野球

連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

特集:第68回全日本大学野球選手権

熱い思いで結ばれた、東洋大の和輝と基輝

東洋大の山崎君。この春、東都でベストナインを獲得しました(試合中の写真はすべて撮影・佐伯航平)
東洋大学に新しい風を吹かせる男、その名は松本渉

「野球応援団長」の笠川真一朗です! 全日本大学野球選手権は、早くも4日目を迎えました。勝ち残っているチームは優勝を目指し、負けてしまったチームは大舞台で得た財産を胸に、秋の戦いに向けてスタートです。全国各地のリーグ戦を勝ち抜いて選手権に出場した27校。ここでの経験は、どこかで必ずプラスになるはずです。

笑顔が素敵な、東洋の学生コーチ

そして僕は今日も自転車で神宮球場に。ひさしぶりの晴天。やっぱり野球は晴れた日にするのが一番だなぁとニヤニヤしながら、球場に到着しました。

第1試合の東洋大学ー明治大学の準々決勝に注目しました。試合結果は3ー0で明治大の勝利。もちろん今日も試合内容についてはプロの記者の方にお任せします!笑

試合前に東洋大で学生コーチを務める三輪和輝君(4年、愛工大名電)に話を聞かせてもらいました。神宮球場に試合を見に来ると、いつもスッと背中に筋が通った姿勢と素敵な笑顔で歩いてる姿がとにかく印象的で、彼に話を聞いてみたくなったのです。

三輪くんは去年の秋、新チームが始まるころに杉本泰彦監督と面談したそうです。そこで「学生コーチになってチームをサポートしてくれないか?」と打診されました。「やっぱり野球が好きなんで、選手でいたいという未練もすごくありました。いろんな人に相談したりもしたんですけど、いまの自分の立場を冷静に見たとき、選手でいるよりチームを支えた方が貢献できると思ったので、学生コーチになるのを選びました」。悩み抜いた末の決断だったことを教えてくれました。

ベンチから声援を送る控えの選手たち。さらにたくさんの人の思いで、チームができています

現在、東洋大学には4年生だけで約10人ほどの学生コーチがいるそうです。選手としての道を断ち、チームのサポートに回る決断をするのは容易なことではありません。彼らは自分のことだけを考えるのではなく、チームのことを考えて決断しています。

自分のことより、仲間のことを考えるように

学生コーチの役割は多岐に渡ります。練習の手伝いやプレーへの助言。対戦相手の偵察やデータ分析などなど。ものすごく忙しい日々を送ります。それでも「ほかにも4年生の学生コーチはいますし、協力しながら取り組んでいるので、別にしんどいことやつらいことはとくにないです! 野球のことも仲間のことも好きなんで!」と、三輪くんらしい素直な笑顔でハッキリと思いを口にしました。

学生コーチになった当時は選手への未練が残っていたようですが、学生コーチになってから徐々に三輪くんの心に変化が起こりました。「僕はもともと人としゃべるのが大好きなんです。コミュニケーションを取るのが好きなので、そういった面では僕に適してるのかなと感じました。選手のときは自分のことしか考えてなかったけど、学生コーチになったことで人の気持ちを考えるようになって、寄り添えるようになりました。選手のままでは絶対にわからなかったことなので、学生コーチをやってよかったです」と三輪くん。僕も同じようにチームをサポートする側にいた人間として、同じことを思ったことがあったので、すごく共感しました。

人間には一人ひとり長所や個性があります。
その長所や個性を生かして自分の役割を考えることが大切です。
これは野球以外にも通じることだと、僕は思います。

与えられた役割をまっとうする。簡単なようで、なかなか難しいことです

三輪君の個性はしゃべるのが好きなことです。コミュニケーションを取るのが好きなことです。そんな三輪くんにしかできないことが、話を聞いている中で、一つありました。

「僕は上の学年の人に可愛がってもらいました。だから下の学年の子にもそうしてあげたいです。僕の役割は上級生と下級生をつなぎ合わせること。下の学年の子にも気さくに話しかけてもらえるようにしてます。だから僕は下の学年の子をほとんど名前で呼んでます! その方が親しみやすいかなーと思って! あんまり名字では呼ばないですね」

これは、三輪君が考えて実行した大きな行動だと僕は思います。野球のプレーに直結することではないかもしれませんが、こういった一つひとつの気配り、心配りも、組織をうまく回していく秘訣です。それも学生コーチの一つの役割です。

強い思いでベストナインになった3年生

左が三輪君、右が山崎君です(撮影・笠川真一朗)

そんな三輪君が特別な思いを持つ選手がいます。同じ愛工大名電高から東洋大にやってきた1学年下の後輩、5番指名打者で準々決勝に出場した3年生の山崎基輝(もとき)君です。
「基輝とは高校のころから二人でずっと一緒に練習してきました。あいつも野球が本当に大好きで、バス移動の間もずっと野球の動画を見てます。研究熱心なヤツなんで、試合に出て活躍してる姿を見るとうれしいです!」と、山崎君とのこれまでの歩みを語ってくれました。

山崎君はこの春のリーグ戦から本格的にレギュラーとして試合に出場し、力強いスイングと勝負強さでチームトップの打率3割4分に2本塁打、8打点をマーク。リーグ優勝に大きく貢献し、指名打者としてベストナインのタイトルを手にしました。

今日はプロ注目の明治大・森下暢仁投手から4打数1安打。試合後、山崎君は今日の結果に対して「いままで対戦した投手で一番よかったです。まっすぐの質とカットボールの精度の高さがすごくて、投球ミスがほぼありませんでした。悔しいです。終盤になるにつれて球の勢いが落ちてきて、3打席目、4打席目はタイミングが合ってきたので1本打てましたが、1打席目からしっかり打てるように力をつけたいです」。森下投手に対しての率直な感想と悔しさを口にしました。

真剣な言葉に、思わず鳥肌が

この春からレギュラーとして試合に出始めて、全国の舞台を経験したことについて聞くと「今後の野球人生がかかってる、という強い思いでこの春に臨みました。本当にこの春にかけてました。プロ野球選手になりたいですし、リーグ戦で絶対にタイトルも取ってやろうと思っていたので、勝負強さを発揮できてよかったです。ただ、調子の波が激しいときもあったので、そういうときにどう対処していくかが今後の課題になりました。試合に出させていただいて、監督さんにも感謝しています。この経験は絶対に秋につなげたい。チームの力になれるように、もっと勝負強いバッターになって秋に帰ってきます」と、強い思いを口にしました。

もっともっと、強いバッターに……。山崎君の熱い思いに鳥肌が立ちました!

僕も今回初めてお仕事で現場の選手の話を聞かせていただいてますが、鳥肌が立つ瞬間が何度もあります。

山崎君の気持ちが表れたこの言葉にも、僕は心を打たれました。人生をかけて競技に打ち込んでる選手の言葉は、とにかく強くて重みがあって「かっこいいな。頑張ってほしいな」と心の底から思います。こんなにも熱くなれる大切な時間を、いま彼らは生きてます。そんなことを思いました。

高校のころから苦楽をともにしてきた三輪君に対しては「もちろん高校からもそうですが、東洋に入学したとき、何もわからない僕に三輪さんはいろんなことを教えてくれました。本当に感謝しかないです。絶対にいいところを見せたいです!」。山崎君はサラッと言いましたが、しっかり気持ちが込められていました。目を見て話を聞いたら、それは分かります。

三輪くんは「基輝には一番頑張ってほしい。たぶん僕は卒業してからも基輝のことはずっと見続けると思います。僕は次の秋でラストです。またリーグ戦で優勝して、今度は日本一になりたい。そのために僕も学生コーチとして必死に頑張ります。」。熱くて強い思いを口にしました。

「タイトルを取る。プロに行く。」

そして僕は、最後に少し意地悪な質問を山崎くんに投げかけてしまいました。

「プロ野球選手になるために、三輪くんにいいところ見せるために、何か自分で継続してることはあるの?」

僕は山崎君の話を聞いてるうちに「この子めちゃくちゃ熱い思いを持って毎日野球してるんやろな。どこまで必死に野球のために取り組んでるのかな?」と、僕も熱くなってしまって、思わず聞いてしまったのです。

山崎くんはまっすぐな目で答えました。

「ありますよ! 僕、野球ノートを毎日書いてるんですけど、その日の最後の行に『タイトルを取る。プロに行く。』って必ず書いてます。毎日書いたら絶対できるんですよ!」

そう答える山崎くんが、それはもうドキッとするぐらい、めちゃくちゃかっこよかったです。また鳥肌が立ちました。

今日は負けてしまいましたが、夢半ばで選手としての道を自らの選択で断ち切り、チームに貢献することを選んだ熱い学生コーチ・三輪和輝君と、人生をかけて日々野球に取り組む熱い気持ちを持った選手・山崎基輝君。同じ高校・大学でさまざまな思いや時間を共有する二人の関係に、僕もまた熱くなりました。

偶然なのか必然なのか分かりませんが、二人とも名前に「輝」という漢字が! 残りの学生生活とこれからの人生が二人にとって輝かしいものになることを心から祈ってます。

ちょっとクサい表現かもしれませんが、僕は本気でそう思ってます。

ありがとう、三輪君。
ありがとう、山崎君。
お互い熱く生きていこう!!!

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野球応援団長・笠川真一朗コラム

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