天理の久保がライバル竹山を抜いた日
大学選手権準決勝
1月2日@東京・秩父宮
天理大(関西Aリーグ1位)29-7 帝京大(関東対抗戦Aグループ1位)
関西王者の天理大が10連覇を目指す「赤い旋風」帝京大に29―7と快勝した。3度目の挑戦で初勝利し、悲願の初優勝に王手をかけた。
中学からトイメン同士
序盤から50m5秒9のスピードでチャンスをつくりだし、トライを挙げたのが天理大のエースWTB久保直人(4年、天理)だ。
この日、久保はいつも以上に気合が入っていた。帝京大のFB(フルバック)に、ライバルの竹山晃暉(4年、御所実)がいたからだ。
地元が同じ奈良県で、中学時代からトイメン同士で戦ってきた。高3のとき、久保の天理高は花園の予選決勝で竹山のいた御所実業高に敗れ、涙をのんでいた。
「高校のときも止められてたので、一回、抜いてやろうと思ってました」。大学最後の試合になるかもしれない大一番で、久保は長年の思いをぶつけた。
前半11分、早速チャンスがやってくる。天理はボールを大きく展開し、右サイドに張っていた14番にボールが回った。「ボールをもらう前に竹山が来る。絶対勝負しよう」と考えていた久保。ショートステップで竹山のタックルを巧みにかわし、そのまま右端にトライ。「いつものトライよりも価値あるトライです。うれしかった」。喜びを爆発させた。
12-7と5点リードで迎えた後半13分には、久保がスクラムからのサインプレーでビックゲイン。CTB(センター)シオサイア・フィフィタ(2年、日本航空石川)のトライにつながった。その後も天理は激しいディフェンスで帝京のアタックを止め続けた。FW陣がスクラムでもプレッシャーをかけ続け、29-7の快勝。帝京の連覇を9で止めた。
波瀾万丈のシーズン
久保と「やまのべラグビースクール」からの幼なじみであるキャプテンのHO(フッカー)島根一磨(4年、天理)も、竹山の前に中学、高校、大学と涙をのんできた。大学のラストチャンスでやっと勝ち、「負け続けてきたので、意地を見せられて本当にホッとしました」。久保はしみじみと言った。
2016年度の準決勝。帝京に24-42と敗れた試合で、当時2回生だった久保は島根とともに先発していた。そして最終学年で帝京を初めて破った。「FWがセットプレーを頑張って、チームディフェンスでも相手のアタックを継続させず、遮断できた。ここが2年前との違い。しっかり勝つ準備をしたので、まったく不安なく試合ができました」と、久保はチームの成長を実感していた。
久保は今シーズンの関西Aリーグに、2試合しか出られなかった。開幕戦後の練習で左手を骨折。全治2カ月だった。チームが連勝街道をひた走る中、自分はボールを扱う練習ができない。久保は「落ち込んで悩んでました」と言った。それでも足は動く。下半身中心のトレーニングを重ねながら、仲間を信じてけがが治るのを待った。
ようやく大学選手権で先発復帰。「間に合ってよかった」という久保は準々決勝の大東文化大戦、準決勝の帝京大戦と連続トライを挙げ、エースとしての存在感は示した。
7年前を超える
ついに1月12日、天理は大学王者をかけて明治と対戦する。
天理大は7年前、初めて決勝まで進んだ。帝京大との決勝の朝、中3だった久保は島根らと一緒に、4時に奈良を出発するバスで国立競技場に駆けつけた。のちに日本代表の中心選手となるキャプテンSO立川理道(現クボタ)が率いたチームは12-15で帝京大に敗れたが、まさに激闘だった。
「偉大な先輩たちの試合に感動しました。そのときは、まさか自分が決勝の舞台に立てるとは思ってなかったです」。久保はエースとして、天理として2度目の決勝に臨む。
「天理はディフェンスのリアクションがカラーだと思ってます。個人としは相手のBKに負けたくない。準優勝と優勝では重みが全然違います。勝ち切って優勝したい」と久保。
竹山は試合後、中学時代から切磋琢磨してきたライバルに「決勝でもしっかりトライしてくれよ」と声をかけたという。先輩やライバルの思いを背負い、久保は大学最後の戦いに臨む。
好きな言葉は高校時代のスローガン「ひたむき」。
「トライを取り切ることが仕事」と言い切るエースが決勝でもひたむきに躍動すれば、関西勢として34シーズンぶりの頂点、すなわち天理の初優勝はグッと近づくはずだ。