野球

連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

特集:第68回全日本大学野球選手権

東洋大学に新しい風を吹かせる男、その名は松本渉

ホームランを放ち、仲間に祝福される松本(右から2人目)。体こそ小さいですけど、大きなエネルギーを感じます(試合中の写真はすべて撮影・北川直樹)
「人生に野球の心を」恩師・原田監督と観戦して

4years.の野球応援団長を務めさせていただいております「野球大好き芸人」の笠川真一朗です。今日も全日本大学野球選手権に行ってきました!
今日は神宮球場です。僕はいつも自転車で神宮球場に向かいます。風が気持ちいいからです。晴れてはいませんが、連日の雨でなかなか自転車に乗れなかったので、朝からすごくいい気分で大学野球の聖地に到着しました。

普段は小さくてかわいい男の子

駐輪場に自転車を止めると、東洋大学が試合前のアップをしていました。
横を通ると、東洋大の1年生、松本渉(龍谷大平安)が「おはようございます!」と気持ちのいいあいさつをしてくれて、またいい気分になりました。

東都リーグの試合を神宮に見に来てる僕を見つけると、いつもあいさつに来てくれます。
その流れで「どう? 初めての全日本選手権、緊張してる?」と聞くと「はい! 少し緊張してます!」と、素直に答えてくれました。松本は身体の小ささ(167cm、65kg)と屈託のない笑顔が相まって、いつも本当にかわいい男の子なんです。

松本の活躍は彼の高校時代から、僕もこの目で見てきました。そんなかわいい男の子も、グラウンドに立つとめちゃくちゃかっこいい男に変貌します。

東都の名門東洋大の1番打者として、早くもこの春のリーグ戦で優勝に貢献しました。大学で、東都の世界で、1年生の春から試合に出るのはすごく難しいことです。そんな中、圧倒的な脚力、広い守備範囲、対応力のある打撃を見事に発揮して新人賞のタイトルを獲得してしまいました。恐ろしいほどの活躍ぶりです。

今日はそんな松本に注目して、桐蔭横浜大学との2回戦を観戦しました。

またもやスタンドに恩師・原田監督!

そしてまた奇跡が起こります。
スタンドに恩師で龍谷大平安高校監督の原田英彦監督を発見!
すぐに昨日のお礼とあいさつをしに、監督のいらっしゃる席へ向かいました。
すると監督は昨日4years.にアップされた僕のコラムを読んでくださっており、「おまえ文章書くのうまいなぁ。すごいと思ったわ。おれもいろんな記事見てるけど、あれは立派な文章やったぞ。頑張れ!』と、ほめてもらえました。
またまたいい気分になりました。
僕はあの人にほめられるときが生きてる中で最もうれしい瞬間で、これからの自信や活力になります。

「今日は松本のことを書こうと思います!」と原田監督に伝えると、「あの子は相当なマイペースで人の輪の中に入っていかないし、おとなしい。でも、ものすごく強い芯を持ってる。野球が本当に大好きな子だと、見てればわかる。しんどいこと、つらいことを自分でやれる。バットもたくさん振ってたし、足も速くなった。厳しいと言われてる平安にも、自分から『入りたい』と飛び込んできた。体は小さいけど、大きい選手に負けないスピードと対応力を持ってる」と、松本について教えてくれました。

松本はセンタリングというメンタルを整えるルーティンをしてからバッターボックスに立ちます。彼の高校の頃からのルーティンワークです

続けて「ただ、もっと目立たないといけない。これは高校のときからあいつにずっと言い続けてきた。上で野球を続ける人間には、勝ちにいく闘志や元気が共通して兼ね備えられてる。野球選手は目立ってなんぼ。もっともっとチームメイトに指示を送ったり、どんどん自分からしゃべって目立たないと。社会に出てもこれは同じで、人に覚えてもらって損はない。人に覚えてもらうことで、得することは多い。あいつは体が小さい分、全力でそういう部分に取り組まないと、特別な選手にはなれない。厳しい東都の世界、全国の舞台で学んで、力をつけてほしい。高校の3年間で気づけなかったこと、できなかったことを大学で気づいてできるようになったら、それで勝ち。それができたら、またあの3年間に価値が出てくる」。松本の物足りない部分と、これからの期待も口にしてくれました。

自分にないものに悲観していても始まらない

これも、僕が高校のころからずっと、原田監督が言ってきたことです。
原田監督もいまとなってはガッチリした体で有名ですが、現役時代は小柄な選手でした。体の大きな選手を見ると、うらやましいと思ったり、身体が大きかったらプロ野球界選手にも絶対になれてたと思うこともあったそうです。
ただ、自分にないものについて悲観ばかりしていても、何も始まりません。
自分にあるものでどれだけ自分を生かしていくかを考えたときに、とにかく目立つことが大切だ、と原田監督は誰よりも大きな声を出し続けたり、チームメイトに指示を送ったり、目立つためにできる限りのことをしたとおっしゃってました。

監督の教えには、生きるうえで大切なことがたくさんあります。
野球と人生をつなげる指導があるから、僕たちは監督のことを尊敬し、監督の教えを守って生きていくんだと改めて感じました。

そして試合が始まりました。
今日も、いや、これからも細かい試合内容についてはプロの記者の方にお任せします!笑
試合は東洋大が7対1で勝ちました。
後輩の活躍に、また同じリーグで育った人間として、東都の東洋大の勝利にまたまたまた気分がよくなりました。

原田監督と松本の思いがぴったり一致

この日の1番打者の松本の打撃成績です。
1打席目 中前安打
2打席目 死球
3打席目 四球
4打席目 右本塁打
5打席目 捕安打(セーフティーバント)
トップバッターとして大車輪の活躍です。チームの勝利に大きく貢献しました。

「ホームランはたまたま。ラッキーです」と松本

そんな松本の全国の舞台での大活躍を目にした原田監督は「おれが一番うれしかったのは、初回のセンター前ヒット。あれは1番バッターとして最高の役割を果たしてる。1番バッターは初回の第1打席にとにかく集中する。ヒットを打てば、塁に出れば、試合の主導権を握れる。それが1番バッターの使命。だから1番バッターは『切り込み隊長』と呼ばれる。その使命をしっかり果たして、チームにいい流れをもたらした。足もしっかり使って、盗塁も決めてる。フォアボールをもらった打席も、粘って粘って出塁した。ホームランはおまけ。本人もそれはわかってるんちゃうかな。持ち味がしっかり出せてるなぁ」。原田監督も現役のころに1番打者の経験があるので、自身の経験と照らし合わせながら、松本の活躍を振り返ってくれました。

試合後、松本に話を聞きにいきました。試合前には緊張してると言ってましたが、「実際にプレーしてるとそんなに緊張しなかったです。普段神宮でやってるので、慣れてるというのも大きかったと思います。とにかく勝ててよかったです」
あまりしゃべるのが得意でない松本に『やっぱりこういうとこでしゃべるのは苦手?』と問いかけると、「甲子園に出たときも取材はあったので『慣れてるかなぁ』と思ったんですけど、やっぱり苦手です……』と、苦笑いする表情は、やっぱりどこかあどけなくて可愛いです(笑)。

松本は1番打者としての使命をよく心得ています

今日の活躍を振り返り「ホームランはたまたま。ラッキーです。1番バッターとしての役割を果たせたのはうれしいです。チームとして“先制パンチ”というテーマを掲げて試合に臨んだので、1番バッターとして絶対に塁に出ようと思ってました。初回に先頭打者として塁に出られたのが、一番大きいと思います』と松本は口にしました。
原田監督が言ってたことと、松本の思ってたことが一致していたことに、僕は感動しました。
松本は原田監督の教えをしっかり分かってます。そこに感動しました。

「みんな、松本が出てることに納得してます」

松本は高校時代は3番打者でしたが、チームの1番打者がどのように試合に臨むかは肌で感じていたはずです。
松本は試合前に原田監督と会ったみたいで『いつものようにおなかに軽くパンチをもらって、気合が入りました(笑)』と、話を聞いてる中で一番の笑顔で話してくれました。
僕もいつも原田監督にされるのですが、平安OBにはおなじみです。原田監督は笑顔で「おい! 気合い入れて頑張れよ!」と言わんばかりのパンチをお腹にくれます(笑)。
それは原田監督なりのエールです。僕たちはそれがうれしいし、気合が入るのです。

これからの試合に向けて、これから先の野球人生に向けてのを聞くと『100点満点のプレーをできるようにしたい。100点満点のプレーをするには準備が大切です。準備をしっかりして試合に挑める選手になりたい』と、松本は引き締まった表情で答えてくれました。

1年生ながら活躍する松本は、チームメイトからどう見えているのか。僕はそれが気になりました。

選手のことを一番気にかけているのはマネージャーや学生コーチです。マネージャーに聞けば間違いないと思ったので、東洋大の主務、谷川拓己君(4年、神村学園)に聞いてみました。
『すごいですよ! 杉本(泰彦)監督も「松本はいままでの東洋になかった新しい風を吹かせてくれてる」と評価してます。僕から見てても、1年生であそこまで自分の持ち味やプレースタイルを表現できるのはすごいですし、頼もしい。それにプラスαで結果もしっかり出してます。チームのみんなも松本が試合に出てることに納得してます!』と話してくれました。1年生ながら、すでにスタッフ、チームメイトの信頼を得て試合に出場する。松本は末恐ろしい男です。

松本、お互いに目立っていこう!

大学野球には自分を成長させるモノやコトが意外と近くにたくさんあふれてます。
先輩のかっこいい姿を見たり、対戦相手のすごさを目の当たりにしたり、もちろん学校生活の中にも。
その一つひとつを大切にして自分でたくさんのことに気づいていけば、松本が目指す100点満点の選手に、そして原田監督がおっしゃったような 特別な選手 に近づいていけるんだろうなと思いました。

残りの学生野球人生を後悔のないように、これからの戦いも頑張ってほしいと思います!
それができればきっと、その先に明るい未来が待ってると僕は信じてます!

松本くんありがとう!
お互いに目立っていこう!

原田監督、2日間に渡り、貴重なお話ありがとうございました!
ずっと大好きです!

この日神宮にいた平安OB。右から明治大の市岡外野手、原田監督、大阪体育大の川井田捕手、青山学院大の北村投手(撮影・笠川真一朗)
熱い思いで結ばれた、東洋大の和輝と基輝

野球応援団長・笠川真一朗コラム

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