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連載:私の元気メシ

明大野球部を知り尽くす「ホルモンなかむら」、日々の練習から熱烈応援

メニューはほぼすべて500円。(左から)「ハラミ」と「豚ロース」はとくに人気(提供写真以外、すべて撮影・松永早弥香)

明治大学硬式野球部の寮が、調布市からいまの府中市に移転したのは約14年前のこと。そこから少し経った2009年8月、 同市にオープンした「ホルモンなかむら」の歴史は、明大野球部とともにあると言っても過言ではない。オープン当初、当時のOBとマネージャーが来店したことを皮切りに、先輩から後輩へと受け継がれることとなったのだ。

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明大グラウンドに通い、選手一人ひとりをしっかり応援

京王線「府中駅」北口から徒歩1分。オレンジで「肉!」と書かれた看板が見えたら、そこがホルモンなかむらだ。通常は夕方5時から翌1時までの夜のみで、日曜日も営業している(不定休)。現在は東京都からの緊急事態宣言を受け、20時までの時短営業に切り替えている。

「リーグ戦開催期間はみんな野球に集中しているから、なかなか(お店で)顔を見られなくなるけど、ならせば週1くらいのペースで通ってくれることになるかも」。そう語るのは、同店店主の中村友和さん(43)。ホルモン酒場 焼酎家「わ」で修業を積んだ後、この地で独立した。

「ホルモンなかむら」の看板は「肉!」の看板と一体化

学生たちは平日の練習後や週末に来店する。2~3人の少人数のこともあれば5人以上のこともあるというが、中村さんはそれぞれの選手の顔だけでなくプレーまで把握している。一人ひとりにもっとも響くよう言葉を選びながら、「こないだのあのヒットはよかったね」などと声をかけるのだとか。

仕事もあるため全部の試合を見に行くことはできないが、明大のグラウンドで行われるオープン戦はほぼ“皆勤賞”。見ていて感じたことは、直接選手たちに伝えるようにしている。

「練習試合となると見ている人も少ないけど、声をかけられたことで『見てくれている人がいるんだ』って分かるだけでも、モチベーションが上がる選手はいると思うんですよね。僕は学生時代に野球をやっていたとはいえ素人だけど、それでも、『あの場面ではよく仕留めたな!』とか『いい肩しているな』とか感じることはたくさんあるから、褒(ほ)められるところはできるだけ褒めてあげたいんですよ」

シーズンが終わるころ、中村さんは地域の商店街の仲間でチームを組み、ソフトボールの大会を明大野球部としている。昨年、そのメンバーと作ったのがこのTシャツ。赤色なのは森下暢仁がカープに決まったから

令和初の全日本選手権、明治の優勝を信じての秘策

お店を訪れたらぜひ、トイレにも行っていただきたい。明大野球ファンにはたまらない空間になっているからだ。その一つが、昨年6月の全日本大学選手権で明大が1981年以来38年ぶり6度目の優勝を果たした瞬間の写真だ。この写真は中村さんが撮ったもの。神宮球場に行ける日は数える程度だが、この日だけは運よく立ち会えた。

「この写真は誰も撮ってないと思うんですよ」と中村さん。明大スタンドにいる選手も全員入る構図で胴上げの瞬間を撮りたくて、あえて相手チームの佛教大スタンドにいた。周りはみな、佛教大を熱烈に応援する人たち。中村さんは明大の勝利を信じ、静かにその瞬間を待っていた。パネルにした写真には昨シーズンのメンバーたちのサインが並ぶ。真っ先にサインをしたのが、この大会で最高殊勲選手賞と最優秀投手賞に選ばれた森下暢仁(まさと、現・広島東洋カープ)だった。

「明大スタンドも一緒に優勝の瞬間を」と、中村さんが狙って撮った一枚

撮影を始めたのは4年ほど前。「柳(裕也、現・中日ドラゴンズ)のころから撮っていたよ」と中村さん。最近では明大グラウンドでやるオープン戦などでも、撮影しては選手たちにLINEなどで写真を送っている。

メニューはほぼすべて500円! キャンプに差し入れも

店内のメニューのほとんどは500円(税別)となっている。学生には「ハラミ」と「豚ロース」がとくに人気で、新鮮なホルモンを堪能できる「ハツ刺し」もオススメだ。このお店ならではなのが「スペ玉ごはん(スペシャル卵かけご飯)」。ご飯に卵と見た目はシンプルながら、ふわっと香ってくるゴマ油がなんともにくい。「いい卵を使っています。この味を家で再現するってのがなかなかできないんですよね」と中村さん。シメにもってこいのメニューではあるが、このスペ玉ごはんを片手に焼き肉をほおばるというのもいい組み合わせだ。

「スペ玉ごはん」は特注の卵とゴマ油がポイント

明大野球部は年に2度、キャンプをしている。いまから5年前、当時は明大の学生だった宮内和也(現・NTT東日本)と石井元(現・Honda熊本)が「キャンプ中もスペ玉ごはんを食べたい!」と熱望。だったらと、中村さんはふたりの希望に応え、スペ玉ごはんの特注卵をいまもキャンプに差し入れしている。

そんな親しさもあってか、過去には「ここでバイトをしたい」と願い出る野球部員もいた。「みんなを応援したい気持ちが大きかったから、一時は採用したい人数を超過したこともあったけど、それでも『明治枠』は死守していたね」と笑顔を見せる。ちなみに、初めて「明治枠」で採用されたのは田中勇次(現・JR西日本)。今年1月に監督に就任した田中武宏さんの息子だ。いまでもお店の常連さんからは、当時の明治枠の学生は礼儀正しく好青年ばっかりだったという話になるそうだ。

その他にも記憶に残っている選手は多い。店内の壁には所狭しと歴代部員のサインが並んでいる。誰のサインかを一つひとつ教えてくれる中村さんも、なんだかうれしそうに見えた。

店内にはたくさんのサイン。明大卒の野球選手が多い中、よく見るとラグビーのリーチマイケルのサインもある

ドラフト会議の当日、21時からは明大指定席に

ドラフト会議の日には明大野球部のために席を確保するのが当たり前。早い時間に来店したお客さんには対応するものの、「今日だけ、ボックス席は21時まででお願いします」と頭を下げる。昨年は森下と伊勢大夢(ひろむ)の運命がかかっていた。お店にはプロ行きが決まっても決まらなくても、例年、監督とともに来てくれる。

いつもは料理を提供するだけだったが、このときはサプライズとしてふたりのためにケーキを用意。「でも無事に指名されるかは分からないから」と、ケーキはユニフォーム姿のふたりをデザインしたものをオーダー。「今日1日お疲れ様。」のメッセージを添えておいた。森下は広島東洋カープから1位指名を、伊勢は横浜DeNAベイスターズから3位指名を受け、新しい道が開けた。ふたりの喜ぶ姿が忘れられない中村さんは、今年もサプライズを用意するつもりだと言う。

森下(右)と伊勢、運命のドラフト会議を終え、中村さんからのサプライズケーキを前にして(写真は中村さん提供)

今シーズンは新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れ、春季リーグは5月下旬に開幕日を延期し、1試合総当たりの方式に変更となった。選手たちはいま、練習ができない状況となっているが、中村さんは今シーズンに向けて動き始めたときからずっと選手たち見守っている。

お店には田中監督たちをはじめとしたコーチ陣も訪れる。「もちろん冗談ですけど、田中監督は『中村さん、どんなメンバーでいくのがいいと思う?』などと声をかけてくれることもありました。だから『僕だったら……』と答えたりもして(笑)。でもほんと、ずっと見てきていますからね。スタメンの8割ぐらい当たる自信はありますよ」とにやり。

あふれんばかりの愛情を選手たちに注いできた。そんな中村さんもまた、今シーズンの開幕を心待ちにしている。

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