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連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

駒澤大学主将・若林楽人 手応えを持って開幕、期待せずにはいられない

國学院大戦の二回に3点本塁打を放った駒澤大の若林楽人主将(撮影・すべて笠川真一朗)

4years.野球応援団長の笠川真一朗さんのコラムです。東都大学野球から3回連続の最後を飾るのは、駒澤大学の若林楽人(がくと)主将です。プロ野球志望届を提出した伝統校を引っ張るリードオフマンに迫ります。

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東都大学野球秋季リーグ戦、開幕カードの3試合目で注目したのは見事、3ランホームランを放った駒澤大学の主将、若林楽人(4年、駒大苫小牧)だ。新型コロナウイルスの影響により活動自粛を余儀なくされた駒澤大学野球部。その期間に一度、オンラインで取材を受けてもらった。

背筋の通った姿勢がかっこいい若林

2年春からベンチに入り、試合に出場。秋からは1番、3番と上位打線を任された。同年、大学野球日本代表候補にも選出され、合宿に参加した。当時の気持ちを振り返ると「守備や走塁など自信を持てるとこは自信を持ってプレーできました。全員が全員そんなにすごいと思ったわけじゃないので。ただ、結果を出している人を見ていたら、すごく勉強になりました。あの合宿に参加したのをきっかけにプロへの思いは更に強くなった」と語る。

プロ目指して上京、最終学年を前に開眼

「プロに行きたい」と駒澤大学に進学を決めて北海道から東京に出てきた。しかし東都のレベルは思っていたよりも高かった。「東都は技術がないと活躍できません。どのチームも選手も1試合にかける思いがとにかく強い。リーグ戦を戦う上での体力面や身体の強さも大切で、選手それぞれがトップ選手としての意識を高く持ってるなと感じました」そう語る若林のリーグ戦通算成績はこの秋を迎えるまで169打数33安打、打率は.195と本人も手応えを感じておらず、悔しいシーズンを何度も送ってきた。故障を重ね、満足に試合に出られない時期もあれば、結果が出ない時には「結果が出ないことには絶対に理由がある。その理由を探してどうにかしようとしすぎてズルズルと悪い方へといってしまった」と言う。自分の中で信じられるものがなかったそうだ。

しかし今の若林は違う。変わった姿を見せられる自信があった。「以前はそういう手応えが無かったけど、今はあります。今年1年で『手応えがあるぞ』というところまで持ってこれたのは成長だと感じています。怪我をしやすい身体なので重量を扱うトレーニングより、野球の技術に繋がるトレーニングを取り入れました。初動負荷トレーニングをはじめたり、身体全体を使うトレーニングを取り入れたり、柔軟性や身体の使い方を自分で勉強することで強くなってきたと実感しています」と自信を口にしていた。

笑顔を見せる若林主将

自分と徹底的に向き合ったのは身体のことだけじゃない。もちろん技術や精神的な面でも自分自身を見つめ直すために意識を少しずつ変えた。「打撃の面では振る練習というより、球を見る練習から始めました。頭の位置から考えた。バランスの位置が悪かったので。人間は頭蓋骨が1番重いのでそこが安定しないとうまくハマらなくて。それに気付いてから変わっていきました。打てるバッターの映像を見て、チームメートの中で打ってる人と打ってない人の差を徹底的に見てみるとわかってきたんです。今は『コレだな!近いな!』っていうつかんだものがあるので、気持ちの部分でも変わりました。春先から調子が良くなってきて手応えがあって、大学に入ってから1番自信がありました。今まではバットを強く振ってたんですけど、今は軽く振っても遠くに飛ばすイメージです。投手に対してのアドリブ、対応力も身に付いてオープン戦でも例年より倍ぐらいの数字を叩き出せたことで、確信に変わってきました」

調子が悪いときにズルズルと悪い方へ落ちていくのではなく、自分自身の中で信頼できるものが若林の中に生まれた。もともと勉強熱心だったという。しかし大雑把でやり切れない自分もいたそうだ。結果が出ないことに対して「このままじゃいけない」と向き合うようにもなった。徹底して勉強をして知識を得て、それを実践しながら自分に合うものを継続して取り組んだ。

最後のチャンス、人生も変わるか

若林はそんな変わった姿を春のリーグ戦で見せようと意気込んでいた。しかしその舞台は訪れなかった。そうして迎えた最後の秋。若林にはこの秋しかチャンスがない。少なからず焦りもあるだろう。だが、これまでのリーグ戦とは違う。これまでにない手応えを持って開幕を迎えた。そして開幕戦で見せた一発。僕はやっぱり若林に期待せずにはいられないと思った。

以前の取材で「(プロに)注目されるだけじゃ意味がない。そこに行ってこそ意味がある」と口にしていた。到底、僕には計り知れないほどの重圧や懸ける気持ちがあるだろう。人生が大きく変わるかもしれない秋だから。そしてチームの主将として引っ張っていかないといけない。試合後に「もちろん主将として優勝、日本一という目標は持っていると思うけど、数字の目標や個人としてやり遂げたいことはあるのか」と尋ねると「日本一になろうと思ったらベストナインとかそういう賞や数字を自然に狙わないと、チームは楽に勝てないと思っています。そこを特別に意識はしてませんが、当たり前のようにタイトルを獲らないと日本一にはなれないという意識です」と答えた。

本人は色んなものと戦っているだろうから、僕からわざわざ「頑張って!」なんて決して言えないが、それでも期待してしまう。初めて神宮のグラウンドで見たときから走攻守の3拍子が揃ったプレーに釘付けになってしまったからだ。他の選手と少し違う雰囲気やカリスマ性を感じた。別に大きな理由はない。誰かのファンになる時なんて大体が直感だ。僕は若林を見ているときに「なんや、この子めちゃくちゃかっこいいな」と純粋に感じた。そう思っているのは僕だけじゃなくて、多くの東都ファンが感じていることだろう。最後の秋、若林の得た手応えを僕も信じていたい。そしてこれから先も僕は胸を張って”勝手”に応援させてもらいます。

走攻守でチームを引っ張る若林主将

駒大はチームとしても「今年は練習量を増やしましたし、練習でも実戦でも勝てるチーム・負けないチームというのを徹底してきました。弱い部分を見つめ直して野手も投手もレベルアップしています。チームとしても手応えがあります」と以前、若林は口にしていた。昨年は春も秋も最下位に終わった駒大。初戦は落としたものの、リーグ戦は始まったばかり。勝負はまだまだこれからだ。

野球応援団長・笠川真一朗コラム

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