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連載:私の元気メシ

早稲田大競走部の“第二寮” 狭山ヶ丘「マリーナビレッジ」の目にもおいしい料理たち

「ガッツリプレート」(税別800円)をはじめ、「マリーナビレッジ」には学生たちのために考えられたメニューがいろいろ(すべて撮影・松永早弥香)

「うち(寮)の食堂のように使ってます」と早稲田大の鈴木創士(そうし、2年、浜松日体)が言うのが、西武池袋線「狭山ヶ丘駅」から徒歩3分のところにあるカフェレストラン「マリーナビレッジ」だ。 「なぎさ亭」という愛称でも知られている。お店ができたのは2016年12月。早稲田大学所沢キャンパスや早稲田の競走部の寮からも近いため、学生たちは自然と集まってきた。そうなると、自然とメニューも「学生たちが食べたいもの」になっていく。

「ペピタライオン」は慶應ラガーマンの強い味方 300gの特盛パスタに魅惑の納豆

カヌー日本代表も経験し、本場・英国で見た夢

「マリーナビレッジ」は朝9時30分から夕方4時までの営業で、夜は予約制。日曜祝日は定休日となっている。店名のイメージ通り、海を感じさせるカラフルな外観。中はもっとカラフルだ。色とりどりの空間に、鮮やかな看板たち。これらはすべて、店主の石井弘さん(67)がデザインしたものだ。

狭山ヶ丘駅から徒歩3分。お店の前には広い駐車場もある

石井さんの親が建築業をしていたこともあり、学生時代は日大理工学部で都市計画を学んでいた。その傍ら、カヌーのスラロームで日本一を経験している。大学4年生のときに世界選手権に出場し、翌年の1976年モントリオールオリンピックの候補選手になったものの、出場しようとしていた種目が突然、中止になってしまった。

石井さんはカヌーへの情熱を灯したまま、本場・イギリスに単身で渡り、当時の世界チャンピオン艇を制作していた会社で働いていた。そのときに住んでいた町の名前がマリーナビレッジだ。「もう40年前ですかね。運河沿いにパブがあって、夜になったらみんな集まって、一緒に少し黒いビールを飲んで。それで『いつかはこんなお店をやってみたいな』って思ってたんです」

カヌーのシーズンが終われば帰国し、映画やテレビ番組などの制作会社で絵コンテを描いていた。その一方で、カヌーの日本代表監督やオリンピックの強化コーチなどを歴任。地元・埼玉県所沢市では市議会議員も務めた。その間もイギリスで芽生えた夢は忘れていなかった。いろんな仕事に一つひとつ区切りをつけ、16年12月、ついにお店をオープンした。

石井さんが過ごした英マリーナビレッジが、このお店の原点だ
石井さんのこだわりが詰まったバーカウンター。夜は予約制だ

永山博基をきっかけに競走部のメンバーが続々来店

石井さんにお話を聞いていたそのとき、「大木(皓太)さんが忘れていった傘、ここに置かせてもらっていいですか?」と早稲田大学競走部の半澤黎斗(れいと、3年、学法石川)がお店を訪ねてきた。「競走部の子は毎日って言っていいぐらい来てくれますよ。なんなら自転車置いていってますから」と石井さん。競走部の学生では、昨年早稲田を卒業した永山博基(現・住友電工)が最初だったという。石井さんはそのときのことをいまでもよく覚えている。

「18年の3月ですかね。永山くんは朝に一人でコーヒーを飲んでました。彼の前にもスキー部や陸上部のいろんな選手が来てくれてはいましたよ。でも、彼らがどんな学生でどんな思いでいるのかうかがい知ることがなかった。だから声をかけたんです。するといまどきの若者だなって思いながら、スポーツにかけるアツいものがあって、考え方もしっかりしているって思ったんですよね」

2階には勉強ができるスペースもある

石井さんと永山の世間話はその後も続き、その後、永山は後輩たちをお店に連れてくるようになったという。店内にはスタンド付きの席もあり、ここで勉強もできる。「時間があるときにここに来て勉強する子もいるし、試験前とかに必死になってやってる子もいる。大変そうだなって思いながら見てますよ」と石井さん。

「おいしい」は見た目から

学生たちを応援する気持ちはメニューにも表れている。「ガッツリプレート」(800円、価格はすべて税別)はそのネーミング通りのビジュアルだ。日によってメニューは変わるが、この日はチーズインハンバーグにメンチカツ、クリームコロッケ、焼き肉、パスタ、ポテト、ブロッコリーが鉄板の上にぎゅっと詰まっていた。そこにミニサラダと五穀米。さらにミニデザートにコーヒーまでが付いている。「学生や地域住人のみなさんが気軽に利用できるように」という気持ちを込めた価格設定だ。

「ガッツリプレート」はその日によってメニューが微妙に変わる
「ガッツリプレート」にはミニデザートとコーヒーも付いてくる

石井さんのメニューの基本は「自分が本当においしいと思えるもの」。選手たちに料理を提供する際、アスリートらしい料理も考えた。しかし「質も量も含め、満足できることがやっぱり料理には欠かせないのでは」と思うようになり、メニューを再考。そこで制作会社時代に鍛えた絵心をメニュー表でも生かす。「見た目もおいしそうに演出してあげないとね」と言う石井さんが描くメニュー表は、ただ見ているだけでも楽しくなってくる。

学生には一人ひとり、自分のお気に入りのメニューがある。例えば新主将の吉田匠(4年、洛南)なら「ハワイアンロコモコ丼」(850円)。「10回中8回は食べてるね」と石井さんは言う。今春卒業した真柄光佑は勝負のレースの前に「カツカレー(リッチバーション)」(1200円)を食べていたという。連日訪れる学生もいるため、飽きないように少しずつメニューを変化させている。

メニューはすべて石井さんがデザイン。すでにもう、おいしそうだ

卒業生たちがそれぞれの思いを看板に

店内の目立つところある看板には、競走部のメンバーたちの寄せ書きと写真が貼られている。最初に書いたのが永山、そして同期で主将だった清水歓太(現・SUBARU)だった。二人の送別会もここでやったという。いまも二人はマリーナビレッジに来ることがあるそうだ。「大学や寮の方には顔を出さないのに、うちには来てくれるということもあったそうですよ。それで後輩たちがうちに来て、ここで話をして帰るみたいな感じですね」

「卒業が確定したら」を、看板にメッセージを書ける条件としている。いまのところ競走部のみになっているが、「来年は自分もここに書くから」と宣言している早稲田の短距離選手もいるそうだ。

石井さんはカヌーの日本代表監督をしていたとき、選手に対して「国体か日本選手権でメダルをとったら、俺の車の好きなところにメッセージを書いていいぞ」と言っていた。そのため選手たちの中には、「いつかは自分も書くんだ」と石井さんに言ってくる人もいたそうだ。マリーナビレッジの看板は、その感覚に近いところなんだろう。

いまはまだ、19年卒と20年卒の選手たちのメッセージだけ

看板の残りスペースも限られている。「だったらまた、彼らが書けるように別の看板でも用意しますよ」と石井さんは微笑んだ。学生たちが過ごした確かな記録が、マリーナビレッジに積もっていく。

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