筑波大・相馬崇史 唯一の箱根経験者がまっすぐな心で目指すリベンジ
26年ぶりに箱根駅伝に出る筑波大には、一人だけ本戦出場経験者がいる。相馬崇史(3年、佐久長聖)は前回、関東学生連合チームで5区を走り、1時間14分45秒で区間13位相当だった。今シーズン、筑波大は3年生が中心になってチームの“改革”に動いたが、弘山勉監督は「相馬が箱根を走ったことがスタート地点だった」と口にした。
学生連合で走った5区でやり返すための準備
筑波大の選手が箱根路を駆けたのは12年ぶりのこと。それまでにも学連のメンバーに入る選手はいたが、出場の機会には恵まれなかった。箱根駅伝で相馬の心に深く刻まれたのは、想像以上の迫力と途切れることのない声援だった。ただ、レースには悔しさが残った。
「あまり調子がよくなったのが正直なところなんです。序盤からキツくて、登りのペースが上がりませんでした。それでも急に傾斜がキツくなる宮ノ下からは粘れましたし、16kmを越えてからの下りでペースを切り替えられたのはよかったと思います」
今回も5区を走って、リベンジしたいと考えている。日々の練習では全体的なベースアップに加え、宮ノ下からの坂に余力を持って臨めるよう、ほかのメンバーよりも登りのインターバル走を多く取り入れてきた。前回と気象状況が同じであれば「どんなに失敗しても2分は速く走れるだろう」という感覚があり、1時間12分台前半、あわよくば11分台を狙う。シード権獲得を目指すチームのためにも、区間5位に食い込みたいという思いがある。
さまざまなバックグラウンドを持つ仲間たち
筑波大は今年、10000mの平均タイムで出場権が得られる6月の全日本大学駅伝関東地区選考会に出られなかった。「本気じゃないなら、俺はいらないよね」。そう弘山監督に投げかけられたことをきっかけに、3年生が中心になって本気で箱根駅伝を目指す改革が始まった。相馬も箱根駅伝から得たものを積極的に後輩たちに話し、チームのモチベーションを高めてきた。「箱根駅伝はそれほど素晴らしいものでしたし、そんなレースをみんなと走りたいと思ったんです」と相馬は言う。
相馬は高校時代、強豪の佐久長聖で駅伝部の主将を務めていた。最後の全国高校駅伝は6区を走って区間2位。チームは準優勝を果たした。陸上に情熱を注ぐ一方で、進学クラスで勉強もしっかりやってきた相馬にとって、筑波大は目指すべき場所に感じられたという。将来的にはマラソンに挑戦したいと考えていたため、マラソン選手の指導実績もある弘山監督に学べるのも魅力的だった。
陸上一色だった高校時代の部の雰囲気とは異なり、筑波大では医者を志す川瀬宙夢(5年、刈谷)や都市開発を学んでいる猿橋拓己(3年、桐光学園)ら、さまざまなバックグラウンドを持つ選手がいる。「いろんな考え方の人がいるなと思いましたし、そういう方々に出会えたことは刺激的でした」と相馬。レベルの高い集団で鍛えられてきた自分ができることとして、相馬自身は積極的にチームに向けて発信している。
「押しつけることはしたくない。でも、人生と言ったら大げさですけど、大学生活すべてを注いで箱根に向かうとはどういうことなのか。どういった食事をとるのか、夜遅くまで携帯を触ってないか。そういう日常的な心構えなんかをちょくちょく言ってます」
「いまは目の前の箱根一本」
入学した当時、箱根駅伝に出場できる可能性は微々たるものだと感じていたが、「それを変えてやる」という思いで走ってきた。1年生のときにも学連メンバーに選ばれたが、けがもあって本戦には出られなかった。2年生のときにやっと出場のチャンスがやってきた。その準備段階に後悔がある。「予選会が終わってすぐに練習を開始してしまって、ピークをうまく合わせられませんでした」。予選会からどうやって本戦に向けて調整をしたらいいのか。その経験をいま、ほかのチームメイトにも伝えている。
高校時代はマラソンへの思いが確かにあった。しかし、いまは将来のことを聞かれても、そうは答えない。
「いまは箱根一本です。大きな目標を立てて、そこに向けて中期的な目標をすえるのも大切だと思うんですけど、僕のいままでの人生を考えると、目の前のことにがむしゃらになった方がいいなと思ったんです。世界を知ってる弘山監督の考え方は斬新で、的確な指導をしてくれます。不器用なんでなかなか実践できてないんですけど、それが少しずつ形になって成長できてます。いまは弘山監督を信じて、箱根に向かって突き進んでいきたいです」
弘山監督は相馬について「まっすぐな子で、競技に対して非常にストイック。とにかく負けず嫌い」と評する。筑波大の襷(たすき)をつける初めての箱根駅伝。相馬はまっすぐな思いのまま、仲間とともに突き進む。