野球

連載: プロが語る4years.

大学時代に冷静さと情熱のバランスが大事と気づいた 阪神タイガース・近本光司3

近本は関学の中心選手として、ラストイヤーも活躍を期待されていた(写真提供・関学スポーツ編集部)

「プロが語る4years.」の第7弾はプロ野球・阪神タイガースの近本光司(25)。4回の連載の3回目です。関西学院大学でのラストイヤーに、プロ1年目から活躍できた秘密がありました。

関学で年下の「師匠」と出会い、上向いた野球人生 阪神タイガース・近本光司2

4回生春の開幕戦で味わった歓喜と苦悶

大学4年間で忘れられない試合を尋ねられると、近本は迷わず4回生の春のシーズン開幕戦を挙げた。その一戦から4年が経とうとしているいまでも、はっきりとさまざまなシーンを覚えている。それほど印象深い試合だった。

2016年4月2日、立命館大との一戦だ。立命館はその前年に春秋連覇を果たしていた。先発はエースの東(あずま)克樹(現・横浜DeNAベイスターズ)だ。関学は中内洸太(現・王子)が好投。8回まで1失点にとどめていた。だが、関学打線は大学球界屈指の左ピッチャー東に苦しめられ、8回を終えて無安打で無得点。開幕戦のノーヒットノーランが現実味を帯びてきた9回裏に、ドラマが待っていた。関学は代打の選手が初ヒットを放つと、1番の近本もレフト前ヒットで出塁。犠打などで2死二、三塁とし、4番の一打で劇的なサヨナラ勝ち。近本がサヨナラのホームを踏むと、仲間たちがベンチを飛び出してきた。まもなく近本は歓喜の輪から外れ、苦悶(くもん)の表情を浮かべていた。

近本はサヨナラの走者となり、本塁に生還し雄叫びをあげた(写真提供・関学スポーツ編集部)

「肘がめちゃくちゃ痛かったんですよ。それで病院に行ったら骨折してました。そこで春のリーグ戦が終わりました。チームに対しては申し訳なかったです」。2打席目にセカンドゴロを打ったときに一塁ベースのところで転倒。こけないように地面に右腕をついたときに肘の骨が折れた。その痛みをこらえながら試合に出ていたのだ。結局、開幕カードで立命館から勝ち点は奪えず、残りの試合で近本が打席に立つことはなかった。チームは3シーズン連続の4位に終わった。

歓喜の輪から外れ、痛みを訴える近本(右から2番目、写真提供・関学スポーツ編集部)

立命館から劇的な勝利を挙げたことはもちろん、そこでけがをしたことも、この試合を忘れられない一因だ。最後の秋のリーグ戦には間に合い、立命館の東から大学2本目となるホームランも放った。

最後も骨折、戦列を離れて大学野球が終わった

しかし、最後までけががつきまとう。近畿大との1回戦があった16年10月4日。右腕にデッドボールを受け、尺骨を折った。そこから戦列復帰を目指して必死にリハビリに取り組んだ。「純粋に『野球やりたい』っていうだけでしたね。復活とか、もう一回ベストナインとかいう気持ちはなかったです。けがもじん帯とかそっちの方がややこしいって思ったんで、骨折でよかった、これぐらいで済んだなと思いましたね」。結局、近本はそのあと2度と関学のユニホームを着て打席に立つことはなかった。

4年秋にもまたけがをしてしまった。振り返ると大学生活はけがばかりだった(写真提供・関学スポーツ編集部)

「大学といえばけが、っていうのは自分の中で思ってますね」。まさにけがに悩まされ続けた4年間だった。プロ1年目はけがなく終わったが、一流と言われる選手たちと接する中で、けがに対する考えが変わった。

「(けがしても)やろうと思ったらできてたと思うんですよね。プロに入ってから、そう思いました。鳥谷(敬)さんと話をしてると、骨折しても『出ないといけない』って思ったら出られるんだなって。そこまで大学のときには情熱がなかったというか、『やりたい』という気持ちがなかったんだと思います。『あっ痛い』『骨折した』『休みます』で終わってました。4回生の秋の(リーグ戦最終節にあった)関関戦も、『出ろ』って言われてたら、たぶん出られたと思うんですよね」

4年間で身についた「俯瞰する力」

大学時代はどんな4年間だったかと聞いてみると「野球が成長したかと言われたら、あんま成長してないと思います。でも、人間的に成長したと思いますね」と返ってきた。そこに、早くもプロで発揮している強さの秘密が詰まっている。

「たぶん、そのころからです。なんていうか、熱くなれないですね。どっかで俯瞰(ふかん)的に見ることや冷静に判断することって大事じゃないですか。そういう風に思ったんで、『もっとやろうぜ!』っていう熱さがなくなりました」。本を読むのが好きだという近本は、棋士の羽生善治さんの著書を読み、将棋の対局の流れであったり、大局観を野球や自分自身に置き換えて考えるようになった。さらに連載の2回目に登場した、当時の学生コーチだった植松弘樹さん(現・関西学院大職員)の影響も大きい。

常に冷静に俯瞰して見る。大学時代の4年間で培われた力だ(撮影・藤井みさ)

「アイツは『気持ちで野球をするな。でも気持ちがないと行動ができない』っていう考えやった。たしかにそうやなと、僕は思います。だから、僕はどっかで冷静な部分があるんやと思います。だって絶対に『打ちたい、打ちたい』ってなったときは打てないんで。でも、打ちたいっていう気持ちがないと打とうとしない。そこの強弱というか、冷静さと情熱が大事なのかなと思いますね」

こういった見方や冷静な判断が、昨年のルーキーらしからぬ活躍につながったのだろう。プロで生き抜くメンタリティーを、大学時代に築き上げていたのだ。ただ、あまりに一歩引いたところからの発言が多いのが気になり、インタビューの終盤に思わず聞いた。野球は好きなんですか?

「野球は好きなんですよ。僕は俯瞰的すぎる部分が多いんですかね?」

壁のなかった1年目、目指すは2年連続盗塁王と日本一 阪神タイガース・近本光司4完

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