学生日本一を目指してきた京大 原点「ラクロスを楽しむ」に戻り、飛躍を誓う
新型コロナウイルス感染拡大防止を鑑みて、日本ラクロス協会は6月30日に今シーズンの全国大会(全日本選手権、全日本大学選手権、全日本クラブ選手権)を開催しないと発表した。公式戦として「2020年特別大会」を9月以降に各地区で開催できるよう、学生スタッフも一緒になって調整を重ねている。しかし大学によって状況は異なり、8月現在、練習を再開できていないチームも少なくない。とくに学生日本一を目指していたチームにとっては、目指す場所がなくなった悔しさ、もどかしさは大きなものだろう。各チームの現状を、ラストイヤーにかけてきた4年生の思いを中心に紹介していく。
京都大学男子ラクロス部は2018年、全日本大学選手権決勝で早稲田大学と対戦し、準優勝だった。「日本一は絶対に達成できない目標ではない」という思いを強くし、翌19年こそは学生日本一を目指していたが、関西決勝で関西学院大学に敗れ、全国に届かなかった。「選手層の薄さが結果となって試合に出てしまった」と今シーズン主将を務める西山直輝(4年、堀川)は振り返る。
東北大にあって、京大になかったもの
昨年、京大は本来であればその場に立っていたはずの全日本大学選手権準決勝を応援席から見ていた。関西代表・関学の相手は東北代表・東北大学。その試合で東北大は躍動し、7-5で勝利。過去10大会、男子決勝はすべて関東勢と関西勢という中での快挙だった。
喜びに沸く東北大を見ながら、西山は素直に羨(うらや)ましいと思った。「東北大の取り組みとか試合の雰囲気とか、OBからどんな風に応援されているのかを見て、すごく僕らにないものがあると思いました」。京大は勝つことを第一に考えるあまり、楽しむことができなくなっているように感じていた。その一方で東北大はまずは楽しむというマインドを持っている選手が多く、それがチームの力になっているのが伝わった。
新体制に移行するにあたり、チームは歴代の先輩たちが目指してきた「学生日本一」を貫くことを決めた。その一方で、あえて新しい取り組みは意識しなかった。「もちろん勝ちにはこだわらないといけない。でも、チームの雰囲気を悪くして楽しめなくなる人も出てくるよりは、全員で楽しんでやろうということの方が本質的なんじゃないかなと思ったんです」。ラクロスを楽しむという原点回帰を目指した。
そんな中でコロナの影響を受け、全国大会中止が決定した。京大もほとんど活動ができていない状況だったため、中止になる可能性もあるだろうとは思っていた。「本当にないんだなってゆっくり実感していきました。切り替えは早かったけど、あまり考えないようにしよう、次のことを考えよう、とごまかそうとしていた。ショックってなるとチームが止まってしまうので」と西山は振り返る。
無記名のオンライン目安箱も生かし
今年は4月の段階から、4年生を中心にオンラインでミーティングを重ねた。今シーズンはどこを終着点にするか、来シーズンに向けて後輩たちにどう残せるか、来年の4年生が日本一に向けて動くために何ができるのか。
まずは今シーズン、なんらかの形で「学生日本一」を表現できるようにしようと決めた。関西地区の「2020年特別大会」について、まだ日程や概要は定まっていない。そのため何試合戦えるかは分からないが、その試合でのプレーや振る舞い方で伝えられることはある。「全日本大学選手権優勝とは別の形でも、学生日本一を示すことはできるのではないかと考えています」と西山は言う。
もう一つ、来シーズンこそ学生日本一のチームになるため、いくつかのプロジェクトを進めている。今の環境下でできることを考え、新たに始めたことのひとつが無記名のオンライン目安箱だ。これまで下級生の声を届ける方法がなかった反省から取り組んだものだが、要望や不満などチームからは忌憚(きたん)のない意見があがり、それらの声をチーム運営の見直しに生かしている。
7月上旬に一度活動を再開できたものの、大学からの要請に基づいて7月下旬から再度活動休止となり、再開の目処はまだ立っていない。学内施設も使えないため、それぞれが限られた環境で個人練習に取り組んでいる。2020年特別大会に出場できるのかもまだ分からないが、「学生日本一」という目標の下、一人ひとりが力を発揮できる舞台を待ち望んでいる。「京大はこれからも、誰も見たことがない戦術やシステム、練習方法などを考え出して、違う大学や他のスポーツ界を驚かせていけたらいいなと思っています」と西山は力を込める。
ラクロスを思考しながら競技に向き合ってきたチームだからこそ、今年の苦境を乗り越え、前に進んでいく。