7月12日にサッカー定期戦・早慶クラシコ 「自分ごと化」してもらうための奮闘
7月12日、神奈川・等々力陸上競技場で早稲田大学と慶應義塾大学のサッカーの定期戦「早慶クラシコ」がある。今年で70回目を迎える定期戦は大勢の裏方に支えられ、一大イベントとなっている。現役の学生が中心の「早慶生委員会」に加え、3年前からは、OBやOGも名を連ねる「ユニサカ」も始動。大会を盛り上げるための準備は約9カ月前に始まる。では実際にどんな取り組みをしているのか。慶應義塾体育会ソッカー部マネージャー兼ユニサカ理事として奮闘中の奥山大(まさる、4年、八戸)さんに話をうかがった。
準備は9カ月前から
――そもそも「早慶クラシコ」とはどういう定期戦なのでしょうか。
奥山:早稲田大学ア式蹴球部と慶應義塾体育会ソッカー部が互いのプライドをかけてぶつかります。これまでは37勝14敗18分けで、早稲田が勝ち越しています。2002年からは女子部の試合も始まりました。第1回から国立競技場で開催されてきたんですけど、国立競技場の改修工事が始まったため、2014年の第65回からは等々力陸上競技場に舞台を移しました。高校生以下は無料なので、家族連れの方にも楽しんでもらえるよう、子ども向けのイベントやハーフタイムショーも展開しますよ。昨年は1万7872人の方に来場していただきました。今年は7月12日の平日開催で、女子部は午後3時30分、男子部は午後6時30分にキックオフです。
――早慶クラシコの運営は何人くらいで担い、いつごろから準備を始めるのでしょうか。
奥山:運営に関わるのは、約30人の早慶生委員会にユニサカのメンバーを加えて90人程度です。早慶生委員会が任意団体で協賛金を得られないため、法人格として立ち上がったユニサカがサポートしています。その年のコンセプトや方向性に関してのミーティングを始めるのが9カ月前くらいで、資金集めや集客のために具体的に動き始めるのは半年前くらいです。定期戦に出場する選手や関係者だけでなく、これまでサッカーに関心を抱いたことがない人を含めて、より多くの人を巻き込みたい思いがあるので、そのためにどんなチーム編成をとり、どんな施策を重ねていけばいいかをブレストします。
――運営組織内にはどんな役割を担うチームがあるのでしょうか。
奥山:集客、広報、協賛、チケッティング、スカパー、コンコース、クリエイティブ、クラシコパーク、ハーフタイムライブ、地域貢献の10チームと、プラスαで、当日のオペレーションとしての団体席誘導や控室管理、駐車場の警備や予算管理の担当者も決めていきます。
―ーまず集客チームはどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。
奥山:集客チームは20人くらいのメンバーで構成されてて、多くの人に早慶クラシコの魅力を伝えて、興味を持ってくれたみなさんとの関係性を高めていくことがミッションです。集客チームのメンバーには早慶を目指す高校生もいるんですけど、それぞれが自分の周りにいる人たちに、早慶クラシコを通じて提供できるバリューを考えるところからスタートします。例えば高校生たちにとっては、早慶クラシコへの参加が将来を考えるきっかけになることもあるし、OBやOGにとっては明日への活力になることもあると思う。より多くの人たちに開かれた大学スポーツをつくることが目的の一つなので、ペルソナ設定においてはターゲットを絞ることではなく、「さまざまなストーリーをつくること」を意識しています。
――今年は平日開催ですが、集客に関してとくに工夫したことはありますか。
奥山:集客チームとはまた別に、チケッティング業務を担うチームがあるんですけど、より多くの動線を準備する必要があるんじゃないかと考えました。チケット購入のストレスを減らすことも大切ですよね。それまでは「チケットぴあ」だけで販売してたんですけど、今年からは「ローソンチケット」や「クイックチケット」でも購入できるよう、各販売会社と話を進めてきました。
SNSを活用し、早慶クラシコを発信
――そうなると、早慶クラシコの魅力を伝える取り組みも必要ですよね。広報チームはどんな役割を担うのでしょうか。
奥山:もっとも重要な役割は露出の拡大です。SNSなどを活用して早慶クラシコの認知度を上げていくこと。早慶両校の学生に応援マネージャーとして参加してもらったり、選手のキャラクターが伝わる動画を作ったりするだけでなく、両校の学生がバトルを繰り広げる「俺たちの早慶戦」なんて企画も立ち上げたり。動画の企画、撮影、投稿、投稿の振り返りまでの一連のPDCAを回しながら、どういった投稿にどれくらいのインプレッションがあったかを確認して、次の企画を立ち上げるということを続けてます。集客においても言えることですけど、一つひとつの企画を通して、両校のサッカー部員だけのものだった早慶クラシコが、より多くの人にとって「自分ごと化」されていくことが狙いです。
――「自分ごと化」とSNSは親和性がありそうですよね。
奥山:そうですね。SNSは主にTwitterとInstagramを活用してます。Twitterはリツイートや投票機能があって拡散性が高いツールで、Instagramは世界観の構築につながるツールなので、主にブランディングの部分で活用してます。
――協賛というともはや会社というようなイメージですけど、具体的にはどのようなことをするのでしょうか。
奥山:今年はかなり難航してるんですけど、「広告価値の最大化」を意識しながらマッチしそうな企業を探しては、メールを送るなどの営業を重ねてきました。BtoCの会社だと会場でのサンプリングを通じて広告効果を上げることができるし、BtoBなら早慶生のリクルーティングに生かすことができますから。ただそれだけだと企業も限られてしまいます。だから協賛に関しても、早慶クラシコを「自分ごと化」する人を増やすことが有益だと実感しています。応援マネージャーやOBなどステークホルダーが増えるほど、企業がリーチしたい層と重なる確率が高くなるので、多くの人を巻き込んでいくことができますからね。
みんなを巻き込んだエンターテインメントの場に
――そのほか、どのような業務がありますか。
奥山:例えばスカパーチームは番組編成を考えることから携わり、当日のオペレーションにも関与します。コンコースは来場者の満足度を高めるため、当日会場で販売するものを考えることが主な業務です。クリエイティブは広告代理店と相談しながらポスターの制作などを進めるだけでなく、コンコースと連動して当日発信できるコンテンツについても考えていきます。
――会場限定のグッズも学生たちが主体になって考えるんですね。当日発信できるコンテンツにはどんなものがあるんでしょうか。
奥山:会場内のクラシコパークでは、早慶のチアやバンドサークルなど、ほかの部やサークルにも参加してもらい、エンターテインメントの場として大勢の人に楽しんでもらう広場にします。体育会系の学生と非体育会系の学生って授業以外ではなかなか接点がありません。だから早慶クラシコを通してお互いを知り、化学反応を起こせたらいいなと考えてます。ハーフライムにはライブもしますよ。エンターテインメントの場として楽しんでもらうため、今年は女子部のハーフタイムにはラストアイドル、男子部はファンキー加藤さんのライブがあります。ハーフタイムライブチームは、学生たちが企画書を作り、自分たちで交渉して決めました。
――今年ならではの取り組みもあるんでしょうか。
奥山:6月2日に早慶クラシコの会場である武蔵小杉で開催された「コスギんピック」というスポーツイベントとコラボしました。ボランティアスタッフとして参加しただけじゃなくて、ダンシング玉入れや綱引きなどにも参加したんですよ 。スポーツで地域を盛り上げたいという思いからです。早慶クラシコを地域住民に愛されるイベントに昇華させていきたいので、これからも地域貢献には力を入れたいですね。
――早慶クラシコ開催まで約1週間となりました。今大会も含め、これから早慶クラシコがどのような大会に育ってくれたらいいと思いますか。
奥山:コンテンツを毎年アップデートしていっても疲弊するし、連続性がないので、内容を進化させていくのではなく、ひとつの文化として確立したものにしていってほしいなと僕は思います。より多くの人に早慶クラシコの価値を届けることを大切にしていってほしい。多くの人が「自分ごと化」できるイベントとして、毎年たくさんの人に楽しんでほしいし、会場を毎年満員にさせ続けてほしいですね。