陸上・駅伝

連載:私の4years.

組織の力で箱根駅伝初V 青学大陸上部元主務・髙木聖也5

初優勝した箱根駅伝の応援慰労会で、部員全員の記念撮影(本人提供)

青山学院大学が箱根駅伝で初優勝したときの主務、髙木聖也さんの「私の4years.」。連載5回目は、箱根駅伝に優勝したからこそ得られたもの、についてです。

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駅伝は団体競技と実感

2015年の正月、青山学院大学は第91回箱根駅伝で初優勝を果たし、私自身も「箱根駅伝優勝チームの主務になる」という目標を達成しました。優勝できたのは絶妙な区間配置をされた原監督の采配があってこそ。そして5区で大会MVPに選ばれる走りを披露し、「3代目山の神」と呼ばれるようになった神野大地(現・セルソース)をはじめ、厳しい部内選考を勝ち抜いた10人全員が最高の走りをしてくれた結果です。

初の箱根駅伝総合優勝を果たし、胴上げされる原監督(代表撮影)

でも、それだけではありません。チーム目標を「優勝」とするための意識改革や、いわゆる「青トレ」の導入、「目標管理ミーティング」のアップデート……。本気で優勝を目指すための取り組みを、組織として1年間継続してきた結果でもあります。本番前日まで部内の競争が続き、年末の16人登録メンバー以外の学内タイムトライアルで自己ベストが続出する(しかも競技を引退する4年生がトップ)など、当時を振り返ると、本当にいいチーム状態だったと思います。駅伝は走っているときは一人なので、個人競技の延長のようにも思えますが、この結果を受けて、組織力の勝負であり、団体競技だなと改めて思いました。

二つの言葉を意識して

最高の形で終えられた学生ラストイヤー。あの1年間、私の心にとくに響き、常に意識していた言葉が二つあります。一つ目は、原監督がおっしゃっていた「当たり前、常識を疑え」というものです。すべての大学体育会には多くの伝統があると思います。その中には先輩方が築かれてきた素晴らしい伝統も多々あるでしょう。しかし、昔ながらの行き過ぎた上下関係はもちろん、トレーニングやアフターケアなどの競技に直結する部分でも、見直すべき「伝統」はたくさんあるはずです。そこを「伝統だからしょうがない」と片づけてしまうのか、自分のため、チーム、後輩のために改善するのかが、組織として成長できるかどうかの分かれ目だと思います。

大学スポーツは部員の約4分の1が毎年入れ替わり、主力選手の半分以上が卒業によっていなくなるという、プロスポーツの世界ではそう起こりえないことが珍しくない世界です。プロスポーツの世界以上に勝ち続けるのが簡単ではない中で、青山学院大学が初優勝以降の三大駅伝で13戦9勝という圧倒的な成績を残せているのは、原監督が「当たり前や常識を疑い、正しいことを選択できる」学生を育て、組織をつくり上げたことも一因なのではないでしょうか。

素晴らしいチームメイトに恵まれたことも、もちろん優勝の大きな要因のひとつです(本人提供)

そしてもう一つが、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんがおっしゃってくれた「一つの取り組み、改善は0.1%の効果しかないかもしれないけど、その数を増やし、継続することで大きな成果となる」という言葉です。競技スポーツの世界において、翌日に即効果が出るような取り組みは、ほとんどありません。それでも科学的見地の導入も進み、限りなく正しく、行うべきとされている取り組みが増えているのも事実です。

正しければ、小さなことでもやってみる

ただし、いままでの取り組みを変える、いままでやっていなかったことを始めるのは、選手が多少なりともストレスを感じる可能性もありますし、場合によっては反発もあるかもしれません。私たちマネージャーの立場からすると現状維持を選択しがちですが、中野さんの言葉を聞いた時に「”正しい”ことであれば、たとえ小さなことでも採り入れよう」と決心しました。

そんな原監督や中野さんの言葉に後押しされ、私達の代では、ほとんど選手任せであった栄養学をチームとして初めて取り組んだこともそうですし、「青トレ」の導入や、「目標管理ミーティング」のアップデートなども行うことができました。

私も当時意識できていたわけではありませんが、現役の大学生アスリートやマネージャー、主務の皆さんには、自分のため、チーム、後輩たちのためにも、どんなに小さなことでも良いので、新しい「良い伝統」を築くことを意識してチームと携わってほしいと思います。自分が所属する組織の改善点を見つけ、何かを変える、新しいことを提案する、実行するということは、勇気やエネルギーが必要です。でもそれが必ず将来に役立つ経験となりますし、より充実した4年間を送れることになると思います。

私の4years.

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