです」
一方で4区区間2位と健闘した自身の話に及ぶと、途端に険しい表情に。「目標はあくまで区間賞だったので、いい走りとは言えないです」。総合優勝を目指していたからこそ、区間賞を獲得した青山学院大の太田蒼生(4年、大牟田)に45秒差をつけられたことが許せなかったのだろう。
青木によると「三冠」への重圧は、チームにもなかったという。「出雲、全日本で優勝したのは自信になりましたが、見据えていたのは箱根での優勝だったので。『三冠』よりも箱根で勝つことに全員のベクトルが向いてました」
悔しさの中で初優勝に向けた課題も明確になった。前田監督は「対策すべきは〝山〟だと改めて認識しました。今回は5区と6区で(青山学院大に)6分半ほど差をつけられましたから。距離にすると2km以上。毎年のように5区と6区が鬼門になっている。監督の私自身がもう少し深く山と向き合わないと、この展開は打破できない」と話す。
ただし「山のスペシャリスト」を養成する考えはないようだ。平地とトラック、そしてハーフマラソンのタイムを作らないと、実業団で陸上競技を続けることが難しくなるからだ。
「スペシャリストを作るつもりはありませんが、坂のトレーニングなどで適性を見ながら、5区と6区で力を発揮できる選手を見いだしていきます。あと5区と6区は経験を生かせる区間でもあるので、1回目で結果が出なくても、我慢して起用し続けるのも大事かと」
新主将・上原琉翔「平林さんの背中をずっと見てきた」
箱根の悔しさを晴らす舞台は、箱根しかない。チームの絶対的エースで、出雲と全日本の優勝を牽引(けんいん)した平林は抜ける。彼が担った主将の座を引き継ぐのが、上原琉翔(3年、北山)だ。高校入学後、野球から陸上に転じた上原は、1年時から箱根を走っている。出雲は5区区間賞を獲得し、全日本はアンカーで初優勝のフィニッシュテープを切った。
「この1年、平林さんの背中をずっと見てきました。平林さんは主将として風通しが良く、オンとオフのメリハリがあるチームを作ってくれました。そこは引き継ごうと思ってます」
上原は内野手で活躍していた野球選手時代、小、中で主将を務めた経験がある。チームの先頭に立つことへの不安はないようだが、國學院大史上最強とうたわれた平林のチームでも、箱根駅伝総合優勝を果たせなかった現実を重く受け止めている。
「もともと仲間には厳しく言えないタイプなんですが、主将になった以上、自分の殻を破らなければならない。もちろん、自分にも厳しくしていきます」
前回、國學院大が3位になった時、上原は高校1年。「陸上に転向した1年目、まだ県外の大会に出場できる選手ではありませんでした」。5年間で大きく成長し、立ち位置も変わった。
9区を担った箱根では、前田監督から期待されていた「攻め駒」としての走りができなかった。「前半は良かったんですが。18km過ぎでバランスが崩れてしまって……力不足です。後輩の蔵之介に厳しい場面で襷(たすき)を渡したこともふがいなかったです」
前田監督は平地にも課題があると見ている。「後半です。15kmくらいまでなら青学大ともタイムはほぼ同じなんですが、あと5kmが粘り切れない」。青木は自戒を込めて話す。「優勝するには、平地での爆発力も必要。主力が投入される区間では、他校のエースに負けない走りが求められる」
練習は厳しくなる、力不足を認めるところから
選手が輪になったレース後のミーティングで、前田監督は卒業していく4年生に「箱根で得たものは、ここだけのものではなく、それぞれ(の人生)でつなげていくもの。駅伝と同じだ」と伝えた。
そして3年生以下には、静かな口調で檄(げき)を飛ばした。
「練習は厳しくなる。そうしないと青学大や駒大には勝てないから。力不足を認めるところから始めよう。平林のチームに負けないチームを作ろう」
出雲と全日本を制したことで、國學院大の力は証明した。全日本に続く初優勝に挑んだ箱根では悔しい結果に終わったものの、チーム最高順位は確保した。この経験をいかにつなげていくか。國學院大の襷は新主将・上原が引っ張る新チームに託された。