大学アメフト

連載:いけ!! 理系アスリート

言い訳せず、時間をうまく使えば勉強もアメフトもできる 立命館大理工学部・長尾健登(下)

今シーズン初戦の試合後、同じスペシャリストの仲間と話してリラックス(撮影・安本夏望)

連載「いけ!! 理系アスリート」の第19弾は、立命館大学理工学部機械工学科4回生でアメリカンフットボール部の長尾健登(けんと、立命館宇治)です。4年ぶりの甲子園ボウル出場と学生日本一を目指して、パンターというポジションでリーグ戦を戦っています。2回の連載の後編は、大学での研究内容や昨シーズンの大一番に残した悔いについてです。

アメフト部で成績トップのパント職人 立命館大理工学部・長尾健登(上)

普段は孤独なスペシャリスト、3回生からスターター

スポーツで一花咲かせたい。長尾はその思いでアメフトを続ける。立命館宇治高ではWR(ワイドレシーバー)兼キッカーとして試合に出ていたが、チームを勝たせる選手にはなれなかった。大学のアメフト部にはキッカーとして入った。1回生のときからユニフォームを着られたが、出番はなかった。「このままでは高校と同じになってしまう」と、焦った。キッカーでなく、攻撃権を放棄するときに蹴るパントキックのスペシャリストであるパンターなら、上級生が1人しかいない。そんな計算も働いて、パンターで勝負することにした。

アメフトにおけるキッカーやパンターといったスペシャリストは孤独なものだ。日々の練習で、チーム全体で取り組むキッキングゲームの時間はごくわずか。それ以外はずっとフィールドの隅でボールを蹴っているだけ。しかも立命のスペシャリストたちはオフェンスやディフェンスのメンバーが練習しているフィールドより少し高台にあるラグビー場で蹴っている。ほとんどの時間、同じフィールド内にもいないのだ。

京大戦でパントを蹴る長尾。安定感のあるキックには定評がある(撮影・松尾誠悟)

上級生のパンターは確かに1人だけだったが、長尾の2学年上で関西学生リーグベスト11にも選ばれるような実力の持ち主だったため、最初の2年間は、ほどんど出番がなかった。「出たい気持ちはもちろんありましたし、いつ任されてもいいように、という気持ちで準備はしてました」。そして3回生からスターターとなった。

学部の成績上位2%がもらう奨学金を受けた

理工学部機械工学科の長尾にとって数学と力学は基本中の基本。ここを理解できないと、その先には進めない。「授業中にどれだけ理解できるかですね」。分からないことは一つひとつ、その場で教授や仲間に聞き、疑問点をなくしていった。だから同じ学科の友だちも結構多いそうだ。テスト1週間前からのアメフト部のオフ期間は自習室にこもり、黙々と勉強する。成績評価値の「GPA」は累積で4.19。学部の成績上位2%に入らないともらえない「西園寺記念奨学金」を受けた。30万円の“ボーナス”は、卒業旅行のために貯金してある。

4回生の今年は研究も忙しい。2回生から週1回、実験の進め方を学び、3回生になると本格的に研究が始まった。長尾は材料について学ぶ研究室に所属し、金属チタンの構造解析に取り組んでいる。平日はほとんど研究室にこもり、金属チタンを切ったり、伸ばしたり、焼いたりしている。金属の組織から、主に強度を解析する。結果が出るまでの時間が長い。
3回生の後期までに卒業に必要な単位は取り終え、いまは研究だけ。「みんなが授業に行ってる間に研究してます。4回生はアメフトに集中したかったんで」。計画にぬかりはない。

試合前の練習ではキッカーのキックもやりながら集中力を高める(撮影・篠原大輔)

「言い訳」や「妥協」という言葉が嫌いだ。「体育会だから」「理系だから」と特別扱いされたくはなかった。高い学費を払ってくれている両親のためにも、充実した大学生活を送りたかった。長尾は言う。「スポーツを言い訳にして、勉強ができないなんていうのはやめた方がいい。勉強ができなくてスポーツをあきらめるのももったいないじゃないですか。理系だからと言って言い訳もしたくなかった。必ず両方やるべきとは思わないですが、時間の使い方次第で勉強もスポーツもやれます」。一つひとつの言葉が重い。

関学にリベンジして、最後に日本一を

立命は昨年12月2日、甲子園ボウルの西日本代表決定戦で関学に19-17で負けた。試合残り2秒から、逆転のフィールドゴール(FG)を決められた。
最後の関学のオフェンスが始まる前、長尾がパントを蹴っている。自陣30ydからの立命の第4ダウン5yd。これ以上なく緊迫した場面で、長尾のパントは伸びなかった。関学は自陣36ydからオフェンスを始められ、パスを通してFG成功まで持っていった。

「あのパントが最終的な結果に直結しました。試合のあとは責任を感じて、何も考えられませんでした」と振り返る。スペシャリストの背負うものの大きさを痛感した試合になった。いまの立命の選手に甲子園ボウルを経験した者はいない。この状況を続かせる訳にはいかない。「高校でも日本一を目指してたけど、とれなかった。僕はスポーツではいい結果を残せてないんです。最後に日本一をとりたい」。パンサーズのみんなと甲子園ボウルに出る。そして勝つ。そのとき長尾の文武両道が完結する。

車椅子ソフトで、またプレーヤーになれた 慶應理工学部・小貫怜央(上)
機械工学科の研究と練習を両立し、ラストシーズンの日本一にかける(撮影・松尾誠悟)

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