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連載:私の元気メシ

斎藤佑樹も田中浩康も試合前にペロリ! 閉店の神宮名物うどんは早大野球部もパワー源

昨春、解説者デビューし水明亭に寄った田中浩康さん(本人提供)

明治神宮野球場(東京都新宿区霞ケ丘町)内のうどん・そばの老舗「水明亭」が店を閉じることになった。東京六大学野球などで学生時代に慣れ親しんだ選手も数多い。12月6日のプロ野球ヤクルトのファン感謝デーが最後の営業となり、惜しむ声はあちこちから届いている。

神宮名物の閉店、悲しむ声 高校野球芸人の「命のそば」
閉店の水明亭「金出し、継ごうかと」カンニング竹山さん

「水明亭」が12月6日で閉店

かつお節と昆布のあの香りを嗅ぐたびに、当時の甘酸っぱい思い出がよみがえってくる。神宮球場のネット裏通路。選手ロッカー近くに店を構える「水明亭」のうどんは、早稲田大学野球部の「勝負メシ」だった。十数年前に部員だった私にとっても特別な味だ。

野球担当記者も愛した水明亭のうどん(撮影・早大時代「うどん当番」を手伝った小俣勇貴)

東京六大学リーグ戦の試合前、チーム全員で必ず食べていたのが水明亭のうどんだった。消化がよく、エネルギー源になるからだ。ウォーミングアップを終え、ミーティングで先発メンバーが発表され、サインを確認しあった直後。控え選手の1年生数人がロッカーに人数分のうどんを運んでくる。大切な役目のため、気の利く1年生が「うどん当番」に任命されることが多かった。

うどんでスイッチオン

具はワカメとネギだけの、シンプルなかけうどん。選手はそれぞれの席に座り、黙ってすする。高まった気持ちをいったん落ち着かせる時間でもあった。食べ終えると、「さあ、いくぞ」と自然とスイッチが入りグラウンドへ。勝っても負けても、打っても三振しても4年間続いた。

このしきたりがいつ始まったのかは不明だが、早大野球部の伝統の一つでもあった。だからこそ、OBも「水明亭」には思い入れが強い。

早大時代の田中浩康(左、DeNA2軍コーチ)と鳥谷敬(ロッテ)=撮影・朝日新聞社

大学4年間でリーグ通算102安打を記録し、卒業後にヤクルトに進んだ田中浩康(DeNA2軍コーチ)は「大学時代があったから、プロ入り後も試合前に欠かさずうどんを食べていた。うどんは、まさに僕にとっての『パワーメシ』だった」と振り返る。ヤクルト時代は水明亭の店主からよく声をかけてもらったといい、「練習終わりに、いつも『がんばってね』と。励ましてもらいました」

斎藤は「気づいたら汁まで全部飲み干し」て31勝

大学時代にリーグ通算31勝を挙げた斎藤佑樹(日本ハム)は「試合前に食べるのが楽しみだった。緊張しているはずなのに、おいしくて、気づいたら汁までぜんぶ飲み干していました」と懐かしむ。1年春から活躍した右腕のパワーの源でもあった。

早大時代の山口裕起記者(左)と斎藤佑樹(日本ハム)=山口記者提供

コロナ禍の影響で8月に開催された今年の東京六大学春季リーグ戦。数年ぶりの大学野球取材で神宮球場に行くと、ネット裏の狭い通路を制服姿の後輩たちがすり足気味にゆっくりと歩いていた。両手にカップを持ち、そこから湯気が立っている。今も続いているのか――。一塁側ロッカールームへ向かうその姿を見て、少しほっこりした気持ちになった。

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