野球

連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

特集:第68回全日本大学野球選手権

ベスト4、「東海撃破」、次々目標を達成する佛教大の主将

佛教大主将の吉村君。熱い思いでチームを引っ張ります
熱い思いで結ばれた、東洋大の和輝と基輝

「野球応援団長」の笠川真一朗です! 土曜日の雨で順延した全日本大学野球選手権の準決勝。選手にとっては連戦となるのでちょうどいい休養、準備のできる日になってよかったかなと思いました。そして今日は昨日と打って変わっての大晴天。野球観戦にはたまらない素晴らしいお天気でした!

「東海撃破」をテーマにして

さて、今日僕が注目したのは準決勝第2試合、佛教大学ー東海大学です! 佛教大は初戦の八戸学院大学との試合で9回に3点差をひっくり返すサヨナラ勝ち。準々決勝の東北福祉大学戦でも終盤に3点差をひっくり返しました。終盤の逆転で勝ち進んできた勢いがあります。一方は初戦から接戦の試合を粘り強くモノにして勝ち上がってきた東海大学です。

僕は、終盤に神がかったように力を発揮して逆転勝ちを繰り返す佛教大学が、高校時代から全国に名を馳せた選手が揃う東海大学にどう立ち向かっていくのかが気になりました。

試合前に佛教大学のアップを見に行くと、主将の吉村颯君(4年、龍谷大平安)があいさつに来てくれました。吉村君に、準決勝にどんな気持ちで臨むのか尋ねてみると「チームとして『東海撃破』というテーマを持って挑みます。細かいことは何も考えず、とにかく東海大学を倒す。それだけ考えてます。でも緊張します!」と、少し微笑みながら言い残して、アップに向かって行きました。そしてアップから戻ってくると吉村君は「笠川さん、チームの雰囲気めちゃくちゃいいです!」と、今度はしっかり笑って試合へと向かって行きました。

なぜ佛教大は勝ち続けられるのか

試合内容としては、今日も0-3のビハインドからひっくり返して6-4で佛教大の大逆転勝利。今日も細かい試合内容はプロの記者の方に全力でお任せします!笑

サードライナーでゲームセット。劇的な幕切れでした

佛教大の勝ち方を見ていると、技術以外の気持ちの部分で何か大きなチカラが働いてるように思えて仕方がありませんでした。こんなに何試合も試合の終盤に逆転することは普通は考えられません。恐ろしいほどの勢いを感じます。

今日は、1回に2安打、3回に1本の長打、4回も2安打とチャンスをつくりましたが、得点に結びつきませんでした、そして4回に3点を先制されました。チャンスをつくってるのに、先に相手に先制されると、ものすごくチームとしては雰囲気が悪くなります。

でもこれまでの戦いでそれをひっくり返してきたのが佛教大です。1度できたことをもう1度できると、自信が確信に変わります。苦境に立たされても、ひたすらに前を向き続け、試合を勝ち取ってきました。今日の勝ちにも多くの要因があったように思いました。

まずは1番を打つ八木風磨君(3年、北稜)の5打数4安打。トップバッターがこれだけ塁に出れば、チームに勢いがつきます。失点した4回の直後の攻撃。先頭打者の八木君は初球のストレートを叩いてセンター前ヒット。点を取られた次の回に、先頭打者が初球を叩いて出塁すると相手に与えるダメージはものすごく大きいです。

そしてチームに大きな流れを持ってきたのが2番手投手で左の木下隆也君(2年、奈良大附)と、坪倉斗真君(4年、近江)のバッテリー。右打者が多い東海大に対して、バッテリーはアウトコースをうまく使って追い込みます。要所で厳しくインコースを攻めて打ち取るという、左投手のお手本のような配球には感動しました。4回途中からマウンドに上がり、8回途中まで無安打に封じました。最後まで持ち続けたマウンド度胸とストレートの強さは素晴らしかったです。

ほかにも素晴らしいプレーが本当にたくさんありました。いままでゲーム展開には僕もあまり触れてきませんでしたが、これだけは伝えたかったです。

部員「全員」の力が一体に

そして何より僕が伝えたいのは、スタンドにいる部員の応援の力です。試合の最初から最後まで、全員必死に声を出して選手を盛り上げ、鼓舞し続けていました。あれだけ終盤の逆転を目の当たりにしてきたら、スタンドの部員たちにも「勝てるぞ!」という意識が浸透してるんだと思います。それも大きな勢いを保てている理由の一つだと感じました。

佛教大はグラウンドで戦う選手だけでなく、応援する部員も一体になっているのを感じます

僕はこれまでいろんなチームの応援を見てきましたが、試合の最初から最後まであの応援ができるチームは珍しいです。今日はものすごく暑い日でした。そんな中、勝ってても負けてても、懸命にチームを応援できるのは本当にかっこいいことです。すごく感動しました。あそこまで必死に応援されると、グラウンドにいる選手たちは絶対に手を抜けません。グラウンドで戦う選手たちと外で戦う選手たち。それぞれがひとつの束になって勝利をつかみにいくチームの一体感が伝わってきました。

「正直ここまで勝てると思ってた?」

試合後の吉村君に話を聞きました。「純粋に勝ててうれしいです。3点取られるのはチームとして想定の範囲内でした。だから先制されてもあわてず、落ち着いていましたし、チームの雰囲気もよかったです」と試合を振り返りました。続けて「野嶋のホームラン(3失点した直後の5回に放った2ラン)で『これはいける!』と、チームが活気づきました」

僕は吉村君に「ごめんね、正直ここまで勝てると思ってた?」と、失礼を覚悟の上で質問を投げかけました。正直、大会前のトーナメント表を見たときは、まったく予想してなかった勝ち上がりだったので、当事者の主将はどう感じているのか聞いてみたかったのです。

「いや、正直、こんなことしちゃっていいのかなぁとも思ってます(笑)」と、吉村君も笑いながら口にしました。僕は吉村君の話を初戦から聞き続けてきたのですが「とにかく前のめりになって挑みます」「粘り強く、粘り強く。その気持ちは常に持ってます」「一つひとつ、目の前の試合をとにかく勝てるようにそれだけを考えます」「全員が同じ方向を向いて試合に臨んでます」と、主将らしい前向きな言葉だけを口にしてきました。この勝ち上がりは、相手がどこでも決してあきらめなかったチームの姿勢の賜物です。

決してあきらめない、目の前のことをひとつずつ。佛教大は、チームみんながその意識でまとまっています

「出られなくて悔しい思いをしてる選手はたくさんいる。この春で引退する4回生もいる。そんな中でチームのために本気で応援してくれるのは本当にありがたいし、すごく力になってます。だから頑張れます」と、キャプテンは応援してくれる仲間への思いも口にしてくれました。

試合後、吉村君のお父さん、正宏さんにも話を聞かせてもらいました。「家では野球の話はしない。僕も別にとやかく言わない。見守るようにしてます。高校の時からそう。ほかの選手や親御さんに話を聞いたら、あの子はすごく苦労してるというような話を耳にするけど、家では文句ひとつ言わない。野球が本当に好きなんだと思う。大学でも主将を務めて、いままでなかった自覚や覚悟みたいなものが培われてるように見える。人の事を考えられる人間になったように思います」と、息子さんの成長を語ってくれました。

僕自身も吉村君の話聞いていて、あまり多くを語らず、短い言葉が多い印象を持ちました。しかしその一つひとつの言葉を放つ吉村君の表情や口調には、彼の内に秘めている強い気持ちが感じられました。

前向きな気持ちや考えは、周りにもしっかりと伝染します。吉村君を筆頭に、いまの佛教大には前向きな姿勢を持って試合に臨んでいる選手たちがあふれているように思いました。

僕は試合後、ロッカールームに戻っていく選手たちの様子を見るようにしています。試合に勝てば、次に向けての準備が始まります。今日の結果のこと。明日に向けてのこと。選手は考えることが沢山ありますが、その中で一人ひとりがどんな表情をしているかを見たいからです。初戦から見ていて気づいたことは、試合が終わった後の佛教大の選手たちには、勝ったあとの喜びの表情の中に「よし!次もいくぞ!」という力強い顔で引きあげていく選手が多いということでした。

佛教大学は京滋大学野球連盟として初の決勝進出という快挙を成し遂げました。前向きな姿勢がこのチームの強さだと、僕は見ています。

初戦の試合を前に、吉村君は僕に「新チームが始まった時から『全国ベスト4』を目標にしてきました。それは絶対に達成したいです」と決意を語ってくれました。

目標は「日本一」。彼の言葉が現実になったらと思うと、ワクワクします!

それを達成して次に立てた目標は『東海撃破』。今日、見事に達成しました。
そして吉村君が語ってくれた明日の決勝の目標は「日本一」です。

「相手は東京六大学の明治。相手がどこでも、とにかく明日も泥臭く勝ちに行きますよ」
快進撃を続けるチームの主将は、明日も前向きにチームを引っ張ります。

意地と意地のぶつかり合い、最高の決勝戦を見て

野球応援団長・笠川真一朗コラム

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