野球

連載:いけ!! 理系アスリート

春の打率1割台から秋は首位打者、目標がぶれないのが大事 京大農学部・北野嘉一(下)

昨年の春は2割も打てなかったが、秋は一転首位打者に輝いた(すべて撮影・安本夏望)

連載「いけ!! 理系アスリート」の第25弾は、京都大学農学部食料・環境経済学科3回生で硬式野球部の北野嘉一(よしかつ、北野)です。関西学生野球連盟に所属する京大は昨秋のシーズン、1982年の新リーグ発足以降で最高の4位になりました。北野は首位打者になってベストナインに輝き、チームの躍進を支えました。4回生になって迎える新シーズンは主将を務めます。2回の連載の後編は、京大での3年間とラストイヤーについてです。 

有機野菜の認証制度に興味あり

北野が学ぶ農学部の食料・環境経済学科は経済学の側面が強い。いまは二つのゼミに所属し、4回生になるこの春からは農村でのフィールドワークや卒業論文の準備で忙しくなる。研究の内容はまだ確定していないが、「有機野菜の認証制度に興味があります。生産者と消費者でどういった意識の差があるのか。複数の認証制度があるのはなぜか、という疑問と絡めていきたいです」と話す。ゼミではグループ討論やディベートをすることが多い。「みんな、ディベートの能力が高いです。めっちゃ考えてて、自分はそこまでできてないって思うことばかりです」 

4回生になると農村でのフィールドワークが待っている

「上には上がいるなあ」。そう感じたのは勉強だけではない。野球部に入る前は「正直、しょぼいと思ってました。すぐレギュラーになれて、4年間レギュラーだと思ってたんです」と笑う。現実は甘くなかった。1学年上に、北野と同じセカンドを守る前主将の西拓樹(たくな、西京)がいたこともあって、焦りがあった。「周りにいたのがすごい人ばかりで、ヤバいと思ってました。その中でやっていくことに対して、不安と劣等感を持ちましたね」と振り返る。「すぐレギュラー」なんて、とんでもなかった。バットが金属から木製に変わり、なかなかヒットが打てない。それでも先輩にいろいろ教えてもらいながら、木のバットでも打てるようになっていった。そのうちチーム事情もあって西がショートに回った。2回生の春のシーズンから、北野が京大のセカンドを守ることになった。

 人生で初めて外野を守ったシーズンに打撃開花

ベストナインに選ばれるのは、大学野球での一つの目標だった。昨年の春は、その目標が頭にあって力んでしまい、打率が1割台と散々だった。そしての春シーズンが終わった直後、内野に比べて外野の選手層が薄かったこともあり、外野手へのコンバートを告げられた。人生で初めて外野を守ることになった。 

「エラーしたとしても初心者やし、バッティングに集中しよ」。戸惑いもあったが、思いっきり開き直ってみた。春のスイングを見直して、大きく構えて打つことを意識した。そして迎えた秋のリーグ戦。春は2割に届かなかった打率が急上昇し、4割5厘で首位打者に。初めて外野を守ったリーグ戦でベストナインだ。「何とか3割に乗ればいいなと思って臨んだ結果でした。チームも史上初の4位になって、歴史を変えられてよかったです」とニンマリ。西もショートでベストナインとなり、ふたりの受賞が初の4位に花を添えた。 

初の4位になった昨年度のチーム。北野(最前列の右から3人目)は右肩上がりの集団を目指す

新主将としてあえて「リーグ優勝」に目標設定

主将として挑む新シーズンの開幕が近づいてきている。「自分が上に立って発信したい」という思いから、主将に立候補した。チームの目標は「リーグ優勝」だ。「Aクラス入り」や「3位」といった目標にした方がいいという意見もあった。だが、北野の考えは違った。「4位って京大の歴史の中ではすごいですけど、たかが4位です。勝負ごとですから一番を目指したいですし、上を目指さないと右肩上がりにならないと思います。こっから先はリーグ優勝を目標にしないと成長はないと思いました」 

新主将になり、目標をリーグ優勝に定めた

昨年の秋、4位のかかったリーグ最終戦の同志社戦には、多くのOBやファンがスタンドに詰めかけた。「スタンドを見て、やっててよかったなって思いました。どんなタイトルやヒットよりも、スタンドのみなさんが喜んでくれたことがうれしかった」 

京大は最下位が定位置で、選手たちは多かれ少なかれ劣等感を抱いていた。ようやく喜ばしくない定位置を抜け出せた。北野は、京大生だからこそできることがあると強調する。「勉強の成功体験を野球につなげていくのが大事です。その成功体験を生かせるのが野球です」 

あと1年、このグラウンドで仲間と高め合う

勉強も野球も、決めた目標を追い求める

中学3年間はチームに所属せず、父と二人で朝5時から練習。北野高校3年生のとき、どん底の成績から京大を目指して現役で合格した。そして京大3回生のとき、1割台の打率だった春から一転、秋は首位打者とベストナインにまで駆け上がった。「京大合格、野球のベストナインという目標を立てて、いい結果が出ました。思うような結果が出ない時期は通過点。勉強も野球も目標が決してぶれないことが肝心なのは、一緒だと思います」 

反骨心のある主将に引っ張られ、京大野球部が新たな歴史を刻みにいく。

いけ!! 理系アスリート

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