11シーズンぶり王者の早稲田 すべてを終えて【齋藤・岸岡・幸重 ホンネ鼎談3完】
新たな国立競技場に11シーズンぶりの「荒ぶる」が響き渡った。1月11日、ラグビーの大学選手権決勝で早稲田大(関東対抗戦2位)が明治大(同1位)と対戦し、45-35で41日前のリベンジを果たした。
4years.編集部では、早稲田の3人の4年生にこの1年を振り返ってもらいました。決勝ですべてのキックを成功させた主将のSH齋藤直人(桐蔭学園)、冷静にゲームメイクし続けたSO岸岡智樹(東海大仰星)、接点やセットプレーで体を張った副将のFL幸重天(ゆきしげ・たかし、大分舞鶴)。全3回でお届けする鼎談の最終回は、対抗戦で明治に完敗してからの40日間、そして学生としてのラストシーズンが終わって感じることについてです。
12月1日の完敗で早稲田は生まれ変わった
――やはり大学選手権に向けて、対抗戦の早明戦の敗戦(7-36)がチームに与えた影響は大きかったんでしょうか?
幸重:対抗戦の早明戦は自分たちでも「やれるんじゃない?」「何だかんだ言って早明戦は競るでしょう?」というぐらいの感じだったんですけど、あんなに「早く終わってほしい」と思う試合は初めてで……。叩きのめされて、ショックでした。
齋藤:あの明治戦のあとに委員会(主将や副将、3年生も含む委員らリーダー陣と、コーチ陣の話し合い)で、コーチ陣から「後悔しないようにしろ」とか「互いに思ってることがあるなら言え」と言われて、そこから変わったね。
岸岡:いい転機になりました!
齋藤:コーチ陣に言われたことも大きかったけど、一番は負けじゃないかな。身に染みて変わらないといけないと思いました。
岸岡:ショックだった。だけど、あれが中途半端な負けだったら、今シーズンは優勝できてませんでした。
齋藤:僕も、ボロ負けだったからよかったと思ってます。
齋藤:あと、委員会で権丈(けんじょう、太郎)コーチに、最後に「一番、体現するのはお前じゃないか?」と言われました。
岸岡:みんな変わったし、認識が変わった。熱量もかなり変わった。
幸重:相良(南海夫)監督と権丈コーチに「FW陣でもう一回頑張ろう」と、近くの飲み屋で「FW会」を開いてもらいました。あと、早明戦で負けた次の練習で、権丈コーチにカツを入れられました。フルコンタクトの3対3の練習で、FWはみんな泣いてたし、権丈コーチも泣いてました。「ここ(接点)でお前らは負けたんだよ!」って権丈コーチに言われて。これがFWの中で大きかったです。
岸岡:年度初めに接点の練習をやって認識が変わったけど、時間が経つと薄くなってきてました。1度負けてからが、一番コンタクト練習をやったんじゃない?
齋藤:日大戦の前だよね。当たりも走り込みもやった。対抗戦2位で(大学選手権は)シードだったんで、そのアドバンテージを生かすために、めちゃくちゃやった。あの1週間は疲れました。
岸岡:「ほかのチームは絶対やってないだろう」「勝てるならやらないといけない」という気持ちでした。
齋藤:早明戦のあとに「明治が2オフ(2日間のオフ)なら、うちらは練習だ!」ってやってたね。よくよく考えたら「シーズン中の練習は甘かった」ってことになり、「やっぱりこれだ!」ってしっくりきて、キツい練習に慣れてきました。
幸重:あの負け方だから、キツい練習にも文句は言えなかった。やらないといけないと思ってたし、アタック&ディフェンスも激しくなった。
決勝の相手、舞台に「ドラマみたいだね」
――そして大学選手権では準々決勝の日大戦、準決勝の天理戦に快勝して決勝に進みました。決勝に対しても自信が芽生えていたのではないですか?
岸岡:自信はあったことはあったけど、決勝の相手は1度、大敗している明治だったから……。
齋藤:相良監督が「去年のチームを超える」と言い続けてて、超えられました。(準決勝止まりだった昨シーズンを超えられて)少し満足してる部分もあったけど、全員、対抗戦でボロ負けした明治に勝ちたいと思ってたはずです。
岸岡:新国立競技場での決勝という、いいシナリオを用意してもらいました。
幸重:みんなで「ドラマみたいだね」って話してたよね。
――そして見事、明治に45-35とリベンジを果たし、11シーズンぶりに大学選手権で優勝。最後は部員全員で、優勝したときだけにしか歌えない第2部歌「荒ぶる」を歌いました。
齋藤:夏合宿で練習するんですけど、そのときとは全然違いました。自分は(荒ぶるが)好きで、1、2年生のときに聞いてたので覚えてました。気持ちよかったです! ただただ思いっきり歌ったね。
岸岡:初めて歌うのとほぼ一緒。おのおの聞いてたかもしれないけど、試合前は練習してませんでした。でも僕自身は泣いてて、あまり歌えなかった(苦笑)。
幸重:夏合宿の練習は恥ずかしながらボソボソ歌うという感じだったけど、優勝した後に歌うのは最高だった! コーチの権丈さん、豊田(将万)さんの代が歌う姿がYouTubeにアップされてて、「どんな気分なんやろう」と思ってました。自分が歌う場にいることが信じられなかったです!
岸岡:いろいろあったけど、本当に最高の結果になりました。正直、まだ実感はないけど、国立競技場を1周するとき、ファンのみなさんが選手一人ひとりに声かけてくれて「50周くらい歩ける!」と思った(笑)。
齋藤:あの1周は本当に気持ちよかった!
いまだから言える同期への思い
――改めて早稲田ラグビーでの4年間を振り返ると?
幸重:この2人とは違って試合に出られるかどうか分からない状態で入部して、1年生のときは苦しい思いをして、まさかここまでこられるとは思ってませんでした。最後に優勝して、4年間のすべてが本当に報われました。これで後悔なく、大学ラグビー、そして第一線でのラグビー人生を終えられて幸せです。
岸岡:1年生のときから試合に出させてもらえたけど、本当に早稲田の10番は重いものがありました。少し低迷した時期もありましたし、「お前らの代で優勝してほしい」というプレッシャーも受けましたけど、4年間それを背負ってきて、すごいSHと一緒にプレーできたこともそうですけど、最終学年の自分たちの代で、素晴らしい舞台で、明治というライバルにいい結果を出せたのが誇りです。
齋藤:自分も1年生から試合に出させてもらって期待されてきたので「結果を出さないといけない」と思ってて……。結局、優勝できてよかったです。尊敬してる桐蔭学園の先輩の(HO堀越)康介さん(現サントリー)から「自分の選んだ道で結果を出せてよかったね」とメールをいただきました。4年間努力して、自分の選んだ道で最後に優勝できて、早稲田を選んでよかった!
――最後にそれぞれ4年間一緒に戦ってきた2人へのメッセージをお願いします。
幸重:(齋藤)直人は最高のキャプテンでした。選手としても人としても尊敬できます。直人でなければ、優勝までたどりつけなかったと思います。岸岡は「こんなSOと一生やることはない」と思えるほどすごかった。大学選手権になってから「みんな腹を割って話そう」ということで「できるならタックルいってほしい」と言ったら、しっかりやってくれました。「ありがとう」と言いたいです。
岸岡:直人とはハーフ団としてもそうですけど、キャプテンとして本当に感謝してます。ほとんどの試合で助けてもらったし、直人がいたのでラグビー選手として頑張れました。(幸重)天(たかし)は、少し気が弱いところもありましたけど、いつも背中で示してくれて頼もしかったです!
齋藤:天には副将として自分の足りない部分をカバーしてもらえたし、自分がパフォーマンス出せずに発言しづらいときにもカバーしてくれて。けがをしたときもチームを引っ張ってくれました。岸岡とは1年生からハーフ団を組んでて、いろいろと学ばせてもらえたし、成長させてもらえました。(齋藤の桐蔭学園と岸岡の東海大仰星が対戦した)花園の決勝も1月11日で、4年後の大学選手権の決勝も同じ1月11日で、今度は同じ早稲田で優勝できたのは、何かの縁なのかなと思います。