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連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

セガサミーの本間諒、グラウンドで自分を表現して、社会人野球を盛り上げる

勝負強さがあるセガサミーの本間諒(野球部提供)

4years.野球応援団長の笠川真一朗さんのコラムです。22日に都市対抗野球大会が開幕するのを機に、社会人野球の頂点を目指す個性豊かな3人の選手にお話しを伺いました。まず、立正大学の先輩でもあるセガサミー硬式野球部の本間諒外野手(28)です。

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ここ数年、「社会人野球を盛り上げる!」と選手らがSNSなどで様々な情報や企画を発信している。「知る人ぞ知る」社会人野球の世界を多くの人が楽しめる未来に、選手たちは動く。本間もその一人だ。

身長176cm、体重92kgの鍛えられた身体。グラウンドを元気に明るく力強く駆け回る。打率を残し、本塁打も量産。入社から6年連続で都市対抗野球大会に出場し、2回は補強選手に選ばれた。社会人野球で名をはせている。これまでの都市対抗予選通算本塁打は9本。勝負強さは大学時代から変わらない。勢いに乗せたら止められない。

「下町の暴れん坊」

東京都墨田区出身の本間の異名は「下町の暴れん坊」。関東一高時代は両打ちの捕手として2回の甲子園出場。3年夏には主将を務め、チームをベスト8に導いた。「純粋に甲子園という大きな目標だけで頑張れた。今でも土台は関一の野球。人間的な部分を大切するチーム。カバーリングとか次の塁を狙う姿勢とか緻密な部分を徹底していた。個人の技術であれこれ言われなくて自分の意志で練習できた」と高校時代を振り返る。

立正大学時代の本間(大学野球部提供)

そして「戦国東都で野球をやりたかったし、何よりプロに行きたかった」と立正大学に進んだ。でも当時は2部。本間ほど実績のある選手なら1部の大学に進むことも可能だった。それでも立正大を選んだ理由は「ユニフォームのかっこよさ!」だと言う。本間はいつもグラウンドで派手な服装をしていてた。「服装は自分のモチベーション。どうせやるなら目立ちたい。でも目立つからには結果を出さないと『あいつ格好だけだな』と笑われる。だから今でも道具には目一杯お金をかける」とこだわる。重心の低いどっしりとした大きな構えもかっこいいからそうした。

ポジション変更、両打ちから左打ちに

入学後すぐに外野手にコンバート。正捕手・吉田裕太(千葉ロッテマリーンズ)の壁は厚かった。「外野の打球に慣れてなくて難しかった。両打ちをやめて左に専念したらバランスが取れなくて打てない。これまでと180度変わった感覚で野球をしていた」と悩む時期があった。それでも前向きに練習に取り組み、2年春に5番レフトの座をつかむ。

しかし簡単に結果は出ない。どうしても左だけで打つことに違和感が残った。「結果を出さないと試合に出られない。プロもいけない。結果を求めて焦った。でも色々と試しながら、右で打つ練習をしていると左で打つ時に壁ができている感覚があって。それをやり続けてたら良い形で打席に入れるようになった」と試行錯誤の中できっかけをつかんだ。今でも変わらないルーティンがある。打席に入る前に右で数回スイングしてからボックスに入る。

僕は今でもその仕草を見ると当時を思い出す。どれだけ自分の結果が出なくても、まったく態度に出さない姿だ。むしろ明るい。その姿が好きだった。打てる時も打てない時もひたすらバットを振り続けて、決してつらさを人に見せなかった。だからこそ勝負所で打つ1本に、アグレッシブな守備走塁に感動した。「人に当たっても良い影響を与えない。そういうことは絶対にしない。それが染み付いてる。自分の結果がすべてじゃない。チームが勝つことが1番大切。自分が打てなくても守備走塁でカバーできる」と言う。

そして4年春、チームの2部優勝に大きく貢献。リーグ2位の打率.386、リーグ1位の11打点、7盗塁で最高殊勲選手に輝いた。入れ替え戦で敗れたが、この春の存在感はすさまじいものだった。

この入れ替え戦での負けが社会人野球への道を開いた。「プロしか考えてなかった。自信はあったけど、正直、当時の2部はスカウトが見に来る機会が少なかった。自分の中では入れ替え戦に勝って秋に1部で活躍してプロに行くというシナリオがあった」と当時の思いを語る。このリーグ戦の前年まで2部は神宮第二球場を使用。しかし、老朽化等の背景もあり、対戦校同士のグラウンドを使用するホーム&ビジター方式で行われることに。スカウトもかつてのように神宮から簡単に試合を見に来るのは厳しかったはず。今思うと少し悔しいのが本音だ。プロ入りを諦め、声をかけてもらったセガサミーへ入ることを決める。

「まだ社会人の魅力を知らなかった。正直、プロへの通過点という認識。でもフタを開けたらビックリ。最高だと今は思う」と笑った。

社会人野球は「大人の甲子園」

今の本間にとって社会人野球は「大人の甲子園」、都市対抗は一発勝負のトーナメント。負けたら終わりの緊張感の中でアマチュア最高峰の選手たちが熱く戦う。「その魅力を多くの人に伝えたい」とSNSで発信を続ける。

6年目になる本間は「1年目の都市対抗は足が震えたよ。こんなに緊張する機会はこれからの人生でもないと思う。ここでしか得られない素晴らしい経験。緊張感の中、ガチガチで挑んでも良い結果は出ない。それを痛感して楽しめるようになった。楽しむためには練習量も大切だし、かといってやり過ぎも良くない。1年に1回しかない都市対抗にベストコンディションで挑むためにやることはたくさんある。自分で考えて納得できる練習をするのは楽しい」。この人は今、確実に社会人野球に惹(ひ)き込まれている。これだけ魅力を感じているのだから、それを発信したいという思いは必然的なことだと僕は感じる。

本間は大切にしていることがある。「野球で自分自身を体現すること」だ。納得いかないことが嫌いな本間はチームメートやスタッフに対して物おじせずに発言する。6年目を迎えてチームを引っ張る立場になった。人に物を言うには結果を出さないといけない。自分がダメなら反感を買うし、話を聞き入れてくれない。だからこそ自分自身を突き詰めてまず結果を出す。そのための努力は惜しまない。そんな自分の姿を多くの人に見せる舞台が都市対抗だ。それをモチベーションに変え、過程を積み重ねてきた。

「目立つからには結果を出さないと」(セガサミー野球部提供)

西田真二監督からは「ホームランか三振でいい。思い切って振れ!」と言われている。強打者としての信頼の証だ。「気持ちよく打席に立てる。信頼されている喜びは感じるし、だからこそ甘い球を絶対に逃さない。必ず振る。それがポリシー。自信がある」と力強く言い切った。

今年はどのチームもかける思いが強い都市対抗になる。醍醐(だいご)味である応援団はいない。寂しい気もするが、逆に選手は燃えている。「暗いニュースばかりで業績不振もある。希望退職を募集し、経費削減が行われる中で僕らは野球をやらせてもらっている。こんなに有難いことはない。だから野球で恩返しするしかない。プレーや姿勢で会社や都市対抗を愛するファンの方々に勇気や感動を与えて盛り上げたい。エンターテインメントをつくる会社の野球部としてそこにはこだわりたい」と熱い思いを語った。

「セガサミーの応援は本当にすごい。どのチームにも負けない声援を送ってくれる」
一昨年の都市対抗で4強だったセガサミー。三菱重工神戸・高砂との準決勝。0-1で迎えた最終回の攻撃。本間は打席からスタンドを見て思わずつぶやいた。「この応援やばいわ」と。声援でスタンドがうなっていた。「爆音で地響きが起こっていた」と振り返る。試合に敗れ本間は涙を流した。負けて泣くのはみっともないから好きじゃない。それでも涙が流れたのは応援の力を心の底から感じたからだ。「あんなに応援してくれているのに負けたのが申し訳なくて。でも、それだけじゃない。あんなに応援してくれてることに感動した。だからこそ日本一になって応えたい」

チーム初の日本一、チーム初の10年連続都市対抗出場、社会人ベストナイン、そしてプロ入りもまだ諦めていない。「目標があるからもっと活躍したいと頑張れる。それを忘れたら野球選手として終わる」と目標に向かって突き進む。

学生へのメッセージを求めると、

「プロや社会人で野球を続けるのは本当に一握りの人だけ。技術は大事だけど、それだけじゃない。必死でやる姿勢が大事。必死にやる姿勢は誰かが見てるから。『この技術でやれてんの?』と思うような選手も社会人にいる。でも見てみたら、なぜ社会人まで続けてるかわかる。一生懸命にチームを鼓舞したり、大事な場面で1本打ったり。決して『うまい』だけじゃない。だから必死に練習してグラウンドで自分を表現してほしい。絶対負けないけどね!」

そう挑戦状を送った。いかにも本間らしい。
「やるからには1番を」
そう語る本間は獣王の如く、豪快に王道を突き進む。
目指すは社会人野球の頂点だ。

野球応援団長・笠川真一朗コラム

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