アメリカ留学で意識を変え、世界一へ 元中央大ソングリーディング部 大嶋夏実 3
大学時代にスポーツに打ちこんだ方に当時を振り返っていただく連載「私の4years.」。中央大ソングリーディング部「Garnet Girls」で活動していた大嶋夏実さん(25)の3回目は、3年生になってチアの本場・アメリカへ留学して得たもの、そしてついにつかんだタイトルについてです。
ただ順位を求めるチアになっていた
「記憶より記録に残りたい」という思いから「1位を目指そう」と決めて練習や大会に臨みましたが、なかなか1位がとれないことが続きました。
ある大会の結果発表。「第2位」と発表された直後、強く握っていたメンバーの手を離し、自分でもわかるほどに口角を下げ、まったく喜ぶこともなくうつむいていました。大会後のミーティングで、後輩から言われました。
「先輩たちは2位だとまったく喜ばないんですね」
ハッとしました。確かに思い返せば、入賞しただけで大喜びだった時期もあったにも関わらず、自分たちの代になってからは、練習の時点から「1位以外に意味はない」と思い続け、言い続けてました。チアとはいえ、競技。勝負。それでいい、と思っていたところに言われたひとこと。1位は取れなくても強くなりつつある、ただ何かが足りない。チアの本質ってなんだろう。勝つことなんだろうか。ただ順位を求めるチアってどうなんだろうか。はじめてそんな思いを抱きました。
チアの本場、アメリカへのチャレンジ
ちょうどそんな時期のことでした。アメリカでスポーツジャーナリストをされている方から連絡を頂きました。「世界最高峰のチアリーダーに興味はないか」と。当時大学2年生だった私は競技チアしか知らなかったので、当初、世界最高峰のチアリーダーが何を指しているのか、まったくイメージがわきませんでした。お話を伺ってみると、アメリカのプロフットボールのNFLや、プロバスケのNBAのチアリーダーは、ロールモデル。すなわちみんなのお手本になるような人物である、と。容姿、技術はもちろんのこと、内面が美しく、しっかりとした考え方やビジョンを持つ人でないとやっていけない、とのことでした。
確かに、勝負がしたいなら、チアでなくほかの競技でもいい。そのときの直感で、「世界最高峰のチアリーダーを肌で感じてみたい、その世界を見てみたい」と思ったのです。同時に、自身がチアに対して本当に求めるものとは何なのだろうか、そして今後どのようにチアに関わっていきたいのか、そんなことを考えるようになったタイミングでもあったので、「本場アメリカで体験してこよう」と決めました。お金もツテもすべもない。でも、何かしないといけないと思ったのです。
まずは夏の新人戦の期間、アメリカにチア留学に行きたいとチームメイトに申し出ました。部員も増え、レギュラー争いも激しくなってきた中での休部でした。だから背中を押してくれたチームメイトのためにも、何かモノにしてこようと、アメリカのチアダンスチームや大学の部のSNSアカウントを探しては「1カ月間一緒に練習させてほしい」とのメッセージを送りました。そして、短期留学の奨学金を申請、却下されるのを繰り返す怒涛の日々。準備が整ったらすぐに渡米の日となりました。
トップレベルのチアに圧倒されて
限られた1カ月の滞在期間の中で私の組んだプランは、NFL観戦に加え、NFLとNBAチアリーダーたちの選抜メンバーが集まり、開催されるラスベガスでのダンスキャンプの視察。そしてNBA「Phoenix Suns Dancers」のアリゾナでのトライアウト受験でした。まずはダンスキャンプ。会場に入ったときからトップレベルのチアリーダーのオーラに圧倒され、ダンスのスキルが高いのはもちろん、チームの名前を背負うプライドや自信がひしひしと伝わってきました。
そのキャンプではプロの振付師にいくつかの振りを入れてもらい、限られた時間で自分のものにしていく、そしてチームカラーに落とし込み、さらに自分のものにしていく、かつ相手も引き立たせ、見どころをつくる。そんなさまざまな能力を肌で感じました。合間には懇親パーティーがあり、チーム同士で懇親する中でも相手チームに対する尊敬、親しみの心が垣間見え、尊い人柄にも圧倒されました。
最終日のパフォーマンス発表は1日で入れ込んだ振り付けをアウトプットするだけでなく、その場の雰囲気づくりや、歓声の受けどころをつくることまでも配慮が行き届いてました。まさにエンターテイメント、SHOWそのもの。心から楽しかったのを覚えてます。
留学の終盤、Sunsのトライアウトは自分の中では経験のためでしたが、周りは1年間準備をしてきた強い思いを持つ人たちばかり。一人ひとりが「受験者」という心構えではなく「エンターティナー」であり、フリーパフォーマンスや即興の場で自信をもって挑む姿に奮い立たされました。ライバル、でもこの場をともにした人は仲間。そんな会場の雰囲気がまさに、チアリーダーらしく感じました。私は翌日のsemi final(3次審査)まで進み、翌日のインタビュー(面接)審査で素直に「留学のため、経験のために来ました」と伝え、合宿には残らずに帰国。ただ、もっとさまざまな覚悟を持って能動的に勝負をかけてみたかった、次回チャレンジする際には、最後までやりとげたい。そう感じる貴重な経験となりました。
パワー、パッション、人柄、信念。たくさんのことを学んだこの留学が、のちに何倍もの人脈に発展し、夢につながることになるとは当時、想像もしていませんでした。この挑戦をしたからこそのご縁、そして出逢いをくださった方々には感謝でいっぱいです。
ついに全国1位、そして世界選手権へ
帰国後、自分の中で決めたことはあらゆる面で「チームの盛り上げ役になる」ということ。1位を目指す目標は変えず、どうしてもつらくなってしまう練習をいかに盛り上げ、レギュラー以外のメンバーにもチームを心から愛してもらえるように、楽しんでもらえるように。それができれば、人を楽しませることができるはず。その思いで取り組みました。
そして臨んだ全国大会。励まし合い、信じる。チームのために個々ができることを出し尽くしました。大会前の練習は週6回。痛み止めを飲んだ日もありました。それでも大きな目標のため、そして全員で笑うため。それぞれが「できる」「やる」「やってやる」と言いながら練習し、もうこれ以上は何もできない、という状態で大会を迎えました。
そしてついに「第1位」の発表を受けられました。念願の世界選手権出場の切符も手にし、3年生の最後に世界大会を迎えることになりました。もちろん目指すは「世界一」。ただここからは勝ち負けよりも、いかに楽しむか、楽しませるか。いままで支えてくれた方々への感謝を込め、一日一日を惜しみながら練習に臨みました。もう何もやり残したことはなく、渡米から現地での練習、そして本番の演技。とにかく一瞬一瞬をかみしめました。
結果はなんと、世界で「第1位」! 順位はもちろんですが、つらいこと、悩み、すべて乗り越えて全員でチームを信じてこられたこと。うれしくて言葉にならない気持ちで2015年1月、人生で初めてキラキラの世界一のメダルを胸にしました。あのステージからの景色は、一生忘れません。
そして3年生が終わり、いよいよ就職活動が始まります。